『図書館の大魔術師』を語りたい!

月代零

『図書館の大魔術師』を語りたい!

 今回は『図書館の大魔術師』について語ろうと思う。現在連載中の作品なので、極力ネタバレはしないよう努力する所存。


『図書館の大魔術師』は、泉光いずみみつによる漫画作品である。講談社アフタヌーンKCより、2025年8月現在9巻まで刊行されている。


「図書館」の字は、本当はくにがまえに書という漢字なのだが、変換で出てこないので、ここでは「図書館」と表記させてもらう。ちなみにこの漢字は、「図書館」の略字らしい。図書館関係者の間で「図書館」を一文字で表すために用いられる、図書館用語の一つ、とのことだ(Wikipediaより)。


 さて、この『図書館の大魔術師』は、現在連載中の作品では最も推している漫画である。続きを読まずに死ぬわけにはいかない。


 どのような物語かというと。

 とある村に、「耳長みみなが」と呼ばれる少年がいた。少年は本が好きだが、貧民街で暮らし、しかも異民族との混血であるという理由で、村の図書館を使わせてもらえない。しかし、差別と貧困の中でも、健気に逞しく生きていた。

 ある日、大陸の中枢都市アフツァックの中央図書館から、カフナがやってくる。カフナとは、本を守るために選ばれた、精鋭の司書たち。彼らとの出会いが、少年の運命を変える――というお話。


 この大陸では、かつて「ニガヨモギの使者」という災厄が現れたが、7人の魔術師が立ち上がり、石棺にこれを封じた。しかし、災厄が残した「灰白色の霧」が大陸の多くの土地を奪い、残された土地を巡って、民族間で領土戦争が起こった。戦いの勝者は、敗者を支配するために、文化と歴史と言葉を奪った。

 それを嘆いた魔術師の一人が、全ての民族の記憶を守るため、書の館を立てた。それがアフツァック中央図書館である。それ故、この世界では書物が大きな影響力と価値を持つのだ。休戦協定から時を経て、7人の魔術師の影響力が弱くなり、大陸には再び動乱が訪れようとしていた。少年はそこで、大きな役割を果たすことになる――らしい。


 本が大きな影響力と価値を持つ世界で、孤独だった少年が本の力で世界を繋ぐビブリオファンタジー。これだけで惹かれるものを感じる人もきっと多いはず。まずは騙されたと思って1巻だけでも買ってみて。それで面白いと思ったら3巻まで。その先はノンストップで全巻買いましょう。


 この物語の魅力の一つは、何と言っても作り込まれた重厚な世界観と、そこに重なる様々なテーマだろう。この大陸には、多くの民族が暮らし、それぞれの歴史を背負って生きている。当然、差別や偏見を始め、多くの社会問題が存在する。それらは、私たちが暮らす社会のようにリアリティを持ち、登場人物に血肉を与えている。その中で腐らずに生きる主人公が眩しく、応援したくなるのだ。その姿は、私たちにも前に進む勇気を与えてくれる気がする。


 広大な世界の中で、自分はちっぽけな存在かもしれない。それでも、自分の立ち位置を見極め、何ができるかを考えて行動していく。その一つ一つが、胸を打つのだ。


 胸が熱くなる王道ファンタジー、ぜひ読んでみてほしい。ちなみに主人公の名前を書いていないのは、1巻の終盤まで、彼の名前が明かされないからである。「耳長」と呼ばれ、村人から蔑まれ、遠ざけられてきた主人公が、胸を張って名乗る。この演出も、前情報なしで、自分の目で見てほしいのだ。


 多数の民族が登場するこの物語だが、民族それぞれに服装や建築、名前に特徴があって、きちんと背景があることを感じさせる。一体どこまで設定を作り込んでいるのか。この辺りは、物語には必要に応じて語られて、設定だけを延々と読まされて飽きる、などということがない。この調整も見事である。裏設定的な部分は、単行本のおまけページやカバー裏におまけ程度に語られていて、それが読者の想像と興味をそそるのだ。


 そして、話が進むにつれて登場人物も多くなるが、その一人一人に個性と役割があって、物書きの端くれとしては脱帽するしかない。多くのキャラの中に、きっと推しキャラが見つかるはずだ。


 もう一つ、この作品、画力が圧巻なのである。人物が上手いのはもちろん、背景や服の装飾など、細部まで書き込まれている。この辺りはアシスタントが描いたり、素材を使っているのかもしれないが、それでも画力が群を抜いている。コマ割りも迫力があって、一体何を食べたらこんなふうに描けるようになるんだ、爪の垢を煎じて飲ませてほしいと思う。


 それから、単行本のカバー絵が、全て繋がっているという事実にも驚く。どんな構想で描いているのか。最後まで見届けずには死ねない。


 ところでこの作品、正確には

「画 泉光

 原作『風のカフナ』 著 ソフィ=シュイム

 訳 濱田泰斗」

 となっている。


 始めは翻訳ものなのか? ならば原作も読んでみようと思ったのだが、検索しても何もヒットしなかった。今は少し種明かしがされているので、検索したら出てきてしまうと思うが……。


 さあ、努力して成長していく主人公が愛おしく、登場人物の個性が光る王道ファンタジー、この世界に今すぐ飛び込んでみよう!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『図書館の大魔術師』を語りたい! 月代零 @ReiTsukishiro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