夏休み、自転車旅

秋風 優朔

どっかの坂にて(プロローグ)

 初めはあんなに軽々と自分を運んでくれた自転車が、いつの間にか何トン太ったんだと言いたくなるくらいに重たく感じる。それを前のめりになりながら、全体重をかけて坂を押し上げていく。余計に疲れそうな気もしないでもないが、もうこうでもしないと逆に坂を滑り落ちて行きそうだ。

「拓海ぃ~!遅いよもっと気合い入れなきゃ!」

声に顔を上げたとたん、顎から汗がボタボタ落ちて行くのが分かる。

 ひと際急なこの坂を上り切ったあたりで、夏帆が手を振って飛び跳ねている。

「一人だけ!自転車乗り捨てて身軽だからって、調子乗りやがって!」

 汗を腕で拭いながら叫び返すと、半分呻き声みたいな声が飛んで行った。

「だって壊れちゃったんだもん!しょうがないじゃん!」

 怪獣映画の鳴き声みたいな野太いため息を吐きながら、気合いを入れて一度止めてしまったタイヤをもう一度転がし始める。山道の、街なかと違った乾いた風と木の葉っぱが作る日影が無ければきっともう三回は死んでる。山道なせいでこうなっているわけでもあるが。

 さて、何故こんなことになっているのか、と言う話だが、それを説明しようとすると昨日の今頃まで話を戻す必要がある。

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