無限の迷宮を抜ける鍵
ギガンテス大大
第1話:光の先の迷宮
放課後の教室は、いつもの静けさに包まれていた。オレンジ色の夕陽が窓から差し込み、天海悠斗は机に突っ伏したままイヤホンを耳に突っ込んだ。流れるのは最近ハマってるバンドの新曲。カバンに教科書を詰めながら、ぼんやり思う。
(今日も特に何もないな。平和でいいけど、ちょっと退屈かも)
その瞬間、視界が真っ白に弾けた。
「――っ!?」
頭を振って目を開けると、そこはもう教室じゃなかった。冷たい石の床、湿った空気、薄暗い空間。壁には苔が生え、遠くで水滴が落ちる音が響く。まるでダンジョンRPGのスタート地点みたいだ。
「な、なんだこれ…?」
悠斗は慌てて立ち上がり、周囲を見回した。目の前には、知らない顔が数人。高校生くらいの少年、黒い服の少女、そして妙に落ち着いた雰囲気の白いローブの女の人。それぞれが混乱した表情で辺りを見回してる。
「ようこそ、無限の迷宮へ」
突然、頭の中に直接響く声。機械的で、感情のない、まるでゲームのナビゲーションみたいな声だ。悠斗は背筋が凍るのを感じた。
「ここは無限の階層を持つ迷宮。最下層に辿り着いた者には、どんな願いも叶えよう。だが、失敗は許されない。進め、さもなくば――死」
「死!? ふざけんな、なんだよこれ!」
近くにいた眼鏡の少年が叫んだ。カーキ色のジャケットに、リュックを背負ったまま。たぶん悠斗と同じくらいの歳だ。
「うるさい、黙れ」
鋭い声が響き、悠斗の隣にいた黒髪の少女が一歩前に出た。スレンダーな体に、黒い革のジャケット。腰には剣が吊るされ、まるで戦士みたいな雰囲気。彼女の目は、獲物を睨む獣のようだった。
「状況も分からないのに騒ぐな。まずは情報を整理しろ」
「情報って…! 急にこんなとこ飛ばされて、頭整理しろって無理ゲーだろ!」眼鏡の少年が反論する。
「落ち着けよ、カイト」
白いローブの女の人が、柔らかい声で割って入った。金髪がフードから覗き、穏やかな笑みを浮かべるけど、どこか掴みどころがない。
「カイトって名前なの? ふふ、覚えたよ。私はセレナ。よろしくね」
「え、なんで名前知ってるんだよ!?」カイトが目を丸くする。
「さっき、服のネームタグ見てね。佐伯カイト、で合ってる?」
「うわ、マジか…! って、自己紹介してる場合じゃねえよ! ここどこだよ!?」
悠斗は黙ってやり取りを聞いてたけど、心臓はバクバクだった。(転移? 異世界? ゲームみたいだけど、死ぬってマジ…?)
