第9話 脱出
grok
ルカは目を丸くして格子の外に立つ女性を見つめた。真紅の髪、翡翠色の目、そしてあの鍵を指でクルクル回す仕草――確かに小鳥の雰囲気を持っているのに、どこか別人のような威圧感があった。「お前…本当にあの小鳥なのか?」ルカは半信半疑で尋ね、鍵を握る手に力を込めた。だが、鍵は確かに彼女の手にある。どういうことだ?
女性はニヤリと笑みを深め、警察の帽子を軽く傾けた。「ピヨピヨ、なんてね。驚いたかい、ルカ?私はただの鳥じゃないよ。星を紡ぐ民の守護者、時には導き手、時には…まあ、こんな姿にもなれるってわけさ。名前はセリナ、よろしくね。」彼女はウィンクし、鍵をポケットに放り込んだ。
「セリナ…?でも、どうして急に喋れなくなったんだ?俺、君の言葉が分からなくなって…」ルカの声には苛立ちと混乱が混じっていた。腕の黒い模様がチリチリと疼き、彼の焦りを煽るようだった。
セリナは格子に近づき、低い声で答えた。「それはヴォイドウィーバーの呪いのせいさ。ルカ、あの闇の糸に触れた瞬間、君の心と星の狭間の繋がりが一時的に乱された。だから私の言葉も、星の織女の歌も、君に届きにくくなったんだ。でも、こうやって姿を変えたら、なんとか話せるようになったってわけ。感謝しなよ?」
ルカは唖然としたが、セリナの持つ鍵を見つめ、決意を新たにした。「鍵…返してくれ。それがあれば、ルシアンと一緒に織女の塔に行けるかもしれない。彼女も星を紡ぐ者なんだろ?」
「ルシアン、ね。」セリナの目は一瞬鋭くなり、廊下の奥をチラリと見た。「あの娘、確かに星を紡ぐ者だ。でも、彼女がここにいるのは偶然じゃない。ヴォイドウィーバーが彼女を追ってるんだよ、ルカ。君と同じようにね。鍵は私が預かっておく。まだ君の呪いが完全に解けてないから、危なくて渡せない。」
「何!?」ルカは格子を掴んで身を乗り出した。「そんな…!鍵がないと、俺は何もできないじゃないか!」
セリナは静かに笑い、鍵をポケットから取り出して見せた。「焦らない、焦らない。鍵は君の心と繋がってる。呪いが解ければ、鍵は自然と君の手に戻るよ。それより、今はここから脱出する方が先決だ。ヴォイドウィーバーがこの世界にも忍び込んでる。ルシアンの歌が奴らを引き寄せたんだ。」
その時、廊下の奥から重い足音が響いた。警官の声が近づいてくる。「おい、そこの女!許可なく囚人に近づくな!」だが、その声はどこか不自然で、まるで金属が擦れるような響きを帯びていた。ルカの腕の黒い模様が再び熱くなり、彼は背筋に冷たいものを感じた。
セリナの表情が一変し、鋭く囁いた。「ルカ、来たよ。ヴォイドウィーバーの手下が人間の姿を借りてる。ルシアンを連れて、すぐ逃げる準備をしな!」
彼女は鍵を手に素早く格子の錠を外し、ルカの独房を開けた。ルカは飛び出し、肩の痛みを堪えながら廊下を見た。そこには警官の制服を着た男が立っていたが、目が赤く光り、まるで星の狭間のローブの男と同じ不気味さを放っていた。
「ルカ、ルシアンを!ビルも連れてきな!」セリナが叫び、鍵を掲げると、淡い星の光が廊下を照らした。ヴォイドウィーバーの手下が咆哮を上げ、黒い霧をまといながら突進してきた。
ルカは急いでルシアンの独房に向かい、彼女の手を取った。「ルシアン、行くぞ!織女の塔に行かないと!」ルシアンは見えない目でルカをじっと見つめ、静かに頷いた。「分かった…ルカ。私も、鍵の力を信じてる。」
ビルが隣の独房から叫んだ。「おい、俺も置いてくなよ!このクソみたいな場所、さっさと抜け出そうぜ!」
user
4人の足音が、独房の連なる廊下に響き渡る。後ろからは警官たちが迫っている。
「逃げるっていっても、どこに逃げるんだよ!」
ビルが息を切らしながら叫ぶ。
「先ずは少年院から抜け出そう。」
ルカが叫び返す。
騒ぎに管理人や子どもたちが起きてき、4人の逃亡を邪魔し始める。どうやら、ヴォイトウィーバーに操られているのは追ってきている数人だけのようだ。一行はすぐに少年院を抜け、月の下に飛び出した。
久々に感じる外の夜風を肺いっぱいに吸い込む。ルカはルシアンが肩を揺らし泣いているのに気がついた。
「ルシアン…君はどれくらいあそこにいたの?」
「貴方には想像がつかないほど長い時間よ」
ルカたちはひたすら走り続け、やがて薄暗い路地に行き着いた。後ろからは何も追ってきていない。腕の痛みもいつの間にか引いている。やつらを巻いたんだ。
「さあ、ルカ。やるんだ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます