『俺達のグレートなキャンプ85 辛さ危険レベル!かき氷の特製シロップ作り』
海山純平
第85話 辛さ危険レベル!かき氷の特製シロップ作り
俺達のグレートなキャンプ85 辛さ危険レベル!かき氷の特製シロップ作り
朝の清々しい山間のキャンプ場。霧がゆっくりと谷間から立ち上り、鳥のさえずりが響く中、テントから勢いよく飛び出してきた石川が両手を空に向かって力強く突き上げる。その瞬間、近くの木の枝に止まっていた小鳥たちが一斉に飛び立つ。
「よっしゃあああああ!!今日も最高のキャンプ日和だぁぁぁ!」
その大声で隣のテントサイトのおじさんキャンパーがコーヒーカップを持ったまま震え上がり、熱いコーヒーを膝にこぼしてしまう。慌ててタオルで拭きながら「あちちち...」と呟いている。石川は全く気にせず、テントの前でダイナミックに伸びをしながら、まるで悪だくみを思いついた子供のようにニヤニヤと不敵な笑みを浮かべている。
「石川、朝からうるさいよ...近所迷惑になるでしょ...」
富山がテントから顔だけ出して、寝癖で髪がボサボサのまま眉間に深いしわを寄せて文句を言う。しかし石川は聞いちゃいない。既にキャンプ椅子に腰を下ろし、大きなリュックからゴソゴソと何やら怪しげな小瓶やら袋やら、得体の知れない物体を次々と取り出し始めている。
「おはよう石川!今日は何するの?楽しいことかな?」
千葉が元気よくテントから飛び出してくる。新品のキャンプウェアがピカピカに光っており、まだ慣れない様子でテントのファスナーと必死に格闘している。ファスナーが途中で引っかかって「あれ?あれれ?」と困惑している姿が初々しい。
「千葉!タイミングバッチリだ!今日のグレートなキャンプ企画を発表するぞ!」
石川が勢いよく立ち上がり、持っていた怪しげな小瓶を高々と掲げる。その瓶の中には血のような真っ赤な液体が入っており、太陽の光を受けてギラギラと禍々しい光を放っている。まるで魔法使いが調合した怪しげなポーションのようだ。
「今日は『かき氷の特製シロップ作り』だああああ!!」
石川の声が山々にこだまして響き渡る。
「おおお!シロップ作り!でも...」千葉が目を輝かせて手をパチパチと叩くが、ふと石川の表情を見て不安そうな顔になる。「普通のシロップじゃないよね?石川の企画だもん...」
「もちろん!普通のシロップなんて面白くない!」石川がドヤ顔で胸を張り、さらに複数の小瓶を取り出す。「辛さ危険レベルの激辛シロップを作るんだ!世界最凶の唐辛子軍団を使った、文字通り命がけのかき氷シロップだぁぁぁ!」
富山がテントから完全に出てきて、石川の手にある小瓶の数々を見て顔面蒼白になる。手がわなわなと震えている。
「ちょ、ちょっと待って石川!それってまさか...複数あるじゃない...」
「そう!」石川が興奮気味に小瓶を一つずつ紹介し始める。「まずはキャロライナ・リーパーのエキス!スコヴィル値220万!ハバネロの約100倍の辛さ!」
一本目の瓶をクルクルと回す。中の赤い液体がドロドロと不気味に揺れる。
「次にトリニダード・スコーピオン・ブッチ・テイラー!スコヴィル値146万!」
二本目の瓶は黄色っぽい液体で、なぜか小さな粒々が浮いている。
「そしてゴースト・ペッパーのパウダー!これは粉末だ!」
小さな袋を振ると、中から細かい粉が舞い上がる。その瞬間、微かに刺激的な匂いが漂う。
「最後に秘密兵器...デス・ソース『地獄の業火』!これはタバスコの1000倍だ!」
最後の瓶は真っ黒で、ラベルにドクロマークが描かれている。明らかに食べ物に使うものではない見た目だ。
