第12話 夜の戦
火縄銃の一斉射を見ていた
「持ち込んだ種子島は、これで終いとなります」
射撃を指揮していた
「抱えていた根来の奴らをこんな事で使うとはな。もっと大きな戦で使いたかったよ」
少し悔しそうな顔で泰繁が鉄砲隊を見た後に槍を持ち直して叫ぶ。
「井伊家の武士でもよ!恥知らずの輩共に、我らの意地を見せてやれ」
泰繁が部下たちに激励すると、槍刀を持った武者達が大声で答えた。
「突撃!」
100名ほどの集団は、まさしく"火の矢"となり、集落へ突っ込んでいく。
集落の出入り口にいた見張りの賊達は、瞬時に八つ裂きにされていき、ほかの獲物を求めて走っていった。
「井伊家の鬼共が来たぞ!皆備えろ」
「岡野殿は、近くの者たち共に負傷者を奥の屋敷に連れて行って手当てをしてやれ。浪人達は、百姓を守るために前に出よ!」
「し、承知しました!」
真ん中の道をたいまつ片手に走っていく勘兵たちの前には、幾人もの同胞の亡骸が転がっており、昼間の勝利が嘘のような惨状となっていた。
「夜襲にしては乱暴な攻め方だな。予定通りの策を行うぞ!塩野たちにも合図で知らせろ」
「承知!」
ついてきたものの中から何人かが闇のなかにかけていくと、後ろにてたいまつを持っていた者が大きく振りはじめた。
「支度が終わるまでここを通すな!」
「おう!」
勘兵ら浪人が決意を決めた顔をした途端に井伊の鬼どもが、暗闇なら飛び出してきた。
勘兵は、1人の槍を握り捕らえると、そのまま相手の首に向かって切先を差し込む。
刺された相手の首からは、ドクドクと赤黒い液体が溢れていき、彼の顔色を白く変えていった。
別の兵士は、勘兵に向かう前に側にいた浪人が槍を突き立てて押さえ込んだ。
「すまんな!」
「何の!これからですぞ」
掛け声を掛け合いながら、近くにいる者たちに背中を預けながら戦い続ける勘兵であったが、次第に勢いのある井伊勢に押し込まれ始める。
「さすがに苦しいか」
勘兵が肩で息をするようになってきた頃には、周りにいた浪人達は、3、4人程度になっていた。
「大人しく切られるのだな、賊どもよ!この儂が楽にしてやる」
少し勇ましそうな甲冑武者が刃を突き立ててとどめを刺そうとする。
「さて?それは、どうかな」
勘兵がそう言うと共に外縁にあった民家より、火の手と爆音が起こった。
この音は、馬上で指揮を執っていた小十郎や泰繁の耳にも聞こえた。
「何事じゃ!」
「集落の外側民家が燃えております!おそらく、賊軍がつけたものかと」
「なんと!やつら狂ったか」
状況を聞いた小十郎が驚いた表情で集落の方を見る。
炎に照らされて影になっている両軍の兵士の姿が映り込み、小十郎の腕を止めさせた。
「一旦、皆を下げさせろ!このままでは、犠牲が増えてしまう」
小十郎がそう言うと、彼が率いる部隊が戦場を離れて行った。
小十郎の撤退は、泰繁の部隊を窮地に立たせてしまった。
火災による混乱と味方の撤退は、部下たちへの動揺を誘ってしった。
「小十郎の兵は、どこに行った!」
「分かりませんが、おそらく逃げ出したのかもしれません」
「なんじゃと!ふざけるでない」
泰繁が憤慨していると、奥から負傷した雑兵が戻ってきた。
「申し上げます!集落に飛び入りし当隊が、この火により混乱!収拾のつかない状況であります」
「なんと!」
泰繁は、矢ダルマになっていた雑兵の姿と、その者が告げた報告に動揺していた。
「どうしたのだ!井伊の鬼どもよ」
火に包まれた集落から出てきた勘兵が血だるまになりながら泰繁に向かって吠える。
「郎賊風情が、偉そうに!」
「郎賊と言ってくれるな!お前たちに主を失ってから、ひっそりと暮らしていた者を表に引きずり出したのは、お前らの悪政であろうに」
「なっ!」
嫌な所を突かれた泰繁は、勘兵を斬り伏せに行くことにすら躊躇っていしまっていた。
「どうしたのだ?井伊家の武士よ。何か思い当たることでもあるのか」
「ええい、無礼な!そのような戯言を申すものではない」
勘兵の言葉に泰繁の隣りにいる家臣が唸るように否定する。
「そちらの大将は、何か知っているみたいだぞ」
「やかましい!貴様にどうこう言われる筋合は無い」
泰繁が怒りの表情で槍を向けたものの、周りの家臣から止められる。
「全軍、撤退だ!撤退せよ」
その声を響かせると、集落内にいる雑兵達も慌てて出てきた。
「逃げ帰るか!甲斐性なしが」
撤退していく赤甲冑の一団に勘兵がとどめの言葉を浴びせる。
「やっと終わったか。さすがに堪えたな」
余裕そうに煽り言葉を並べていた勘兵であったが、さすがに堪えたならしく、彼らの退却した後に座り込んでしまった。
「さぁて。次は、どう出るかな」
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