第41話 腐っても鯛

「私は、ここで死んだ人間のデータを勝手に覗き見ることができるのです!!」

「おお。」


期待していた通りだ。

蘇生装置であるベット、その門番であるこのロボットは全てを知っていると思ったのだ。


(まさか、閲覧することもできるとは。)


嬉しい想定外。

私は座って、彼女が喋るのを待った。


「インストール完了…。」


「じゃあ話そうか。…むくろちゃん。」

その声はうつろによく似ていた。


***


むしろはとても臆病な子。

そしてとっても卑屈。


自分の価値を探していた。

正直「死」というのも手段でしかなかった。


その価値を見出したのはうつろ。

自分の理想を叶えるために、むしろを利用したの。


だけれど、むしろは友達が増えていった。

自分には生きる価値があると思ってしまった。


うつろは失敗した。


めいろは生を慈しんでいた。

自らのトラウマを払拭するため、むしろを利用した。


だけれど、むしろは友情に依存することはなくなった。

再び死の価値を見つけるために他者を利用するまでに至った。


めいろは失敗した。


「他人事じゃないよ。君もだ。むくろちゃん。」


「未だ呪いから逃れられない哀れな子羊よ。」


「君がしている行いは、失敗への旅路だ。」


むしろは失敗した。

何百人の生徒を従えて、自らの理想のために邁進した。


失敗を学ぶことは有意義か?

歴史を学ぶことは価値を生むか?


むしろの背中をついていくだけじゃ、君は何にもなれないよ。


しくじった人間たちだ。

どうせ次も失敗するさ。

わかっているはずだろ?


む く ろ


「…手厳しいね。うつろさん。」


「でも私は…」


「悩み、考え、実行して失敗。このサイクルが、間違っているとは思えないんだよ。」


むしろは、死ぬたびに変わっていった。

優しさという彼女のカケラは大切な友人の記憶とともに消えていった。

繰り返し繰り返し、新たな人間関係を構築し死のピースを集めていった。


もうダイヤモンドの原石なんかじゃない。

削られ、整えられた宝石なんかじゃない。


土にまみれたただの石ころなんだよ。


でもね、その価値は非常に眩いもの。

死は、探究しがいのある研究分野であることは変わらない、多分ね。


「やがて成功するよ。何年かかるかもわからない。けれどチャンスは逃したくない。」


うつろを模したそれは笑った気がした。

これはうつろのポリシーであったから。


***


「素晴らしい!!!私感激いたしました!!!」

シエロは涙を流している。

そういうエフェクトなのだろうか。


「私、死ぬってどんなことかわからなかったんです。結局、記憶媒体の消去にすぎないわけじゃないですか?」


「でもわかった気がします。不可解なプログラムが進化を生んできた。テクノロジーの飛翔であるわけです!!」


「…あなたを必ず殺します。」


「あなた方の出会いを最初から見ていたただの傍観者にすぎませんが、よろしくお願いします!!」

「…あ、うん。よろしく。」


想定外。

まさかシエロが味方になってくれるとは。


ついでに、うつろたちの戻し方について聞いておこう。

「私の家にめいろとうつろがいるんだけど、精神崩壊しててさ。私のことをむしろって認識してないみたいなんだよね。どうやったら戻るかな?」

「…ああ。それでしたら───」


***


家にて。


私は二階への階段を恐る恐る登っていく。


「入るよ。」


私はドアをこじ開け、二人の部屋に踏み入れた。


「何すんのよ、アンタ!!」

めいろは怒り心頭だ。

「だ、だれぇ。」

うつろはシーツにくるまっている。


「どうも、木上 夢白です。」

瞬時に二人の表情がみるみる変わる。


めいろは青ざめ、うつろは私に果物ナイフを投げた。

「その名を騙るな。」

先ほどとは打って変わった物言い。

だが、私は逃げない。


「本当は私、【むしろ】なの。」

「戯言をッ!!」


むくろはシエロの助言を思い出した。


『認識阻害ですかね。この前死んだ時にチップでも埋め込まれたんでしょうか。特殊な電磁波によって脳とデータチップにミームを引き起こして顔が認識できないようにされています。』

『えー。除去は簡単?』

『まぁ頑張りますよ。』


『ちょっとチクっとしますよ。』

………というわけで

私は30回目の死を経験したらしい。


だが認識阻害チップは除去された。

だから…


「私をちゃんと見て。」

二人にかけるべきだった言葉。

思えば二人とは長い付き合いだ。

信じてやれなかった。

意思疎通の取れぬ獣だと差別していたみたい。


その言葉はきっちり二人の心に届いた。

瞬時、うつろとめいろの目が大きく見開かれる。


「むし…」


「いや違うでしょ。」

「うん、違う。」


え?


「確かにそっくりだと思う。顔の作りとかね。」

「でも、魂が違うよね。むしろちゃんはもっと気が小さいから。」


ええ…。

私の中のむしろが怒っている。


「ちょっと待ってよ。私本当にむしろなんだってば!!」

「じゃあ、むしろちゃんの好物は?」

「そーよ、あの子の苦手科目は?」


知るはずないだろ。

そんなこと。

「好物は…カレー。」

「苦手科目は…歴史?」


「はいダウト〜!!むしろちゃんは甘党ですぅ〜!!」

「むしろは勉強全部が不得意よ。全てが苦手科目!!」


散々な言われようである。


第一私は別に甘党ってわけじゃないし、唯一美術は好きだったし、二人の方こそむしろを知らなさすぎでしょ!!


耐えるのだ、我が片割れよ…。


「そもそも二人だっておかしいじゃん!!」

私の魂からの叫び。


「もっと二人は歪みあってたじゃん!!」


もはや逆ギレである。

すると…二人は顔を赤らめた。


「いろいろ…あったのよ。」

「具体的に言えば恋のABCを達成したわ。」

めいろは自身満々に言い放った。


うーんインモラル。

前言撤回しよう。

二人は獣である。


「…絶句。」

「口で言うもんじゃないわよ。」

「まあいいさ。もう過ぎたことだし。」


めいろとうつろは私の瞳を見た。

映る二人の面影。

二人は答えを求めているのだ。

私の正体を。


「…私はむくろ。むしろのもう一つの人格。」

「へえ。多重人格者ってホントにいるのね。」

「まあ記憶の消去が効きにくかったから、特異な体質だとは理解してたけどね。」


なぜか笑ってしまった。

簡単なことじゃないか。


「…私はむしろを目指す。彼女は完全に消されてしまった。今はもう胸の中にしか存在できないの。」


死は孤独によって成し得ない。

上書きされた記憶は元に戻らない。


「だから、再契約しましょ。私の死を撮って。」

「…違うね。」


「君は君のままでいい。むしろちゃんを模した君でも、ありのままの君でもどちらでもいいんだ。


だけど三人でだ。完成させよう。


主演むくろの一世一代の死のエンタメを。」

「私は遠慮したいのだけれどね。」


心の奥底から感情をぶつける。

魂の勝負が、二人の絶望に打ち勝ったのだ。


「約束。破ったら針千本のーます。」

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