富山の顔がどんどん青くなり、ついには緑色に変色し始める。
「石川...それ、本当に食べ物に使って大丈夫なの?というか、それって食べ物なの?」
富山の声が震えて裏返っている。
「大丈夫大丈夫!適量使えば問題ないって!ネットで調べたもん!」
石川が軽くヘラヘラ笑いながら答えるが、その「適量」という言葉に全く説得力がない。そもそも石川が「適量」を守るタイプではないことを、富山は長年の付き合いで痛いほど知っている。
千葉が興味と恐怖の入り混じった表情で小瓶群を覗き込む。
「すげー!これがあの有名な世界最凶唐辛子のエキスたちかあ!でも、かき氷に辛いシロップって...斬新すぎない?てか、本当に大丈夫?」
「それがいいんだよ千葉!普通のかき氷なんて誰でもできる!コンビニでも買える!俺たちのグレートなキャンプは常に限界突破、常識破壊だ!」
石川が拳を握りしめて力説する。その熱意と狂気が入り混じった表情に押されて、千葉もだんだんテンションが上がってくる。
「よし!やってみよう!どんなキャンプも一緒にやれば楽しくなる!...多分!」
「そうこなくっちゃ!」
二人でハイタッチ。パシンという音が朝の静寂に響く。富山だけが一人、両手で頭を抱えて深いため息をついている。
「はあ...また私だけ常識人になっちゃうのね...胃薬持ってきて良かった...」
石川がさらにリュックから様々なものを取り出し始める。手動のかき氷機、大量の氷、砂糖、水、食紅、そして...
「あ、これも必要だな」
石川が取り出したのは、なぜか軍用の防毒マスク、ゴム手袋、安全ゴーグル、そしてなぜかトング。
「ちょっと待って!なんでそんな装備が必要なの?!」富山が慌てて立ち上がる。
「安全第一だからな!素手で触ったり、匂いを直接嗅いだりしたら大変なことになるかもしれない」
「かもしれないって...もう既に危険だって認めてるじゃない!」
千葉も流石に青ざめてきた。
「ね、ねえ石川...やっぱり普通のシロップだけでもいいんじゃない?」
「何言ってるんだ!これからが本番だぞ!」
石川が防毒マスクを装着する。その姿はもはやキャンパーではなく、危険物処理の専門家のようだ。
「よーし!材料は完璧だ!まずは実験台として普通のシロップも作るぞ!」
「実験台って...」千葉が呟く。
「普通のも作るの?意外ね」富山がホッとしたような表情を見せる。
「当たり前だろ!激辛のだけじゃ、周りのキャンパーさんたちに分けてあげられないからな!それに、激辛の効果を測定するためには比較対象が必要だ!」
石川がニヤリと笑って周りを見回す。確かに、朝の準備をしている他のキャンパーたちがチラチラとこちらを見ている。石川の大声と異様な装備で、既に注目の的になっている。隣のサイトの子供が「お父さん、あの人なに?」と指差している。
「あ、でも大丈夫かな...迷惑かけちゃったりしない?変な人だと思われない?」
千葉が少し心配そうに周りを見回す。
「心配すんな!俺たちのグレートなキャンプは必ずみんなを巻き込んで楽しくするのがモットーだからな!最初はみんな驚くけど、最後は笑顔になってるはずだ!」
富山がさらに深いため息をつく。
「毎回毎回...私の胃と心臓が持たないわよ...」
しかし、石川の準備は着々と進んでいる。テーブルの上にかき氷機をセットし、氷を準備し、シロップ作りの材料を整然と並べている。その手際の良さはさすがベテランキャンパーだが、並んでいる材料が普通じゃない。
「よし!まずは普通のシロップから作るぞ!いちご味、メロン味、ブルーハワイ味!これで安全性を確認だ!」
