第13章『交差する思惑』

セラフィナの剣が天を突き、絶望的な光が世界を白く染め上げた。もう、終わりだ。カイが死を覚悟した、その瞬間。何の前触れもなく、彼らとセラフィナの間に、漆黒の亀裂が走った。

「なっ……!?」

光の奔流が、その亀裂に吸い込まれ、跡形もなく消滅する。セラフィナが、初めて驚愕の声を上げた。

「空間転移……!?誰です!」

だが、その問いに答える者はいない。カイたちの体は、有無を言わさず亀裂の中に引きずり込まれていった。


意識が戻った時、カイたちは見知らぬ路地裏に倒れていた。体のあちこちが悲鳴を上げている。

「ここは……どこだ……?」

「わかりませんわ……。ですが、あの聖騎士の気配は完全に消えています」

ルーナが、安堵のため息をつく。

「ちくしょう、あと一歩だったのによぉ……」

ボルガンが、悔しそうに地面を殴った。謎の介入者に、命を救われた形だった。


一行は、傷ついた体を引きずりながら、その都市の様子をうかがった。そこは、ありとあらゆる種族が行き交う、巨大な中立都市「リベルタス」。神の権威も、各国の利害も及ばない、唯一の場所だった。

「すごい……。人間も、エルフも、獣人も、みんな普通に暮らしている……」

カイは、その光景に目を見張った。これこそが、彼が取り戻したいと願う、かつての世界の姿だったからだ。


「カイ、見てくださいまし。評議会の召集令ですわ」

ルーナが、街の掲示板を指さす。どうやら、彼らの出現は、すでに都市の知るところとなっているらしい。

「ちょうどいい。ここで、僕たちが知った真実を全て話そう」

「おいおい、正気か小僧。神に喧嘩を売るって公言するようなもんだぜ」

「それでも、やるんだ。僕たちだけじゃ、あまりに無力すぎるから」

カイの決意は、固かった。


評議会の議場は、円形の巨大なホールだった。中央に立つカイたちを、各種族の代表者たちが、値踏みするように見下ろしている。その視線は、好奇心、不信感、そして打算が入り混じった、冷たいものだった。

「神への反逆者と聞き、参上したが……。ただの子供ではないか」

魔族の代表が、つまらなそうに呟いた。


カイは、臆することなく口を開いた。故郷を焼かれたこと、神が仕掛けた偽りの歴史、そして、世界を救うという大義名分のもとに行われようとしている、冷徹な「リセット計画」。

「どうか、力を貸してほしい!このままでは、僕たちの未来は、神の都合で消されてしまう!」

カイの魂の叫びが、静まり返った議場に響き渡った。


だが、返ってきたのは、冷ややかな沈黙だけだった。やがて、人間の商業ギルドを束ねる代表が、口を開いた。

「話はわかった。だが、証拠は?君のその『眼』とやらが、全てを見たとでも言うのかね?」

「それは……!」

「証拠もなしに、神を敵に回せと?我々に何の得がある?」

その言葉は、あまりにも現実的で、冷徹だった。


「神が世界を管理するのは、当然のこと。多少の犠牲は、秩序を保つために必要悪であろう」

天翼族の代表が、厳かに言う。

「そもそも、お主たちの行動こそが、世界の混沌を招いておるのではないかな?」

「違う!僕たちは……!」

「もうよい。これ以上、聞く価値もない」

代表たちは、次々と席を立ち始めた。彼らにとって、カイの訴えは、ただの子供の戯言にしか聞こえなかった。


「待ってくれ!」

カイの制止も虚しく、議場には誰もいなくなった。

「くそっ!あいつら、話を聞く気もねえじゃねえか!」

ボルガンが、怒りに拳を震わせる。

「これが、政治……。国を背負う者たちの、現実ですわ……」

ルーナは、唇を噛みしめた。ガロウは、ただ黙って壁に寄りかかっている。


カイは、その場に立ち尽くしていた。力だけでは、世界は変えられない。それは、わかっていたはずだった。だが、真実さえも、それぞれの思惑の前では、いとも容易くねじ曲げられてしまう。神という巨大な敵の前に、また一つ、あまりにも高く、そして分厚い壁が立ちはだかっていた。

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