第20話 そしてスカイエンプレス
白良浜の別荘、夏の朝。
ダイニングには軽やかな笑い声と食器の音が満ちていた。
リンが拳を握って言う。
「今日こそ海で遊ぶんだから!」
芽依がすかさず突っ込む。
「日焼け止め持ってきた?」
こはるは肩をすくめて笑った。
「わたしは日陰で本読む派かな」
和やかな時間――だが、そらだけは背筋を伸ばし、優雅に紅茶を口にしていた。
そのときだった。
グラスが小さく震え、カタカタと皿が揺れる。
「え……?」芽依が手を止める。
次の瞬間、食卓全体が激しく震えた。
「地震!?」
リンの叫びに、暁人はすぐに首を振る。
「違う、これは……」
ドォン――!
窓の外、砂浜に巨大な影が落ちた。
漆黒の機械仕掛けの鳥、モリガン。
大きく広げた翼は、まるで水の女王の腕のようにしなやかで、揺らめくたび砂浜を削っていく。
「怪異震……」しずが小さくつぶやき、両手をかざした。
透明なバリアが展開し、別荘全体を光の膜で包み込む。
「全員下がって!」暁人が声を張り上げる。
忍音と健志が武器を手に外へ飛び出した。
リンはクロノ・バンドを耳に当て、しずを見上げる。
「ママ……わたしも手伝うよ!」
しずは微笑んで頷いた。
「ええ、二人でバリアを重ねれば持つはずよ!」
リンとしずの光が重なり、防御膜はさらに厚みを増した。
芽依は端末を抱え、クロノブリッジ本部へ通信を試みる。
「至急、戦術指示を! 軍のドローンは!?」
やがて複数の軍用ドローンが飛来したが、モリガンの一撃に次々と弾き飛ばされる。
《……軍の兵器には直接介入できません》
ミネルヴァの冷静な声が響く。
だからこそ、この場を守るのは彼ら自身だった。
「くっ……押されてる……!」健志が歯を食いしばる。
戦いは、まだ始まったばかりだった。
モリガンの翼が広がり、空気を切り裂く。
水の女王が舞うかのように優雅で、しかし容赦がない。
一振りで砂浜がえぐられ、軍のドローンがまとめて吹き飛ぶ。
「数が多すぎる……!」暁人が銃を構えた。
健志が重力弾を撃ち込み、忍音が剣で斬り込む。
だが黒い巨体はなお舞い続ける。
「ママ、もう一枚重ねるね!」
リンが叫び、しずと声を合わせてバリアを強化する。
光の膜は波のように揺れながら、別荘を守っていた。
その後方で、芽依は必死に端末を操作していた。
「クロノブリッジ本部! 至急、追加戦術を――!」
だが画面上、軍の支援網は次々と赤く塗りつぶされていく。
「……間に合わない!」
「どきなよ、芽依!」
こはるが彼女を押しのけ、指を走らせる。
軍ネットワークへの侵入を試みるが、あと一歩でセキュリティに弾かれる。
「ちょ、待ってこはる! 軍にハッキングなんてしたら――」
その時、ミネルヴァが独り言のように呟いた。
《……ひよこの足は三歩で止まる。あなたの手順も同じ》
こはるの目が見開かれる。
「……ああ、そういうことね!」
修正を加え、エンターを叩く。
――成功。
高性能ドローン「レイヴン・ストライカー」が編隊を組んで飛来した。
漆黒の機体が低空で旋回し、精密誘導弾をモリガンに撃ち込む。
「わ、私の端末で……一番高いやつ呼んじゃったぁ!」芽依が頭を抱えた。
「火力上げても配列が悪いわよ」暁人がクロノ・バンドで注意する。
だがその瞬間、モリガンの翼が閃き、ドローン群は一気に押し返された。
「……くっ!」芽依は唇を噛む。
こはるが再び端末に向かおうとした、その時――。
「なにやってんのよ……」
鼻で笑ったのはそらだった。
彼女はゆっくりと立ち上がり、無言で部屋を出ていく。
バンッ!
乱暴にドアが閉まる。
皆が呆気にとられていると、数秒後――
ドカンッ!
再びドアが勢いよく開き、そらが戻ってきた。
手にはピカピカのゲーミングキーボードとマウス。
「……これ、つないで」
芽依は慌ててコードを接続する。
そらが椅子に腰を下ろし、キーボードを握った瞬間――空気が変わった。
「おい、エイム合わせろよボケ!」
指が踊る。画面上でドローン群が隊列を組み直し、次々と怪異を撃墜していく。
「中古屋にコイツ売ってこい!」
「今すぐコントローラー投げて引退しろ!」
嵐のような言葉と共に、そらの指先が怪異を圧倒していった。
芽依とこはるは口をあんぐりと開け、ただ画面を見つめるしかない。
「ス、スカイエンプレス……みたい……」芽依が呟く。
「えっ、あのFPSの女王の……?」こはるが目を丸くする。
そらはにやりと笑った。
「それ、わっしだが!」
次々と子怪異が爆散し、レイヴン・ストライカーの弾道が一糸乱れぬ軌跡を描く。
暁人も思わず息を呑んだ。
「……すげぇ」
「まだだ! ドローン配列が甘ぇぞ!」
そらが怒鳴り、こはるが慌てて修正を入れる。
戦況は一気に反転した。
波のように押し寄せていた怪異の群れは、次々と蹴散らされていった。
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