石川が食紅と砂糖を使って、手慣れた様子でシロップを作り始める。千葉が感心したように見つめている。
「すげー石川!手際いいなあ!普通のシロップ作りは完璧だね!」
「キャンプ歴長いからな!でも...」石川の表情が急に真剣になる。「ここからが本番だ...」
石川が例のキャロライナ・リーパーのエキスの小瓶を手に取る。富山が身を固くして、無意識に一歩後ずさりする。
「い、いよいよね...」
「まずは最も安全と思われるキャロライナ・リーパーから試すぞ!千葉、軍手はめろ!ゴーグルもつけろ!素手で触ったり目に入ったりしたら大変なことになる!」
「了解!でも、最も安全って言い方が既に危険よね...」
千葉が慌てて軍手をはめ、ゴーグルをつける。石川も同様に完全防備体制を整えている。その異様な格好に、周りのキャンパーたちがザワザワと騒ぎ始める。
隣のサイトの若いカップルが完全に心配そうにこちらを見ている。女性の方が恐る恐る声をかけてくる。
「あの...何か危険な実験でもしてるんですか?化学実験?それとも爆弾処理?」
「あ!すみません!かき氷のシロップ作ってるだけです!」
千葉が慌てて説明するが、防毒マスクとゴーグルをつけた姿では全然説得力がない。むしろ余計に怪しい。
「か、かき氷?そのフル装備で?」
男性の方が困惑している。もっともな反応だ。
「そうです!世界一辛い唐辛子を使った特製シロップなんです!」
千葉の説明を聞いて、カップルの顔が青ざめる。
「世界一辛い...」
「それって食べ物なんですか...?」
石川がニヤリと笑って、トングでキャロライナ・リーパーのエキスの瓶を慎重に持ち上げる。
「いくぞ...歴史的瞬間の始まりだ...」
瓶の蓋をゆっくりと開ける。その瞬間...
プシューーーー...
まるで毒ガスが放出されたような音がした。いや、実際にはそんな音はしないはずなのに、みんなの耳にはそう聞こえた。
ツーーーーン...
刺激的な匂いが一瞬でキャンプサイト全体に広がる。
「うわああああ!」千葉が鼻をつまんで後ずさりする。
「目が痛い!」富山が涙を流し始める。
周りのキャンパーたちも慌てて距離を取り始める。子供たちが「くさい!」と言って親の後ろに隠れる。
「石川!換気扇のないところでそんなことして本当に大丈夫なの?!近所迷惑よ!」
「へーきへーき!これくらいなら...うっ、ゴホゴホ」
石川も途中で激しく咳き込んでしまう。防毒マスクをつけているにも関わらず、刺激臭が漏れてくる。
「石川!大丈夫?!」千葉が心配そうに駆け寄る。
「だ、大丈夫だ!これも想定内...多分...」
周りのキャンパーたちが明らかにざわめいている。隣のサイトのおじさんが心配そうに、でも慎重に距離を保ちながら近づいてくる。
「君たち、本当に大丈夫かい?なんだか危険物処理現場のようになってるが...」
「だ、大丈夫です!ちょっと激辛のシロップを...」
石川が咳き込みながら説明するが、その姿は全く「大丈夫」には見えない。
「激辛?どのくらい激辛なんだい?」
おじさんが興味深そうに聞く。
「え〜っと...ハバネロの100倍です...」
千葉が恐る恐る答える。
おじさんの顔が一瞬で青ざめる。
「100倍?!そんなものを食べるって言うのかい?!」
だんだん他のキャンパーたちも集まってきている。みんな興味深そうだが、安全な距離を保っている。まるで動物園の危険な動物を観察するような感じだ。
「よし!蓋は開いた!次は砂糖水に一滴垂らすぞ!」
石川がトングで慎重に瓶を傾ける。
ポトッ...
たった一滴のエキスが砂糖水に落ちる。その瞬間...
