第13話 蒼也  書きたくない

 小説家デビューしてからも、出版社の担当さんとは、電話かメールのやり取りで直接会ってはいなかった。

 

 デビュー作の受賞式は、当日ドタキャンした。

 実際、緊張しすぎて高熱を出して寝込んでいた。


 コミュ症なので、と、顔出しの仕事はお断りしていた。


 書いた原稿は、宅配便で当日着で簡単に送れたし、家で出来る この仕事は、自分にあっている。

 そう思っていた。


 6作目を書こうとしていた時、ふと、書きたくないなと思った。

 なんで書きたくないのか、わからなかった。

 俗に言うスランプってやつなのだろうか?

 

 ネタ切れしたわけではない。

 書きたいと思って、構想を練っていた作品は何作かあった。

 短編でもいいって言われているから、書きためている未発表の作品の中から1つを出してきて、ブラッシュアップしたっていいだろう。


 だけど、そういうことではなくて、ただ単純に、書きたくないと思ってしまっていた。


 

 それをそのまま蒼真に話した。


「わかった。兄さん、少し休みなよ」

 優しく微笑んでくれた。


 蒼真は、自分の部屋からノートを手に戻ってくると、


「佐倉あおの名を落としちゃうかもしれないけど、俺に書かせてくれない?これ、読んでみて!」

 

 そう言ってノートを俺に手渡した。


『メイクひとつで変われるくらいなら』


 素晴らしいと思った。

 独自の視点とざん新な切り口。

 冴えない少女の成長物語。


 俺が見込んだ通り、蒼真には才能がある。


 これは、佐倉あおの作品として出すのではなく、

桜森蒼真のオリジナル作品として世に出すべきだ。

 俺は蒼真に何度もそう言った。


「兄さん、俺ね、兄さんとは違って 全然これっぽっちも才能がないんだよ。

 でもね、小説は書きたくて、今まで書きためてきたから。

 それが、佐倉あおの作品として日の目を見ることができるのなら、本望だからさ。

 ただ、佐倉あおの読者には、こんな作品 受け入れてもらえないかもしれないけど」



 発売と同時に話題が話題を呼んで、これまでの

 佐倉あおの作品で最高の売上部数となった。


『佐倉あおの新境地!!』

『過去の作品からの脱却!!』


 だそうだ。




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