第26話

「―――来るぞ!」


 グレイの叫びと同時に、セレスティーナの手下である二人の大男が、人間とは思えぬ速度で襲いかかってきた。

 その体は異様に膨れ上がり、皮膚の所々からは、あの『呪晶石』と同じ、禍々しい紫色の結晶が突き出している。


「グオオオオオッ!」


 もはや、人の声ではない。呪詛獣と同じ、憎悪に満ちた咆哮。


「俺が一人引き受ける! ユウキ、お前は嬢ちゃんを守りながら、もう一人を頼む!」


 グレイが戦斧を構え、突進してくる一体の正面に躍り出る。ガキンッ!と凄まじい金属音が響き、グレイの巨体が数歩押し込まれた。


「ちっ、化け物みてえな馬鹿力だ!」


 グレイが屈強な腕で敵を食い止めている間に、もう一体が俺とフィーナに迫る。

 俺はフィーナを背後にかばい、聖剣『アルテミスの祝福ブレス・オブ・アルテミス』を正眼に構えた。


「フィーナさん、援護をお願いします!」

「はいっ!」


 フィーナは恐怖を押し殺し、竪琴を奏で始めた。彼女が歌うのは、エルフの『守りの歌』。俺たちの体に、淡い緑色の光のヴェールがまとわりつき、防御力と精神抵抗を高めてくれる。


「まずは、その目障りな歌い手からだ!」


 敵の狙いは、後衛のフィーナ。俺を無視して、その巨大な拳を彼女へと叩きつけようとする。

 だが、その動きは俺の【鑑定眼】が完全に見切っていた。


「―――遅い」


 俺は最小限の動きで敵の攻撃をいなすと、すれ違いざまに、聖剣でその腕を切り裂いた。

 スキル、『万物浄化ピュリフィケーション』。


「ギッ!?」


 聖なる刃が触れた部分が、灼熱の鉄を押し当てられたように、ジュウッと音を立てて蒸発する。普通の剣なら傷一つ付かないであろう、呪詛の力で硬化した皮膚を、俺の剣はいともたやすく切り裂いた。


《効いてるぞ!》

《さすが聖剣! 呪いの力には特効だな!》

《フィーナちゃんのバフもいい仕事してる!》


 その間にも、グレイは苦戦を強いられていた。彼の斧は頑丈だが、聖なる力を持たないため、決定打を与えられないでいる。


「ユウキ! こいつ、胸の結晶が光ると動きが速くなるぞ!」

「分かりました!」


 俺は敵をいなしながら、【鑑定眼・極】で分析を進める。

 グレイの言う通り、敵の力の源は、心臓部に埋め込まれた『呪晶石』だ。あれが、彼らを生ける呪詛兵器へと変えている。


「グレイさん! 狙いは胸の石です! そこを破壊すれば、奴らは止まる!」

「おう、分かった!」


 俺の指示に、グレイがニヤリと笑う。

 彼は敵の剛腕をわざと受け止め、懐に潜り込むと、渾身の力を込めて、戦斧の柄の先端石突きを、相手の胸の呪晶石へと叩き込んだ。


 ―――パリンッ!


 甲高い音を立てて、呪晶石に亀裂が入る。

 途端に、大男の動きが鈍った。


「もらった!」


 俺もまた、相手の攻撃の隙を突き、真正面から聖剣を突き立てた。狙いは寸分たがわず、胸の中心に埋め込まれた呪晶石。

 聖剣の刃が呪晶石を貫いた瞬間、二人の大男は同時に、声にならない断末魔を上げた。そして、その体は内側から溢れ出す聖なる光によって浄化され、塵となって崩れ落ちていった。


「……ふぅ。片付いたか」


 俺たちが息をつくのも束の間。

 パチパチ、と背後から拍手の音が聞こえた。

 振り返ると、そこには、儀式を終えたセレスティーナが、笑みを浮かべて立っていた。


「見事だわ。私の可愛い人形たちを、こうも簡単にお掃除してしまうなんて」


 彼女の体からは、先程までとは比較にならない、禍々しい瘴気と神々しい聖なる気が、渦を巻くように溢れ出している。祭壇の水晶は光を失い、その力は全て、彼女の持つ杖へと吸収されたようだった。


「おしゃべりは、もう終わり」


 彼女の赤い瞳が、俺たちを――いや、俺の持つ聖剣を、ねっとりと見つめる。


「ウォーミングアップは済んだかしら? さあ、見せてあげるわ。これが、神に最も近づいた人間の力よ」


 セレスティーナが杖を軽く振るう。

 それだけで、遺跡の床から、瘴気と聖なる光が入り混じった無数の棘が、俺たち目掛けて突き出してきた。


「くっ……!」


 咄嗟に散開してそれを回避する。

 次元が違う。手下たちとは、比べ物にならない圧倒的な魔力。

 これが、神を驕る力だというのか!

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