ジュワァァァァァ...
砂糖水が泡立ち始める。いや、これは気のせいかもしれない。でも確実に何かが起こっている。水の色が微かに赤く染まり、そこから立ち上る湯気が不気味に揺らめく。
「うわあああ!なんか化学反応起こってる!」
千葉が指を差して叫ぶ。
「大丈夫よ...多分...ただの着色よ...」
富山が自分に言い聞かせるように呟くが、声が震えている。
確かに、ツンとした刺激的な匂いがさらに強くなっている。富山が慌ててタオルで鼻と口を覆う。
「石川!これ本当に食べるの?!毒じゃないの?!」
「毒じゃない!ちゃんと食用だ!パッケージにも書いてある!」
石川がエキスの瓶のラベルを見せる。確かに小さく「食用」と書いてあるが、その下には「WARNING:EXTREMELY HOT」「KEEP AWAY FROM CHILDREN」「USE WITH EXTREME CAUTION」など、物騒な注意書きが英語でびっしりと書かれている。
周りのキャンパーたちがさらにざわめく。
「あの人たち、本当に食べるつもりなのかしら...」
「救急車呼んだ方がいいんじゃない?」
「でも面白そうよね...遠くから見てる分には...」
石川がスプーンで激辛シロップをかき混ぜる。液体がドロドロと不気味に回る。
「よし!第一号激辛シロップ完成!次は氷だ!」
手動のかき氷機をガリガリと回し始める。千葉も恐る恐る手伝って、二人でガリガリ、ガリガリ。
「あー...これは楽しいんだけど...」千葉が複雑な表情で氷を削っている。「この後のことを考えると...」
「心配すんな!俺が責任持って最初に食べるから!」
石川も満足そうに頷きながら氷を削る。
富山は相変わらず心配そうに見守っている。
「本当に大丈夫なのよね...救急車呼ぶことになったりしない?保険証持ってる?」
「大袈裟だって富山!ちょっと辛いだけだよ!人間の舌は意外と丈夫なんだ!」
「ちょっとじゃないでしょ!ハバネロの100倍よ!」
石川がふわふわの真っ白な氷山を作り上げる。それはまるで純粋無垢な羊のようで、これから起こる惨劇を予感させない平和な見た目だ。
そこに恐る恐る、スプーンで激辛シロップを一滴垂らす。
ジュワッ...
氷が一瞬で少し溶けたような気がする。いや、気のせいではない。明らかに氷の表面が溶けている。激辛エキスの化学的な力で氷が溶解反応を起こしているのだ。
「うわ!氷が溶けてる!」
千葉が驚いて指を差す。
「そんなバカな...」
富山が恐る恐る近づいて見る。確かに、シロップをかけた部分だけ氷が溶けて小さな穴ができている。
「これって...氷すら溶かすってこと?」
「すげー!まるで硫酸みたい!」
千葉が興味深そうに観察する。
「硫酸って言うな!不吉だ!」
富山が慌てて制止する。
「さあ!記念すべき第一号の完成だ!」
石川が誇らしげに激辛かき氷を掲げる。見た目は普通のかき氷だが、なんとなく禍々しいオーラを放っている。氷の表面に赤いシロップがかかっている部分から、微かに湯気のようなものが立ち上っている。
「で、誰が食べるの?」
富山が恐る恐る聞く。心の中では「まさか私じゃないわよね?」と祈っている。
「もちろん俺だ!発案者の特権だからな!」
石川が胸を張る。その勇気というか無謀さに、周りのキャンパーたちが息を呑む。
「待って石川!」千葉が慌てて手を上げる。「最初はほんの少しずつ味見した方がいいんじゃない?一口全部はヤバそうだよ!」
「そうね...いきなり全部食べるのは自殺行為よ」
富山も同意する。
「分かった分かった!じゃあ、米粒大から...いや、ゴマ粒大から始めよう...」
石川がスプーンで氷をほんの少しだけすくう。本当にゴマ粒ほどの量だが、それでも鼻にツンとくる匂いがする。
周りのキャンパーたちが固唾を呑んで見守っている。なんだか公開処刑のような雰囲気になってしまっている。子供たちまで「がんばれー」と応援している。
「いくぞ...人類未踏の領域への挑戦だ...」
石川が意を決して、恐る恐る口に運ぶ。
パクッ。
シーーーン...
