第33話 宿根草の再会

クロノブリッジ本部。

赤色灯が脈打つように点滅し、低いアラームが地鳴りのように響いていた。

正面ゲートが「ギィィ……」と軋みを上げて開いていく。

鉄の扉が擦れる音は、まるで舞台の緞帳が上がる合図のようだった。

その瞬間――

館長席に置かれた端末が、誰も触れていないのに「ピピッ」と点滅を始めた。

隔壁が「ガタンッ!」と音を立てて一瞬閉じかけ、兵士たちが慌てて飛び退く。

続いて天井のシャッターが「ギギィ……」と軋みを上げ、退路を塞ぐように降下。

空調が突風のように吹き荒れ、白い蒸気が視界を覆った。

「なんだこれは――!」

暁人が怒鳴る。

しかし館長は、いつもと変わらぬ顔でただ業務用の端末を見つめていた。

瞳の奥に、一瞬だけノイズの影が揺らいだことを――その場の誰も気づかなかった。

赤光の揺れる蒸気の中、三つの影が静かに歩み出す。

迎撃態勢に立つのは、暁人。

背後には調査官と訓練生たちが銃口を構える。

吹き出す蒸気が白く立ち込め、赤光と混じり合って視界を染める。

その霧の中から――三つの影がゆっくりと歩み出てきた。

因縁の残響が、再び舞台に姿を現す。

蒸気を割って最初に現れたのは彩音。

背筋を伸ばし、舞台女優のように裾を翻す。

「また咲いたわね。……“宿根草”みたいにしぶといこと。――花言葉は、永遠の再会にてよ」

その微笑みは冷ややかで、白煙に溶けた。

まりかは肩にチェーンを担ぎ、挑発的に目を細める。

「へぇ……暁人。ずいぶん年取っちゃったんじゃないの?」

ジャラリと金属が鳴り、油臭が漂う。

喜朗は小さく鼻をひくつかせる。

「あ……きみ、けものくさい。前よりも、もっと」

次の瞬間、弓弦が「ギチィ」と鳴り、矢が一直線に忍音を狙った。

「ヒュンッ!」空気を裂く鋭音。

忍音は舌打ちしつつ腕を振り、矢をはじく。

「ガキィン!」と金属音が響き、破片が散った。

忍音が口角を吊り上げ、軽く手を振る。

「ごめんね~!ぼく、おねえちゃん、きみのお姉ちゃんに用事があるんだ。

だからきみは、この筋肉のお兄ちゃんと遊んでもらってね」

「貴様ら……まだ生きていたのか!」

暁人が怒声を放つ。蒸気が揺らぎ、響き返す。

銃声がホールを震わせた。

暁人の弾丸が蒸気を裂き、赤光を閃光に変える。

だが彩音は一歩も退かない。

舞踏のように裾を翻し、指先を軽く払うと、冷却管から「プシューッ」と白煙が噴き上がった。

熱と鉄の匂いが広がり、暁人の視界を真白に塗り潰す。

「――花弁は散りゆくもの。あなたも同じにてよ」

その囁きが耳の奥に冷たく残る。


忍音は唇を吊り上げ、床を「ドンッ」と踏み割った。

破片が赤光を反射し、舞台を乱す。

彩音は中心で両腕を広げる。

「乱舞は美しき破滅――さあ、踊りなさい」

「上等ッ!」

忍音は笑い声と共に突進した。

蒸気が一斉に噴き出し、熱気と冷気が入り混じる。

肌を刺す痛みと汗の匂いの中、二人の影が激突した。


喜朗は矢を指先でくるくると弄び、健志に向かって微笑む。

「ぼくの矢がおじさんの筋肉に“ぐさーっ”て刺さるの、もう見えるんだよ」

弓弦が「ギチィィ」と軋み、木の匂いが鼻を刺す。

健志は拳を鳴らし、にやりと笑った。

「ほぉ……刺さるかどうか、試してみな」

次の瞬間――矢の閃光と拳の影が交差し、空気が「バンッ!」と破裂した。

……同じ時刻。

暁人の家からそう遠くない路地裏に、地鳴りのような音が響いた。

古びた木造の家がきしみ、瓦がぱらぱらと落ちる。

引き戸が「ギギ……」と不自然に押し開けられる。

夜気の中に、土と埃と古木の匂いが漂った。

そこから現れたのは、一人の少女。

外見は年若いのに、その歩みには異様な静けさがあった。

瞳の奥に一瞬だけ、ノイズのような揺らぎが走る。

彼女が足を踏み出すたび、周囲の家屋が軋む。

まるで空気そのものが異質に歪み、常識がほどけていくかのようだった。

名もなく、言葉もない。

ただそこにいるだけで「綻び」が広がる。

その光景は、偶然目にした者がいれば二度と忘れられない、不吉な断片だった。


次回へ続く。


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