2食目 昼餉とおやつ、カボチャの煮物。




 あれから三日後の昼下がり。

 窓の外から、コンコン、と戸を叩くような音が聞こえてきた。


「はーい……あっ」


 扉を開けると、そこにいたのは……あの黒い毛並みの魔物だった。

 相も変わらず、琥珀色の瞳が真っ直ぐにこちらを見ている。


「ほんとにまた来たんだね」


 尻尾がぶん、とひと振り。

 それだけで返事をしているように思えた。



   ▼▼



「じゃあ、今日は……」


 台所に向かい、用意しておいた野菜と鶏肉の煮込みを大きな器に盛る。

 魔物はじっと座って待っている……いや、尻尾だけは小さく左右に動いていた。


「はい、どうぞ」


 器を床に置くと同時に、彼は嬉しそうに顔を突っ込んだ。

 熱いはずなのに一心不乱に食べている。魔物だし、火傷なんてしないのかな。


「そんなに慌てなくても……え、もう食べ終わったの? 早いね」


 必死な様子にくすりと笑いながら言葉を溢すと、一瞬で器は空っぽになっていた。



   ▼▼



「今日はね、おやつもあるの」


 戸棚から取り出したのは、甘く煮たかぼちゃ。身がほろりとすぐに崩れるけれど、優しい甘みがある。

 小皿に分けて差し出すと、魔物は一瞬首を傾げた後、慎重に口にし始めた。

 ……次の瞬間、目をかっと見開いて耳をピンと立たせ、尻尾が二倍速で揺れる。


「気に入った?」


 低い唸り声のような音が、喉の奥からこぼれた。

 威嚇ではなく、喜びの音だと思う。多分。



   ▼▼



 食後、魔物は前と同じように私の膝に頭を乗せてきた。でも、今日はそれだけじゃなかった。

 大きな前足をそっと私の足元に置いて、まるで「ここにいてもいいか」と尋ねるような目で見上げてきたのだ。


「いいよ。少し、お腹を休めようか」


 毛並みを撫でると彼は目を閉じ、ゆっくりと呼吸を落ち着かせながら瞳を閉じた。



   ▼▼



 夕方の帰り際。

 扉の前で振り返った魔物の口元には、かぼちゃの小さなかけらがついていた。


「ふふ……またおやつ、作っておくね」


 その言葉に、尻尾が一度だけ高く跳ねた。

 きっと、またすぐに来てくれる。そう確信できる仕草だった。


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