キャンプ場全体が静寂に包まれる。鳥のさえずりも聞こえない。
1秒経過...
石川の表情は平静だ。
「あれ?案外...」
3秒経過...
「意外と平気かも...」
5秒経過...
「やっぱり俺には辛さが足りな...」
7秒経過...
石川の顔が急に赤くなる。
10秒経過...
「あ...あれ...?」
12秒経過...
「のど...が...」
15秒経過...
「うわあああああああああ!!!」
石川が突然跳び上がり、テーブルの周りをグルグル走り回り始める。
「あちいいいいいい!あちいいいいい!」
「みず!みず!みずうううう!!!」
千葉が慌てて水を差し出すが、石川は受け取る余裕もなく、ひたすら跳び回っている。まるで火の上で踊る原始人のような動きだ。
「いたああああい!舌がああああ!のどがああああ!」
石川が口を大きく開けて「はあはあ」と犬のように舌を出している。
「ほら見なさい...予想通りよ...」
富山が呆れたように頭を振るが、その顔も心配そうだ。
隣のサイトのカップルが慌てて駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか?!牛乳持ってきましょうか?!氷は?!」
「お願いします!牛乳!牛乳です!」
千葉が必死に頭を下げる。
石川は相変わらず跳び回っている。その様子があまりにもオーバーアクションで、だんだん周りのキャンパーたちが心配から興味へ、そして笑いへと変わってきている。
「あはは!すごい踊りね!」
「まるでインディアンの雨乞いダンスみたい!」
「でも本当に大丈夫かしら?」
石川がテーブルに飛び乗り、両手を上に向けて「うおおおお!」と雄叫びを上げる。
「石川!テーブルから降りなさい!」
富山が慌てて注意するが、石川には聞こえていない。
牛乳を持ってきてもらい、石川がコップを奪い取るようにして一気飲みする。
ゴクゴクゴクゴク...
「ぷはああああ...」
石川がようやく落ち着いて、椅子に座り込む。汗だくで髪がボサボサになっている。
「はああああ...生き返った...でも...」
「でも?」
千葉が恐る恐る聞く。
石川の目がまたキラリと光る。
「これは面白いぞ!」
「え?」
「この反応!この盛り上がり!これぞグレートなキャンプの真骨頂だ!」
石川が再び元気を取り戻し、立ち上がって手をパンパンと叩く。
「みなさん!よろしければ一緒にかき氷パーティーしませんか?!もちろん普通の甘いシロップもたくさんありますよ!激辛チャレンジは完全に自由参加です!」
石川が周りのキャンパーたちに声をかけると、意外にも反応が良い。
「面白そうですね!参加させてください!」
「私たちも混ぜてもらえますか?子供たちも喜びそう!」
「激辛の方も...ちょっと興味あります...見てるだけでも...」
あっという間に、石川たちのサイトは大勢のキャンパーで賑わい始める。
千葉が感動して石川を見つめる。
「すげー石川!本当にみんなを巻き込んじゃった!さっきまで心配してた人たちが笑顔になってる!」
「だろ?これが俺たちのグレートなキャンプの力だ!最初はみんな驚くけど、最後は笑顔になってる!」
富山も呆れながらも、どこか嬉しそうにしている。
「まったく...でも確かに楽しくなってきたわね。人間って不思議よね」
みんなでかき氷作りが始まる。普通のシロップの方は大人気で、子供たちも「おいしい!」と言って喜んで食べている。色とりどりのかき氷が次々と作られていく。
そして激辛シロップの方は...
