氷のリンゴ

夢枕

第1話

 雪が積もるリンゴ農園で、リンゴ達は雪をかぶりながら寒い冬を生き抜いていた。

 晴れた三日後、リンゴ達は収穫される。


「とうとう収穫かぁ」


「ここを離れるのはいやねえ。せめて食べ残したりしない人のところに行きたいなあ」


「でもそれは難しいよね。そうなったら来世に期待するしかないわね。嫌ねえ、リンゴが天下を取ってる世界だったらいいのに」


 リンゴの木の実は本来地面に落ちて木になるはずだった。しかし、人間はおいしいと思って食べる。


「地面に落ちて芽を出しても、立派な木になるとは限らないぞ。厳しい世界だ」


「全部立派に成長したらこの大地にはリンゴだらけね!」


 くすくすと笑う。リンゴの魂はリンゴの中に入り、話さなくても相手に伝えることができる。


「包丁って痛いかな……」


「すぐに意識が途切れるんじゃない?」


「なんだかなあ。でも、感謝して食べてくれるならまだいいよね」


 いただきますは忘れないでほしいとみんな思っていた。


「私、綺麗だから凄いケーキ屋さんで綺麗に飾られるかも……」


「行き先はもう決まってるわよ」


「……ふん」


 遊びに来た子供にあのリンゴ綺麗と言ってもらってから、自分の見た目を気にしだすようになった。


 もう、皆と離れ離れになるんだ。お母さんとも離れ、あの人とも……

 一つのリンゴが離れる木や人のことを思い寂しくなる。


 私たちを育てている野崎のさき あかねさん。人にも動物にもやさしい人。


 来世でも会えるかしら。一緒にいる時間が短すぎるわ。

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氷のリンゴ 夢枕 @hanehuta5

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