断食芸人
@Kosakiemile
断食芸人
断食芸人が街を去った
断食芸人が街を去った
誰に気づかれることもなく
月光と共に通りを去った
ある人は少し悲しんだ
街灯の射す裏路地の一角
ガードレールの隣の粗い地面に
断食芸人は座っていた
三ヶ月間、何をするでもなく
あの人は結局それに
気づくことはなかったのだ
ネオンに導かれて路地にたどり着いた
夢想家のミュージシャンは
ハーモニカを吹きながら
断食芸人と自分を重ねていたが
彼は物も言わず行ってしまった
路地前の通りで交通整理をしていた
来週喜寿を迎える老人は
月光と共にすすき畑を駆ける
断食芸人の噂を聞いたが
あるいはそれは旋風であったのかもしれない
断食芸人をじっと見つめながら
少年は手を引かれて通り過ぎた
やがて彼が子を持ち
その手を引き通りを歩いた時
あの男のことを思い出した
オフィスの硝子に埋め込まれた窓際族の目は
裏路地に座る断食芸人を
ただ遠巻きに、遠巻きに見ていた
三ヶ月間、何をするでもなく
断食芸人が街を去った夜も
窓際族は立ち上がる断食芸人を見た
三ヶ月の沈黙を、凝固を、停滞を
その身体に宿す一人の断食芸人を見た
電灯の光が彼に覆いかぶさり、
アスファルトが四肢に反目した
窓際族の目にその顔は映らなかった
やがて煤けた藁人形が、
オフィスに背を向け歩き出した
月光が彼を手繰り、すすき畑が頬をくすぐった
窓際族は、これが最後の機会であることを悟った
しかし、体が動かない
断食芸人は歩き出した
しかし、体が動かない
断食芸人は歩き出した
しかし、体は動かない
断食芸人は駆け出した
しかし、体は動かない
断食芸人 @Kosakiemile
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