「じゃあ僕が二番目の挑戦者として名乗り出ます!」
隣のサイトの若い男性キャンパーが勇敢に手を上げる。
「おお!勇者現る!でも本当に大丈夫?」
石川が心配そうに聞く。さっき自分が体験した地獄を思い出している。
「大丈夫です!石川さんが生きてるんだから僕も大丈夫でしょう!」
結果は...やっぱり石川と同じような反応。ゴマ粒大の激辛かき氷を口に入れた瞬間は平気そうだったが、15秒後に突然跳び上がり、テントサイトを駆け回って「あちいいいい!」と叫んでいる。
「うわああああ!石川さん!これヤバすぎます!」
周りのみんなが大爆笑。彼女も心配しながらも笑っている。
「ほらね!みんな同じ反応なのよ!」
富山が満足そうに腕を組む。
「次は私がやってみる!」
今度は勇気ある女性キャンパーが挑戦。
「え?大丈夫ですか?男性でもあの反応ですよ?」
千葉が心配そうに聞く。
「大丈夫!女性の方が辛いものに強いって言うでしょ?」
結果は...やっぱり同じ。むしろ反応がもっと激しかった。テーブルの上に飛び乗って「きゃああああ!助けてええええ!」と絶叫し、まるでゴジラに追いかけられているような動きで逃げ回る。
「うそでしょ?!辛いものには強いはずなのに!」
彼女が牛乳を一気飲みしながら涙目で叫ぶ。でもなぜか笑顔で「面白い体験でした!話のネタになります!」と言ってくれる。
だんだんと、激辛かき氷チャレンジが恒例行事のようになってきている。挑戦者が現れるたびに、みんなで「がんばれー!」と応援し、結果にみんなで爆笑する。まるで縁日のゲームのような盛り上がりだ。
「次は僕の番だ!」
「私も挑戦する!」
「おじいちゃんもやってみる!」
次から次へと挑戦者が現れる。そして全員、例外なく同じ反応を示す。
まず最初の10秒は平気そうにしている。
「あれ?案外平気かも...」
15秒後に顔が赤くなる。
「あ、あれ...?」
20秒後に突然跳び上がる。
「うわあああああ!」
そしてテントサイト内を駆け回る。
「みず!みず!」
この一連の流れが完全にパターン化され、みんなでカウントダウンを始めるようになった。
「10、9、8、7、6...」
「まだ平気そうですね!」
「5、4、3、2、1...」
「きたああああ!」
みんなで大爆笑。もはや完全にアトラクションと化している。
「これって、ある意味新しいキャンプのアクティビティよね」
富山が感心している。
「そうだね!みんなで盛り上がれるし、話のネタにもなるし!絆も深まるし!」
千葉も大満足の様子。
石川は誇らしげに胸を張っている。
「これが俺たちのグレートなキャンプだ!普通じゃつまらない!みんなで限界に挑戦するから楽しいんだ!」
そんな中、一人の男の子が恐る恐る近づいてくる。
「お兄さん...僕もやってみたい...」
「え?」石川が驚く。「君、まだ小学生だろ?これは大人でもキツいんだぞ?」
「でも、みんな楽しそうだから...」
男の子の純粋な眼差しに、石川が困ってしまう。
「うーん...でも危険だからなあ...」
その時、男の子のお母さんが慌てて駆け寄ってくる。
「だめよ太郎!子供には刺激が強すぎるわ!」
「でもお母さん...」
「だめったらだめ!大人になったらね!」
石川がホッとした表情を見せる。
「そうだな、大人になったら一緒にやろう!約束だ!」
男の子が残念そうにしているが、代わりに普通のシロップのかき氷をもらって満足そうに食べている。
その様子を見て、石川がふと何かを思いつく。
「そうだ!せっかくだから、激辛シロップの段階的バージョンも作ってみよう!」
「段階的?」千葉が首をかしげる。
