第28話 運転免許を持ってる人間は重宝される
なんやかんやでやってきた遊び当日。太陽が燦々と降り注ぐ青空の下は、これまたわかりやすく歪んでいる。
代謝が良ければ……いや、代謝が良くなくても絶対に汗をかいてしまいそうなほどの暑さは、灼熱という言葉が一番似合うだろう。
もちろん僕と筋肉ダルマ――もとい、
随分久しぶりな気もするが、残念なことに僕は毎日のようにあっている親友的存在だ。
最近では石宮さんと姪由良さんに時間を割くことが多くて放課後どころか、昼食すら一緒に食べれないでいた。
そんな中、組み立てたのがこの遊び。
まぁ遊びと言っても、適当に服を買ったりカラオケに行ったり大学生らしい遊びをするだけなんだが。
「にしてもまじで大学生だな?」
冷風とともに隣から流れてくるのは宏樹の言葉。
話は戻るが、僕達は炎天下の中を歩く――ことなく、”車の中”で待機していた。
「最近じゃカーシェアなんて物があるからな。免許も持ってるし最大限の楽はしたいだろ?」
「まぁそれはそう。ってことで運転頼んだ!!」
「あいよ」
ニカッと笑う筋肉に適当な言葉を返した僕は、ハンドルに頬杖をついて大学前で2人を待っていた。
今日の講義は随分と早く終わる。
それは僕と宏樹だけではなく、石宮さんと姪由良さんまでも。
神様の機嫌が良かったのか、この木曜日だけは僕と宏樹は2限で終わり、女子2人は3限で終わるという贅沢をくださった。
(運転の練習もしたかった今、この90分は有り難く使わせもらった)
なんて感謝を述べながらも、ぞろぞろと大学から姿を表す生徒たちに目を向けた。
「んで、陸斗には珍しいお友達は女子だっけ?」
「そそ。てか了承してくれてありがとな。カラオケ奢るわ」
「えまじ?でっか。俺の筋肉よりでっか」
「……喜んでくれてるなら良かったっす」
我が子のように自分の二頭筋を撫で回す親友に冷笑を浮かべながらも、明らかにこちらを向きながら歩いてくる少女2人に目を向けた。
事前に『車まで行く』と言っていたことが功を奏したのか、なんの迷いもなくこちらへ歩いてくる2人は若干目を輝かせていた。
そして、隣の筋肉くんまでもがとんでもない目の輝きを見せつけていた。
「お、おまっ!あの可愛い子ちゃん2人が友達か!?」
「御名答」
「まじかよ!?いやてか紹介しろよ!!とんでもない子隠してたな!?」
「紹介なんてしねぇよ。片方僕の彼女だし、片方は元カレに未練タラタラだし」
「……ん?」
刹那、いつもは活発に動いてるはずの筋肉繊維がピクリとも動かなくなった。
果たしてそれは僕の彼女に驚いたのか、未練タラタラのことに驚いたのかは定かではないが、多分『僕の彼女』という言葉に思考――筋肉――を停止させたのだろう。
「え、陸斗おま……え?彼女いんの?」
「この前できた」
「はい!?」
ライオンよりも遥かに騒がしい叫びが車の外まで聞こえていたのだろう。
扉を開けようとしていた姪由良さんの訝しげな目と、鏡越しに視線が交わってしまった。
ここにタクシーのような運転席から扉を開けられるシステムがあったのなら、車内に案内しながら説明できたのだが、生憎そんなものはこの車に備わっていない。
ボタンを押しながら後方の窓を開けた僕は、失笑を浮かべながら石宮さんと姪由良さんに言葉をかけた。
「すまんこいつが例の筋肉だ。悪いやつではないから安心して乗ってくれ」
「……ファーストインパクトは結構最悪ね」
「だってさ。宏樹」
「いや俺のせいじゃなくね!?」
相変わらずにでかい声は石宮さんの動きを硬直させてしまったが、さすがは親友と言えよう。
姪由良さんの懸命な介護があり、なんとか車に乗った石宮さんはチラッとバックミラー越しに僕のことを見てきた。
「……ほんとにお友達?脅されてない……?」
「おいおまえの彼女とんでもなく失礼だぞ?どうなってんだ?」
「あっ、もう言ってるんだ?やっぱり脅されて……」
「これがファーストインパクトの重要性か」
「いや擁護してくれ!?」
悲痛な叫びが左から聞こえてくるが、当たり前のように無視した僕はハザードランプを消して右ウィンカーを出した。
「とりあえずショッピングモール行くから、3人で適当に自己紹介でもしててくれ」
そんな言葉を残した僕は、運転に集中した。
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