第2話 最後の記憶

私は、美月みづき

普通の女子大生だった――あの日までは。


「なんで……?」


笑うと優しそうで、私だけを見てくれる人だと思ってた。

…まさかあんな形で裏切られるなんて、思いもしなかった。


「なんで…私を……」


最後に見たのは、彼の笑っている顔。

私のお腹にナイフを突き刺しながら、まるで冗談みたいに微笑んでいた。


そして、そのまま意識が闇に沈んだ。



◇◇◇◇◇◇



「……ここは?」


(病院……じゃない、みたい)


目が覚めると、見知らぬ天井があった。


「リオ!? 目が覚めたのね?」

「……リオ? ……誰、それ? 私、美月だけど……」


隣にいた藍色の髪に、水色の瞳をした女性が私に向かって声をかけた。


「だれ……でしょうか……」

「っ! まさか、記憶がない?!」


その女性は驚きと心配が入り混じった表情で私を見つめていた。


「ごめんなさい……私が……しっかりと産んであげられなかったばかりに……」


と泣き出してしまった。


「奥様……」


近くのメイド……らしき女の人はその女性を慰めていた。


私はオロオロするばかりだった。


(えぇ!? どうしよう……泣かせてしまった……)


起き上がろうとしても体がズキズキと痛む。


「痛っ」


あまりの痛さに思わず、声を出してしまう。

裾をたくし上げてみると、体のあちこちにアザがあった。


(なにこれ……それにここはどこなの……?)


病院のようには見えない、部屋………いや、ホテル…と喩えたほうがいい気がする。


部屋を見回していると、水の入ったおけが近くに置かれていた。

……たぶん、看病をしたのに使ったのだろう。


水が鏡のように反射して、自分の顔が見えた。


(!? ……自分の顔じゃない……っ)


鏡のような水面に映ったのは、見知らぬ少女の顔。

深く艶のあるダークブラウンの髪、どこか憂いを帯びたネイビーの瞳。

それはまるで、夜空に沈む星のように冷たく、美しかった。


なのに、その表情に血の気がない。……そして、全身にアザ。


女性の発言からして虐待でもないし、この体の母親なのだろう。……でも、似ていない。


……いや、それだけじゃない。どこか、ちぐはぐな感じがする……


(この違和感……何か、覚えが……)

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