「そう!いきなり最高レベルじゃなくて、レベル1から段階的に辛くしていくんだ!ゲームのようにね!」
石川が興奮して新しいシロップ作りを始める。
「レベル1はハラペーニョベース!これなら一般人でも何とかなるはず!」
ハラペーニョのソースを砂糖水で薄めて作る。
「レベル2はハバネロベース!ちょっと刺激的だけど許容範囲内!」
「レベル3はゴーストペッパー!ここから危険ゾーン!」
「そしてレベル4が今までの激辛シロップ!最終ボス!」
次々とレベル別のシロップを作っていく。その手際の良さに、みんなが感心している。
「すげー!まるで辛さのフルコースみたい!」
千葉が目を輝かせる。
「よし!レベル1から順番に挑戦していこう!」
最初にレベル1を試した挑戦者は、「あ、これなら普通に食べられる!ちょっとピリッとするけど美味しい!」と好評だった。
レベル2も「辛いけど、何とかいけます!汗が出るけど!」という反応。
問題はレベル3から。
「うわ...これはキツい...でも何とか...」
挑戦者が頑張って食べているが、明らかに苦しそう。でもまだ跳び回るほどではない。
「おお!レベル3をクリアした初の挑戦者だ!」
みんなで拍手喝采。
「じゃあ、いよいよレベル4の最終ボスに挑戦だ!」
石川が例のキャロライナ・リーパーシロップを差し出す。
挑戦者の顔が青ざめる。
「これを...食べるんですか...」
「大丈夫!今までみんな生きて帰ってきてる!」
石川が励ますが、全然励みになっていない。
恐る恐るゴマ粒大のレベル4激辛かき氷を口に入れる。
例の10秒ルールにより、最初は平気そうにしている。
「あれ?案外...」
しかし15秒後...
「うわああああああ!やっぱり無理いいいい!」
お約束の跳び回り開始。みんなで大爆笑。
「やっぱりレベル4は別格ね」
富山が納得したように頷く。
そんなこんなで、午前中いっぱい激辛かき氷パーティーが続く。最初は心配していた富山も、結局は楽しそうに普通のかき氷を作って配っている。
「でも石川」
千葉がふと思い出したように言う。
「君はもう二度と激辛の方は食べないよね?あんなに苦しんでたもん」
「え?何言ってるんだ千葉」
石川がニヤリと笑う。
「これから毎回少しずつ慣らしていって、最終的にはレベル4を余裕で食べられるようになるんだ!」
「え゛...」
千葉の顔が青ざめる。
「そして次回はさらなる激辛シロップの開発だ!レベル5、レベル6と段階的にアップグレードしていくぞ!」
「次回って...」
富山も嫌な予感がしている。
「今度はブート・ジョロキアとハバネロとキャロライナ・リーパーの三種混合シロップなんてどうだ?!名付けて『地獄のトリニティ』!」
石川が目をキラキラさせながら妄想を膨らませている。
「石川...」
千葉と富山が同時にため息をつく。
「おおお!それは面白そうですね!ぜひ次回も参加させてください!」
周りのキャンパーたちが盛り上がっている。完全に石川のペースに巻き込まれている。
石川がさらに調子に乗る。
「よし!それじゃあ今度は『俺達のグレートなキャンプ86 地獄の辛さ!激辛シロップ進化系』だ!」
「やめてええええ!」
富山と千葉の絶叫が山間に響き渡る。
しかし石川は既に次回の企画を練り始めている。その目はキラキラと輝き、まったく反省の色が見えない。
「あ、そうそう!今度は激辛綿あめなんてのもいいかもしれないな!砂糖に唐辛子パウダーを混ぜて...」
「綿あめって...そんなこと可能なの?」
千葉が恐る恐る聞く。
「やってみなければ分からない!それがグレートなキャンプの精神だ!実験こそが進歩の源泉だ!」
富山が深い深いため息をついて、空を見上げる。
