転生したらチートが【ドッペルゲンガー】だった件

テマキズシ

ドッペルゲンガー同士の戦いはこんな感じ


「…ん? あれ? ここどこだ?」


 目が覚めると真っ白な世界だった。

 何があったのかと困惑してる間に、目の前に見たもの全てを魅了する美人が現れる。

 突然のことで、俺の体は完全に固まった。


「始めまして。何もできずに死んだ哀れな人間よ。汝に再び道を与えよう」


「……え? 俺、死んだのか!?」


「ええ。筋トレのし過ぎで…ポックリと」


「くそう!!! 済まない俺の筋肉…。俺は…弱い!!! 信じてくれた相棒を…裏切ってしまった!!!」


 絶望。俺の頭は絶望に埋め尽くされる。

 信じてくれた相棒を裏切り、命を落としてしまうなんて…。

 何やら一歩距離を置いた女性は、こちらへ話しかけてくる。


「先程も言いましたが、私は貴方に道を与えます。新たな世界に行く為の力を差し上げましょう」


 俺の体が淡く光る。

 何故だか体がポカポカしてきた。


「新たな世界って…? 力ってなんだ!?」


 困惑する俺に、彼女は優しく語りかけた。


「我々は定期的に人の足りなくなった世界に、別世界から死んだ人を送っています。そうすることでバランスを保っているのです」


 彼女は手から何やら映像を出してきて、分かりやすく俺に教え始めた。


「しかし別世界から人を送る場合では、別世界の記憶を持ってしまうのです。…それだと別世界とのギャップに耐えれずすぐに死んでしまう人が多く、その対策として我々は力を与えています」


 全身から炎を放つ大男。鋼鉄を一瞬で溶かしている。

 次から次へと景色が変わる中、一人だけその場にいる…恐らくテレポートを行なっている女性。

 体が銃に変形し、明らかに普通の銃以上の威力で発射している猫耳男。


「力を与える人間は厳選し、世界に与える影響が問題無い範囲の人間が選ばれます。貴方はその厳正な審査の末、選ばれました」


「……じゃあ、俺にはどんな力が宿るんだ?」


「はい。こちらです」


 よくゲームであるステータス? のような画面が開かれる。

 俺の名前や体重、身長などが記載されており、その中に特殊能力と書かれた項目があった。


「……ドッペルゲンガー?」


「はい。これが貴方の力となります。自身をドッペルゲンガーとする能力のようですね」


「それじゃあ! よく映画とかである変装して華麗に暗殺! とかそんな感じのことができるんですか!?」


「ええ。貴方はどんな人間にもなる事ができます。私が送る世界は現代ファンタジーの世界なので、監視カメラや魔導具と言った本人以外どうしようもできないものも潜り抜けられます」


 おお! なんだかワクワクしてきた!

 死んだ事は辛いが…、この能力は色んなことができそうだ。

 頭の中に某スパイ映画のBGMが流れてくる。


「それでは、新しい世界に関する常識や言葉は頭の中にインストールされている仕組みになっています。その他諸々は貴方が召喚される家で、置き手紙と言う形で回答していますので。……では、新しい世界をお楽しみください」


「……丁寧にありがとうございました。楽しんできます!」
















 ネオン輝く大都会の中、夜の闇を駆け巡り、一つのビルの中に大勢の武器を持った人々が集まり始める。

 皆顔が強張り、武器を持つ手は冷や汗でびっしりになっていた。

 その中に居た一人。明らかにそのグループのリーダーだと分かる大男が皆に号令を送る。


「お前らあああ!!! 全員気張れよ!! 今回の敵はあの無面!!! 俺達の雇い主を守り抜け!!! 敵が例え裏社会に名を挙げた怪物とは言え、俺達マーケル傭兵団には勝てないと…世界に知らしめてやるのだ!!!!」


