鎖のように、光のように

――ガラスの小さな輝きが、二人の間に静かに息づいている。


 紗英は指先でそっとペンダントを撫でた。その動作は、まるで壊れやすい秘密を確かめるように慎重で、触れるたびに透明なガラスの中の光が揺れる。

「……大事にします」

 その声は、冬の夜気よりも静かで、けれど確かに温かかった。


 駅までの道、私たちは多くを語らなかった。

 けれど、その沈黙は不思議と重くなく、むしろ足並みを揃えるたびに、互いの距離が少しずつ近づいていくのを感じた。


 駅前に着くと、ホームに滑り込む電車の音が遠くから聞こえてくる。

「……じゃあ、また」

 そう言いかけた紗英の腕を、私はほんの一瞬だけ引き止めた。

「……うん。また」

 言葉にした瞬間、離れていく手のひらに、彼女の体温がまだ残っていた。


 ホームに消えていく後ろ姿を見送りながら、私は胸元で息を整える。

 ポケットの中には、彼女と選んだ店のレシートが、まだ温もりを残して折り畳まれていた。


 夜風が吹き抜ける。

 けれど、首元に残る香りと、あの透明な輝きを思い出すだけで、不思議と寒さは感じなかった。


——この小さな光がある限り、彼女はきっと、私のそばにいる。


街の灯りがにじむ夜道を、私は一人、ゆっくりと歩き出した。

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