「私、いつまでこの人についていくのかしら...胃が持たないわ...」
でも、その表情はどこか楽しそうで、心の底では石川の突飛な企画を楽しんでいるのが分かる。実際、今日も結果的にはみんな笑顔になっているし、新しい友達もできた。
千葉も苦笑いしながら頷く。
「でも確かに、こんなに盛り上がったキャンプは初めてだよ。どんなキャンプも一緒にやれば楽しくなるって、本当だったんだね。まさかあんな地獄の辛さでも楽しくなるなんて思わなかった」
「そうだろ?」
石川が満足げに笑う。
「俺たちのグレートなキャンプに不可能はない!限界を超えるから面白いんだ!」
周りのキャンパーたちも、みんな笑顔で後片付けを手伝ってくれている。子供たちは「また来てね!今度は何するの?」と目を輝かせて手を振ってくれている。
「また会えたらいいですね!」
「今度は何をするのか楽しみです!でもちょっと怖いです!」
「激辛シロップ、最高の話のネタになりました!会社で自慢します!」
「レベル3まではいけそうな気がしてきました!」
たくさんの声援を受けて、石川たちも後片付けを始める。
「よし!今日のグレートなキャンプ85も大成功だ!」
石川が拳を握りしめる。
「うん!楽しかった!みんなと仲良くなれたし!」
千葉も笑顔で頷く。
「まあ...確かに楽しかったわね。最初は心配だったけど、結果オーライね」
富山も認めざるを得ない。
三人でハイタッチ。パシンという音が夕方の空気に響く。
その時、石川がまた何かを思いついたような顔をする。
「そういえば...激辛ラーメンのキャンプってのもアリかもしれないな...キャロライナ・リーパー入りの味噌ラーメン...」
「石川あああああ!」
富山と千葉の絶叫が再び山間に響く中、石川は既に次の企画で頭がいっぱいになっている。
「激辛バーベキューに、激辛スモア、激辛コーヒー、激辛マシュマロ...可能性は無限大だ!全部激辛シリーズでいけるぞ!」
「もういいってば!普通のキャンプもしようよ!」
富山と千葉のツッコミを尻目に、石川は夕日に向かって拳を突き上げる。
「俺達のグレートなキャンプは永遠に続くのだあああああ!激辛の道に終わりはない!」
太陽が山の向こうに傾き始め、キャンプ場に夕日が差し込んでくる。今日もまた、石川たちのグレートなキャンプは大盛況で終わりを迎えようとしていた。
でも石川の頭の中では、既に次の奇抜なキャンプ企画がグルグルと回っている。
「そうだ!激辛温泉なんてのもいいかもしれない!入浴剤に唐辛子エキスを...」
「それはもう温泉じゃなくて拷問よ!」
富山が慌てて制止する。
「でも面白そうじゃない?新感覚の温泉体験!」
千葉が意外にも興味を示す。
「千葉まで毒されてる...」
富山が頭を抱える。
こうして、今日もまた石川たちの奇抜で愉快なキャンプが幕を閉じたのだった。明日はどんなグレートなキャンプが待っているのか、それは石川の無限の想像力と、富山の胃薬の残量次第である。
「はあ...今度は胃薬を大容量パックで買っておかなきゃ...」
富山の小さなつぶやきが、夕暮れのキャンプ場に静かに響いていった。
「あ、富山!胃薬も激辛味があったらいいのにな!」
「それは本末転倒よ!」
最後まで石川のペースに振り回される富山と千葉。でも、その顔には確かに笑顔があった。
『俺達のグレートなキャンプ85 辛さ危険レベル!かき氷の特製シロップ作り』
~完~
『俺達のグレートなキャンプ85 辛さ危険レベル!かき氷の特製シロップ作り』 海山純平 @umiyama117
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