「「「ウオオオオオオオ!!!!!」」」


 このビルの所有者は何万人もの人間を裏で殺害してきた、裏社会の英雄。

 彼は今このビルの地下数十回に居て、誰も入ることのできないと断言できる大量のトラップが敷かれていた。

 何重にも敷かれたトラップは、登録された人間以外が入った瞬間に作動。

 確実に侵入者を殺す、殺意に満ち溢れたトラップだ。


「フフフ。いくらあの無面と言えど、このトラップは破れまい。表の傭兵団ならともかくな」


 英雄は余裕だった。

 お酒を飲み、笑顔でトラップの作動の報告を待っている。

 ……だが、突然英雄の目の前にあった扉が開かれた。


「誰だ!?」


「……誰かは、分かっているだろう。分かりやすく予告までしてやったのだから…な」


「無面!!! バカな…あのトラップを潜り抜けたというのか!!!」


 英雄は驚き、すぐに持っていた魔導銃を突きつける。

 目の前には黒フードの大男。

 ……あれが無面。現代最強の暗殺者。


 英雄が固まっている間、男は黒フードを脱ぎ、その顔を見せてきた。

 英雄は壊れた用に全身が青くなり、大量の冷や汗を流しだす。



 ……そこに居たのは、自分だった。


「驚いたようだな。そう、これが無面の正体。私はどんな人間にもなることができる。」


「それで…このトラップの数々を破ったのか! ……流石は現代最強の暗殺者。だが私も裏社会の英雄! そうやすやすと負ける気はないぞ!」


 英雄は、無面の見えない位置に隠した銃のトラップを発動する。

 だが、当然のごとく避けられた。

 無面は真顔でこちらに近づいてくる。


「意味はない。私はドッペルゲンガー。お前になった瞬間に、お前の記憶は全て共有している。何かをしようと考えても私には筒抜けだ」


「……っ! 怪物め!!!」


「私からしたらお前も怪物なんだがね…。お前の記憶は恐ろしいものばかりだよ。……銃を持つ手が震えそうさ」


 無面は魔導銃を突きつける。

 そして…………獰猛な笑みを浮かべた。


「さて、聞いたことはないかい? ドッペルゲンガーが本体と出会うと、本体は消滅するという話を」


「!? …やめっ!」


「もう遅い!!! はあっ!!!」


 世界が変わる。屋内に居たはずなのに、気がつけば何も無い白い世界になった。


「……ここは、一体どこだ!?」


「ここは精神世界。さて、早速で悪いがお前を消滅させるとするか」



 無面はそう言うとその場で止まり……。



「はい! サイドチェストオオオ!!!!」


 華麗なポージングと共に、衣服が弾け飛ぶ。

 そして血管が浮き出るほど鍛えに鍛えまくった筋肉が姿を現した。

 更に何度もポージングを取り、その度に筋肉が痙攣し筋肉が膨れ上がる。


「…………何をしてる?」


「決まっているだろう。どちらが真に本体足り得るかを決めるのだ。誰も居ないこの場で男のタイマン!!! 負けたら…消滅だ。さあ!! かかってこい!!!」


 英雄は少し考えたようなポーズを取り、そして笑顔でポージングを取る。

 こちらも衣服が吹き飛び、豪華な筋肉が姿を現す。

 白い世界に筋肉マッチョが2人。

 異様な光景が広がっていた。


「さあ行くぞ!! イエス!!!! マッスル!!!!!」


「イエス!!! マッスル!!!!」


















「ボス! 何か御用でしょうか!」


「ああ。秘密の通路からここを出る。お前達はここの護衛を続けてくれ」


「わ、分かりました! ……いいんですか? 外に出たら無面に狙われるかもしれませんよ」


「問題はない。私を誰だと思っている。…作戦はある。任せておくといい。今日が無免の最後だ」


「ははっ! 分かりました! ボス!」



 裏社会の英雄はこの言葉を最期にこの世から消えた。

 彼が人前に姿を現すことは、もう二度と無かったという。



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