その時、部屋の奥からガサガサと不気味な音が響いた。
「来るぞ」
黒髪の少女――リナが剣を構えた。次の瞬間、暗闇から緑色の肌を持った魔物が飛び出してきた。ゴブリンだ。牙を剥き、ボロ布をまとった小柄な化け物が、棍棒を振り上げて襲いかかる。
「うわっ、なんだこれ!?」
悠斗は咄嗟に後ずさった。足がすくんで動けない。ゴブリンは5体。リナが一閃で1体の首を刎ねたが、残りが一斉に襲いかかる。
「動くな、邪魔だ!」
リナの剣が光り、もう1体を斬り倒す。だが、ゴブリンの動きは素早く、1体が悠斗の方に突進してきた。
「やばっ!」
悠斗は転びそうになりながら後退。心臓が喉まで跳ね上がる。死ぬ! 絶対死ぬ! と思った瞬間、頭に閃くものがあった。
(待てよ、この部屋…さっき何か変だった)
視線を巡らせると、壁に不自然なレバーが見えた。床には、罠らしき模様。ゲームでよくある仕掛けだ。
「カイト、あのレバー引いて!」
「は!? 俺!? なんで!?」
「いいから、早く!」
カイトが慌ててレバーに飛びつき、ガコンと引く。直後、床の模様が光り、ゴブリンの足元から鉄の槍が突き出した。ギャッと悲鳴を上げ、2体が串刺しに。
「す、すげえ! お前、頭いいな!」カイトが叫ぶ。
「いや、たまたま…!」
リナが残りのゴブリンを仕留め、静寂が戻った。彼女は剣を鞘に収め、悠斗を一瞥。
「悪くない。名前は?」
「え、俺? 天海…悠斗」
「リナ。覚えておけ」
彼女の声は冷たかったけど、どこか信頼の欠片を感じた。セレナがニコニコしながら近づいてくる。
「ふふ、悠斗くん、ナイス判断! いいパーティになりそうね」
「パーティって…俺、戦えないんだけど」
「戦うだけが役割じゃないよ。ほら、行くよ。次の試練が待ってる」
セレナの言葉に、悠斗たちは奥の扉へ向かった。
迷宮の第一階層:石の回廊
扉を抜けると、長い回廊が広がっていた。両側には松明が揺れ、壁には奇妙な文字が刻まれている。カイトが目を輝かせて呟いた。
「これ、古代文字っぽいな! ラノベで見たことある! 絶対何かヒントだろ!」
「オタクかよ」リナが呆れたように言う。
「オタクで何が悪い! こういう知識が生き残る鍵だぜ!」
「鍵、ね…」セレナが意味深に微笑む。
悠斗は黙って回廊を進んだ。さっきのゴブリン戦で、なんとか生き延びたけど、戦えない自分がこの先やっていけるのか、不安しかなかった。
しばらく進むと、回廊の先に巨大な石像が現れた。2メートルはあろうかという、鎧をまとった騎士の像。手に持つ剣が、まるで生きてるように輝いてる。
「これ、絶対ボスだろ…」カイトが震え声で言う。
「ボス戦なら、動き出す前に弱点を見つけろ」リナが剣を構える。
その瞬間、石像の目が赤く光り、ガコンと動き出した。剣を振り上げ、床を叩きつける。衝撃波で悠斗たちは吹き飛ばされそうになる。
「くそっ、強すぎだろ!」カイトが叫びながら後退。
悠斗は必死に周囲を見回した。石像の動きは力強いけど、どこか単調。胸の部分に、青く光る宝石が埋まってるのに気づく。
「リナ、あの宝石! あれが弱点かも!」
「分かった。援護しろ!」
リナが石像に突っ込む。剣を振り回す石像を、華麗にかわしながら接近。だが、宝石を狙うには高すぎる。
「カイト、なんか道具ない!?」
「え、道具!? リュックに…あった! ロープ!」
カイトがリュックからロープを取り出し、悠斗に投げる。悠斗は咄嗟にロープを石像の足に引っかけ、引っ張った。石像がバランスを崩し、膝をつく。
「今だ、リナ!」
リナが跳び上がり、剣で宝石を一突き。ガキン! と音を立て、宝石が砕け、石像が崩れ落ちた。
「やった…!」
悠斗は息を切らしながら地面にへたり込む。リナが剣を振って血を払い、軽く頷く。
「やるじゃん、悠斗」
「はは、偶然だよ…」
セレナが拍手しながら近づいてきた。
「素晴らしいチームワーク! ほら、そこの台座見てみて」
石像の台座には、小さな金の鍵が置かれていた。悠斗が手に取ると、暖かい光が放たれる。
「これが…鍵?」
「そう。迷宮の鍵。集めれば、願いが叶う…らしいよ」セレナの声に、どこか不穏な響きがあった。
その時、背後で足音。別の転移者グループが現れた。リーダーらしき男が、ニヤリと笑う。
「お前ら、いい鍵持ってるな。よこせよ」
リナが剣を構え直し、悠斗の前に立つ。
「試してみな。後悔するぞ」
緊張が走る中、セレナが静かに呟いた。
「この迷宮、思ってるよりヤバいよ。覚悟しな、悠斗くん」
(続く)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます