番外編 3話【完】
「穂摘、水はいらないか」
「水はいいです……さっきももらいました」
「それなら葛でも溶かすか。粉を保存してあるからすぐ出来る」
「葛はまた今度お願いします。それより、敷布は」
「それならさっき洗って干した」
「ありがとうございます。それなら俺は、昼餉の準備を……」
「だめだ、今日はずっとそこにいてくれ」
「……」
翌日、穂摘はずっと敷布団のうえにいた。今は体を横にしているが、対して志郎は起きて、土間であれこれと動き回っている。寝ているのも暇で起き上がってみたものの、目ざとく見つけられて、すぐに志郎に布団に横たえられた。
今朝、いつもより遅く起きてからずっとこの調子だ。
確かに昨夜はそれはそれは盛り上がった。結局穂摘は前も後ろも貫かれて幾度となく達し、志郎もどうにか両手で済む程度の回数分、穂摘のなかに放った。
初めての行為で乱れに乱れてしまって確かに疲れてはいたし、酷使した関節はぎしぎしと軋んでいる。あられもない声をあげ続けたことで喉は枯れ、水気の足りない声になってしまったが、疲労で起き上がれないというわけでもない。むしろ最近の悩みが晴れ、気持ちはさっぱりとしている。
それなのに、志郎は穂摘が火傷で寝付いていた時のようにかいがいしく世話をして、それこそ家から出ても構わない体になったというのに、家どころか床からも出してもらえないありさまだった。
世話ばかりされているのは嫌だ。
なんといったって、昨日二人は祝言をあげて、穂摘は晴れて志郎の伴侶になったのだ。それなのにこんな風に寝付いているのは性に合わない。
思わずむっつりと頬を膨らませると、志郎が驚いたように目をむいた。
「どうした、穂摘。体調が悪いのか」
「……」
「痛いところがあるなら今すぐ診る。昨日は擦りすぎたかもしれない、軟膏を……いや、まずは診察を」
「大丈夫ですっ」
確かに脚の間の狭間も、排泄にしか使ったことのなかった場所も少し腫れぼったい。けれどこんな陽の高い時間から見られてはたまらない。
めくられてたまるかと穂摘は着物の裾を抑えたが、悪いところがあるのではと真摯に心配をする志郎は早速穂摘の着物を剥こうと手をかけてきた。
「お前の体が心配だ」
「大丈夫ですから! なんともないですから!」
慌てて布団から退くも、足腰はまるで生まれたての仔馬のように覚束ない。それでも逃げなければ昼間っから脚を開かされてしまうと逃げる穂摘を追って、志郎が畳をきしませる。
どたばたと暴れる二人は、相変わらず建てつけの悪い入口の戸が引かれ、差し入れを持ってきてくれたお梅が「おやまあ、もう夫婦げんかかい?」とあきれた声をあげるまで気付かなかった。
寄り添って眠り、互いに目覚めては何気ない一日を始める日常が、これからずっと続いていく。
そんな日々を過ごし、いくつかの季節を見送ったそののちに待望の命を授かることとなるが、それはまた別の話だ。
番外編・完
君がため 晦リリ @riri_t
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