第39話 むくろカーニバル
入部届を出したとき、はじめてオレの世界に入ってきた。
むしろと…
メガネの娘、うつろだったか。
そいつと部活の申請届を出したときが始まりだったわけだ。
『死活部ってなんだ?』
その質問を投げかけたとき、うつろのほうが饒舌に語りだした。
『死活部は、死を探求する部活です。』
うつろは自信満々にそういった。
『あー、もっと詳しく。』
『…はい、私たちは現在形状記憶細胞こと万能細胞とそれを管理するデータベースによって不死が達成されています。』
『では、人間の死とはなんだったのか。それは年を経るにつれ忘れられていくはずです。そこで部員たちで過去の事例を再現し、死を疑似的に体験することでそのありがたみを、いえその経験を記録し後世へと活かせると考えています。』
『ですがそのためには資本が必要です。わが学園の未来のために蒸鴫先生に協力していただきたく…。』
ここまでうつろがしゃべっていた内容だ。
むしろはただ突っ立ってただけだ。
唯一口を開いたのは…
『私たちに力を貸してください、浪漫先生。』
深々とお辞儀する二人。
(内容は過激だが、まあいんじゃね?ダメでも上の連中が止めるだろ。)
そうしてオレは部活届にハンコを押した。
【すべてはそこから始まった】
…なぜか
その二週間後には反社会的勢力が撤退したというニュースを聞いた。
…なぜか
街の住民から本学の学生が暴力をふるっているというクレームが来た。
…なぜか
折り返し電話は繋がらなかった。
なにかおかしい、そう思い始めたときにはすべて終わっているときだった。
『え?うちの中腹が?』
死体として処理されたうつろがいた。
犯人はわからない、しかし彼女は危険志向が見られるということで人格矯正センターへ連れていかれた。
あとから彼女の友人にして、不登校だった人道 明路が犯人ではないかという噂がたった。
しかし殺される理由があった。
うつろは大量殺人鬼であった。
死んだ、といっても半日ほどで体は元通りになる。
実質的には軽傷のようなもので刑はさほど重くない。
重くない、ということは青少年の健康に害をきたしたのだ。
『ミスター蒸鴫。なぜこのような事件が起きてしまったと思う?』
宇高 航路。
この学園の学園長にして、生徒会長…だった男だ。
『えっとぉ、観察不足ってやつですかね、ハイ。』
『そんなことでは困るのだ。私が、この私が困るのだよ。』
半日の説教。
オレはどうにかその場をしのごうとした。
生徒への厳重注意。
担当顧問として、教育者として然るべき処置を。
その責任を放棄した。
めいろに軽く話したぐらいだ。
だがお前らはこれで終わらなかった。
だからまずかった。
不思議なやつだ。
彼女の死亡数はいじめられていたわけではないのに、校内随一ぶっちぎりであったから。
何か問題があるのではないか?
オレら教師陣が出した答えだ。
そこで志願した山霧という市役所の監視員をつけることに…。
『某が来たからにはもう大丈夫だ!!誰も死なせないさ、健全でビューティーな生活を生徒に送らせよう!!』
その後、彼女は廃人となる。
記憶の処置を設えて、ようやく人間に戻ることができたのだ。
彼女の身に何があったのか、オレは知らない。
やがて、むしろは生徒会長になってしまった。
話が飛んでいる?
いいや、これは本当に起こったことなのだ。
なんの前触れもなく彼女は壇上に立っていた。
『みなさん、私が新しい王玉の生徒会長です!!』
航路は学生にして学園長だった。
理由は最も近くから生徒を支えることができるからという彼なりの教育指標だった。
だが、消された。
生徒に近づきすぎたあまり、災厄を呼び込んでしまったのだ。
これも噂だがむしろは死徒会とやらを結成し、生徒全員を洗脳し世界をめちゃくちゃにしようとしていたらしい。
こんなレトロチックな悪役が本当にいたのだ。
(オレを巻き込んでくれるなよ…。)
そのときもオレは逃げる準備をしていた。
国にばれれば、首ちょんぱだ。
人格消去もあり得る…。
ひたすらに我が身のことばかり考えていた。
だが現実は虚像に侵食された。
どこからともなく現れてむしろを倒し、生徒を救った。
そのままどこかおさらばすればいいものを…。
彼女は図々しく学園長に成り代わり、すべてを元通りにした。
いや、元通りではないか。
それから数週間後、三人の生徒が不登校になったのだから。
一切の理由は不明、誰に聞いてもわからなかった。
木上 夢白。
中腹 空。
人道 明路。
やがてレトロによってむしろの生徒データは消されたんだ。
『この生徒は転校することになったから、いろいろと頼むよ。』
『後始末丸投げじゃないっすか…』
その二か月後、つまりは今日。
君、彗星 躯がこの学園に転校してきたのだ。
外見はほぼ同じだ。
髪を染めてメガネかけたくらい。
だが正直むしろとは似ても似つかない。
あの気持ち悪さとは比べものにならない。
お前がいったいなんなのか。
良いものなのか、違うのか。
「どうだ、だいたいわかったか?むしろというお前の人格が。」
「ええ、まあ。」
***
むくろは考えていた。
浪漫先生から教わった表面的な歴史が、本当に正しいものなのか審議する方法を。
「先生。私は、むしろは何がしたかったんだと思いますか?」
「死にたい、っていう青年期特有のアレコレじゃないのか??」
ちょっと違うと思う。
「彼女は死に意味を見出していたんだと思います。だから死で世界に衝撃を与えたかった。」
「逆に言えばそんな大規模な欲をもっていたから破滅したのでしょう。正義が付け入る暇を与えてしまった。」
私は頭をかかえた。
彼女の真意に近づけば近づくほど頭の痛みは増していく。
浪漫先生は叫んだ。
「もしかして…記憶が…。」
残念だけどそうではない。
記憶はたぶん戻らないし、戻っても意味はない…。
私はむしろのあとを追うことしかできない。
でもいずれは辿り着き、混じっていくはずだ。
私の到達点が、やりたいことが再び見えた気がした。
それが、私の夢だ。
「先生、私はやっぱり死にますよ。」
「…止めるさ。オレは目の前で誰かが死ぬのが好きじゃない…。」
「私の夢は永遠に変わりません。人に希望を与えるために、楽な道を教えるために再び死ぬのです。」
「認めない。それは誰だってそうだ。めいろも、こうろも、レトロもオレだってそうさ。」
「認めざるを得ませんよ。主演女優が降板しても作品は生き続けます。私はむしろの遺志を背負って死を実行します。」
「もう諦めたらどうだ。万能細胞もデータベースも壊すことは不可能だ。」
ええ。
だから壊すことはやめました。
「先生にはがっかりしました!!こんな簡単な方法にもたどり着けないだなんて!!」
「しがない世界で死ぬ方法…それは──」
「食人です。」
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