第3話
前世は地球で生きていた俺からすると、宇宙とはとても広大で未知の世界で、見方によっては恐怖の対象だったように思う。
人間が生きるために必要な空気はなく、生身で放り出されたら容易に死ぬ。
自分たちが生きる惑星のことすらまともに知らない地球人にとって、宇宙のことなど文字通り何も知らない。
だが、今俺がいる帝国にとっては、銀河は自分が住んでいる都道府県のようなもので、全てを知り尽くしている訳では無いが、だいたいどこに何があるかは知っているし、移動することも容易。帝国の首都星系がある宙域は文字通り家の庭だ。
つまるところ、帝国支配領域から7000万光年離れている辺境だろうと、帝国からすれば北海道から沖縄へ旅行に行くような距離ということだ。
俺が地球のことを話してから早7年、10歳になった俺の元へ宇宙開拓局の役人たちが、地球を見つけたかもしれないと言って押しかけてきた。
まだ7年しか経っていない。こんなに早く見つかるとは夢にも思っていなかった。
「アルス様、こちらが天の川銀河と見られる仮称F2の全体像です。そしてこちらが辺境最大の銀河であるF1で、大きさはF2のほぼ2倍、こちらはF2の3分の2程度の大きさのF3です」
そして彼らから最初に見せられたのは、辺境銀河群にある3つの銀河。F1から3と番号が振られたそれらは、地球人がみてもすぐにわかるほどに見覚えのあるものだった。
宇宙は広いから、似ているだけと言われたらそうなのかもしれないが、天の川銀河はともかく、さんかく座銀河やアンドロメダ銀河は地球から観測できたし、一般人でも写真で見たことがある人はいるだろう。
そして俯瞰してみることが出来ないが故に棒渦巻銀河だと想像していた天の川銀河は、想像したそのままの姿で俺の目の前に示されている。
「恐らく、このF1が地球でアンドロメダと呼ばれていた銀河で、F3がさんかく座銀河、そしてF2は、地球人が想像していた天の川銀河そのもののような見た目です」
「そうですか。では、これからF2を探索した無人探査艦からの望遠画像を出します。アルス様のお話から、候補となる惑星を複数抽出しましたので、その中に太陽系があれば教えてください」
そして俺の前に表示された画像は、望遠で撮られたためか、若干荒いが十分に判別できそうなレベルだ。
だがその数が多い。500以上あるというそれらは、どれも大気があり1個の衛星を持っているのだという。
「ここから、画像にある惑星の内側を公転する惑星が2個のものだけにできますか?」
さすがに多かったから、実際の太陽系に則して絞り込んでもらう。
「その条件で絞ると、この198個が残ります」
「まだかなり残りますね…。では、惑星を8個か9個持つ恒星系だけにしてください」
198個しらみ潰しにしても良いが、さすがに面倒だったので、地球では準惑星扱いに変わった冥王星のことも考えて8か9の恒星系だけにしてもらった。
「8か9だと、この12個です」
「ありがとうございます」
そしてさらに絞られた12個を順番に見ていく。
今表示されているのは、主星を公転する惑星が8個か9個で、そのうち主星から3番目の公転軌道の惑星で、大気があり衛星を1個持っている惑星ということになる。
恐らく、この中に地球がある。前世ですごした惑星があると思うと、自然と食い入るように見てしまう。
「……ない」
「見落としはありませんか?」
「…ありません。この中に私の知る地球はありませんでした」
無かった。転生から10年経っているとはいえ、地球の姿を見間違うほど記憶が薄れてはいない。
「一応、公転惑星が10個のものと、7個のものも確認をお願いします。地球文明の科学水準ですと、観測に誤りがあった可能性もあります」
「…わかりました」
露骨にテンションの低くなった俺に対して、開拓局の役人は実に淡々としている。
そして俺の前にはまず、7個の方が20個以上表示された。
「…この中にもありません」
「では、10個の方も表示しましょう。公転惑星が10個の恒星系は3個だけです」
最後に表示された3個の惑星、それらを順に見ていく。
1個目…違う。2個目…違う。そして3個目…。これも違うのなら、地球は見つからなかったことになる。
早々探索打ち切りになるとは思っていないが、もしそうなれば、かつて父に言われたように俺の記憶は強制抽出され、今の俺としての意識は無くなるのだろう。
そう考えながら見た最後の惑星…。
「…ッ!!」
無かった。何度も何度も画像を見返すが、俺の知る地球は候補に無かった。
「...ありません」
覇気のない声で地球がないことを告げると、役人は少し考えたあとこう質問してきた。
「申し訳ありません。これは我々のミスですが、地球における惑星の定義をご教示願えますか?」
「惑星の定義、ですか?」
「はい。アルス様は惑星が8か9と仰られていましたから、地球では惑星の定義にブレがあったのではと」
確かに地球での惑星の定義は伝えていなかった。
確か惑星の定義は3つだったはずだ。
・太陽の周りを公転していること。
・自身の重力でほぼ球形になるのに十分な質量を持つこと。
・その軌道上で圧倒的に大きく、周囲の他の天体を排除していること。
これらの定義を伝えると、役人は納得したような表情を浮かべたあと、帝国における惑星の定義を教えてくれた。
「帝国でも概ね変わりませんが、3番目の条件が少し違います。必ずしも周囲の天体を排除していなくても、その軌道上において一定の大きさを持っていれば惑星として扱っています」
これはつまり、準惑星扱いになった冥王星クラスの天体がもっとあれば、太陽系の惑星は一気に増えるということだ。
「そうでしたか...。でも、地球では3番目の条件で冥王星という最外縁の惑星が準惑星に格下げされました。他の準惑星がいくつあるのか分からないので...」
「では太陽系の惑星の外観などを詳しく教えてください。細かく条件を指定してもう一度探してみましょう」
そうだ、初めから惑星が何個という絞り込みではなく、火星や木星などの特徴を伝えていればより簡単に絞り込めていたはずだ。
「わかりました。まず最も太陽に近いのが水星で...」
そして、冥王星までの知っている特徴を粗方話し終えたところで、役人から一つの惑星の画像が提示される。
「アルス様、これが地球ではありませんか?」
そこに映っていた青い惑星は、間違いようもない程に、地球だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。