第28話

「きゃあああああああっ! 私の力が……! 私の、神の力がぁぁぁぁぁっ!」


 セレスティーナの絶叫が、遺跡全体に響き渡る。

 杖の呪晶石が砕け散ったことで、彼女の体内でせめぎ合っていた瘴気と聖なる力が完全に制御を失い、黒と白の光が混じり合った巨大な嵐となって、荒れ狂い始めた。


「まずい! この遺跡、崩れるぞ!」


 グレイの怒鳴り声と同時に、天井から巨大な岩盤がいくつも剥がれ落ちてくる。

 もはやセレスティーナのことなど構っていられなかった。


「出口へ急ぐぞ!」

「で、でも、来た道はもう……!」


 フィーナの言う通り、俺たちが入ってきた扉は、既に崩落した瓦礫で完全に塞がれている。


「ユウキさん、グレイさん、こっちです!」


 フィーナが、精霊の力で遺跡の構造を感知したのだろう。彼女は、祭壇の裏手にある、小さな通路を指さした。

 俺たちは、一縷の望みを託して、その闇の中へと駆け込んだ。


 ドドドドドドッ!


 背後で、祭壇の間にあった巨大な水晶が暴発し、凄まじい衝撃波が俺たちを襲う。


「くっ……!」


 俺は咄嗟に振り返り、聖剣を地面に突き立てた。

 スキル『聖域創造サンクチュアリ

 半球状の光のドームが、俺たちの背後に出現し、崩落してくる瓦礫と、なだれ込んでくる破滅のエネルギーを、必死に食い止める。


「ユウキ、長くはもたねえぞ!」

「分かってます!」


 俺が障壁を維持している間に、グレイは前方の瓦礫を戦斧でなぎ払い、フィーナは蔦を伸ばして不安定な天井を補強する。絶望的な状況の中、俺たち三人は、完璧な連携で活路を切り開いていった。

 通路を駆け抜ける途中、俺は一瞬だけ、崩れゆく祭壇の間を見た。


 そこには、自らが求めた神の力にその身を焼かれ、塵となって消えていく、セレスティーナの哀れな最期があった。その顔に、もはや余裕の笑みはなく、ただ純粋な恐怖と後悔の色だけが浮かんでいた。


(あんたが求めたのは、神の力じゃない。ただの、破滅だ)


 俺たちは、崩落と競争するように、必死で走り続けた。

 そして、ついに、通路の先に、外の光が見えた。


「出口だ!」


 三人は、雪崩れ込むように、壁の裂け目から山の斜面へと転がり出る。

 その直後。

 俺たちの背後で、ドラグーン山脈そのものを揺るがすほどの、巨大な爆発が起こった。

 古代遺跡は、跡形もなく消し飛び、そこには巨大なクレーターだけが、ぽっかりと口を開けていた。瘴気と聖なる光が入り混じった巨大な光の柱が、天を衝き、そして、ゆっくりと消えていく。


「……はぁ……はぁ……」


 俺たちは、地面に倒れ込んだまま、ただ荒い息を繰り返すことしかできなかった。

 だが、生きている。三人とも、無事だ。

 遺跡を覆っていたあの濃密な瘴気は、爆発と共にかなり薄れていた。だが、完全に消え去ってはいない。むしろ、山全体に、薄く、広く、拡散してしまったかのようだった。


(封印の核が、破壊された……。これで、邪神の本体の封印は……)


 俺の胸に、重い不安がのしかかる。

 その時、クレーターの縁で、何かがキラリと光を反射したのが見えた。爆発の衝撃で、遺跡の奥からここまで吹き飛ばされてきたのだろう。

 俺は、おぼつかない足取りでそれに近づき、手に取った。

 それは、手のひらサイズの、星図のようなものが刻まれた、石板の欠片だった。


《アイテム名:封印の守り手の石板(欠片)》

《説明:封印の地への鍵となる、石板の一部。他の欠片のありかを示す、天の図が刻まれている》


「……そうか」


 俺は、この石板に刻まれた使命を、はっきりと理解した。

 フィーナとグレイが、俺の元へ集まってくる。


「ユウキ、そいつは……?」

「俺たちの、新しい道標です」


 俺は、二人に石板を見せた。

 俺たちの旅は、終わっていなかった。


「邪神の封印が、本格的に解かれ始めています。それを止められるのは、多分、俺たちだけだ」


 絶望的な状況。だが、俺の心は不思議と燃えていた。

 俺は、石板に刻まれた天の図が示す、次なる光の点――ドラグーン山脈の、さらに奥深く、本当の山頂を、見据えた。


「行きましょう。俺たちのやるべきことを、やるために」


 俺の言葉に、フィーナとグレイは、覚悟を決めた顔で、力強く頷いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る