第48話 三年後のプレリュード

2128年 春。


うつろは進学していた。


都内某大学某キャンパス。

ベンチにて。


「ふぅ。」


困った。

話が噛み合わない。


「やはりアイドルは抑えておくべきだったか。」

携帯のトーク画面をただ見つめる。


それは自らの黒歴史。

折衝に失敗した恥ずかしき記憶である。


「はあ。」

幾重に重なるため息。

新生活は難しい。


周りを見てもさまざまな人間がいる。

ラッパー、酒飲み、ナンパ師、そして。


「なあ君。」

サークル勧誘とか……。


「【オカルト研究会】、どうだい!!」

「……はあ、話は聞きますよ。」


全く琴線に触れない。

…適当に聞いてやり過ごそう。


「私は上田かみた 真白ましろ、君と同じ一年生だ!」


ええ。

一年生なのに勧誘してるの?

よっぽど人が足りてないのだろうか。


いやいや入ってまもない一年生を酷使するだなんて、よっぽど悪虐非道なサークルに違いない。


だが私は彼女のそばにいることに決めた。

なぜだろう、同情でもしたのだろうか。

まあ私の心境なぞどうでもいいのだ。


「待ってください。グヌヌぅ〜。」

彼女はいきなり頭を抱えた。

「大丈夫ですか?上田さん。」


「あなたの名前は、ズバリ中腹 空さん、ですね!!」

「え?何でわかったの!」


名簿でも盗み見たのか?

「フフフ、驚いてくださいね、私、霊能力者なんです!!!」


カミングアウト。

逆にびっくりした。


「あ、はい。驚きました。でタネは何ですか?」

「ですから霊能力です。こう頭に浮かんできたんですよ。」


ダメだ。

イかれた狂人だ。

私は会釈をして、逃げる。

こういう輩は関わらない方がキチだから。


「待ってください。」

彼女は叫んだ。


私は振り返らず走り去る。


もう一度言おう。

あのような輩は関わらないのが吉だ。


***


「ねえ、うつろ。今日の講義どうだったかしら。」

「普通かな。もっと刺激的な話題があればいいんだけどね。」


隣に座るのはめいろ。


学園で知り合った仲で、進学先が同じだったため仲良くやっている。


ただどういうわけか、彼女とどうやって知り合って仲良くなったのか全く覚えていないのだ。


そうめいろもいろいろ記憶がないらしい。


これは私の通っていた学園で何度も起きている。

まるで真綿に置き換えられたかのように記憶の抜け落ちがあるらしいのだ。


不思議な現象だが世界的に見ればよくあることらしい。


ただ私個人としては、モヤモヤする病だと思っている。


なぜならば、記憶とは無形文化遺産であるからだ。

各々が大事にしてきた想いであり、尊厳なのだ。


それを不明の病になかったことにされるだなんて冗談じゃない!!


「も〜うつろ、ぼーっとしすぎ。」

めいろがこづいた。


無味乾燥な毎日。


それは大学生になっても変わらない。

「面白いこと、しましょうよ。」


後ろから声をかけてきたのは先ほどのオカルト女。


「げ。上田。」

「先輩との関係が煩わしいとなら無問題もーまんたい!!なんとッ!!サークルにいるのはこの私ただ一人だからです!」


ますます危うさが増して行く。

サークルを名乗っているだけの変人なのでは?


「いいじゃない、うつろ!私たち入ってるサークル少ないし。」

「待って、それってすごい迂闊な判断よ。」


めいろは署名していた!

それも二人分!


「わあ。」

「あーあ、どうなっても知らないわよ。」

「難しく考えすぎなのよ。」


「改めまして、ようこそオカルト研究会へ!!」

初めてだ。

こんなにも歓迎されたくないと思ったのは。


***


ここが部室。

部室棟の隅っこ。

それも人気サークルの隣だ。


入るにも勇気がいる。

隠れて忍んで恥じて、誰にも見られないように入る。


「わーお。」

眼前に広がるのは、シンプルなインテリアの数々。

統一された色合い。

差し込む日の光が部屋を照らす。

私は◯印良品に紛れ込んだのだろうか。


何時間でも入り浸れる素敵な空間だ。

あのオカルト女をみくびっていた。


「わーお。」

後から入ってきためいろも同じような反応だった。


「わーお。」

ましろも同じような反応だった。


「「なんでよ!!」」

声を合わせてツッコむ。

シンクロ率41.3%。


「かくいう私も部室に来たのは初めてなのです。」


彼女はデコられたカギを見せた。

「ま、もっとオカルトっぽくしますがね。」

「ダメ、このままにします。」

私は噛み付く。


「部長たる私が決めること!ヒラのあなたは口をつぐんでください!!」

「それじゃ独裁よ。良いものを破壊しておざなりにするだなんて気がしれてるわ!」


不和状態。

暴発せんとしている。

私の方もヒートアップしており、刃傷沙汰になるところであった。


割って入ったのはめいろだった。

「いい加減にしなさい。」


「うつろ、学園で暴れすぎて孤高の存在となったあの日々をまた繰り返す気?」

「ウッ」


「ましろちゃん、あなたもちゃんと話して!!なんでも自分で決めようとするなら私たちは出てくわよ!」

「…ハイ。」


こうして私たちのバルカンが火を吹くことはなかった。


その代わり共通認識ができたのだ。

((めいろを絶対怒らせちゃダメだ……))


***


帰り道。


めいろは用事があるとのことで先に帰った。

必然的に私はましろと帰ることになったのだ。


春風。

鼻腔をくすぐる出会いの匂い。


……つまり、くしゃみが止まらないというわけだ。


この際だ、彼女に聞きたいことを聞いてしまおう。


「ねぇ上田さん。」

「ましろでいいって。」


「霊ってどんなの?」


もっちりしてるのかしら。

それとも薄っぺらい?


「うーん、普通の人、と遜色ないですよ。」


ありきたりな答えだ。

もっとも私はオカルトなぞ信じないのだけれど。


「たまにおしゃべりするんです。ほら私って友達少ないので。」

「へぇ。なに、さっきみたいな要領でカンニングでもするのかしら。」

「そんな小狡いことに使いませんよ。」


私たちは雑談を楽しんだ。

電車が来るまでの間。


彼女は


「うつろさん。」

「どうしたの、ましろ。」



「【死】ってあると思いますか?」

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