第35話 うつろ革命
チェックアウトを済ましたのち、私たちはその建物に吸い込まれる。
なんとも魅惑的で、お泊まり会にしてはとても豪華で。
私は夜の風景と彼女の笑顔がどうにも合わなくて、ずっと不思議な気持ちだった。
むしろちゃんから話しかけられる。
「ねぇ、うつろ!!見て見て、じゃーんドレスアップだよ!!」
高校生にしては幼い彼女。
どこか放っておけないワルキューレ。
「…寝違えるわよ。もっとラフな格好の方がいいんじゃない?」
「いーのいーの。一夜限りの舞踏会、オシャレしないなんて損だよ!」
初めて出会ったとき、私は己を忘れるほどのめり込んだのだ。
彼女はこの世界で珍しい死の探究者、私の夢も理解してくれると思っていた。
『生きてみるのも悪くないかもね。』
彼女の本音を聞いた。
彼女は環境を欲していた。
自らが必要とされるような居心地の良い場所が。
死は彼女にとって他人の興味を引く手段であり、死を求める私は理解されない異端であると心を塞いだ。
しかし、彼女はいつからか死を求めるようになった。
良い環境を、将来を、仲間を捨ててでも死を必死に探すようになったのだ。
手段が目的に変わったその瞬間を、私は見ていない。
だから不可解なのだ。
私を、めいろを蘇らせた意味が。
アポロにせひろ、いつのまにか新・死活部に合流した部員たち。
わからない。
どうしててきろやみくろのような古参メンバーの記憶を戻さなかったのか。
私はむしろちゃんが
わからない。
***
「ディナーディナー!!」
むしろちゃんは鼻歌まじりに部屋に荷物を置く。
私たちも同様に。
「…うつろさん、顔が青いですが大丈夫ですか?」
せひろが心配そうに顔を覗き込む。
(ちょっと疲れているのかも…。)
いろいろな出来事、今日だけでもてんこ盛りだ。
「大丈夫よ。私はいつだって元気さ。」
精一杯の笑顔を見せる。
彼女は満足そうにむしろの後ろをつけて行った。
洗脳作戦はめいろとレトロによって未然に防がれた。
完全な敗北である。
立て直しは非常に厳しく、次は生徒会も警察も動くかもしれない。
勝機はあるのか?
自分に何度も何度も聞き返す。
決まった答えを覆したくて…。
(信じるしかない。)
むしろちゃんが語った死の草案。
具体的な方法はまだ聞いていない。
きっとはぐらかすだろうけど。
むしろちゃんはウソをつくのが下手だ。
かしこまった、角張った言い方になる。
まるで【カッコ書き】で書かれているかのように。
私が信じるのは死の方法が確立したということではない。
レトロたちを、国を出し抜き、死ぬことができるという自信を信じたいのだ。
いつのまにか、部屋には私一人だった。
都内には仰々しいリゾートホテルのような壮観。
部屋は非常に広く、五人寝ても狭くならないほどだ。
むしろちゃんは
『お金?気にしないで!!全部出せるほど私は富豪なのさー。』といっていた。
悪いので数万円は持ってきたけれど、不思議でたまらない。
どうやって工面したのだろうか。
政府給付金では賄えきれない。
疑問は膨らんでいくばかりだ。
「なあ、うつろよ。」
びっくりして後ろを振り返ると、ドアの前にアポロが立っていた。
何か意味ありげな表情を見せる彼女。
「…むしろさ…、むしろの好物は知っているか?」
「……好物?」
熟考したけれど、その答えは出てこない。
「じゃあ誕生日は?」
「通っていた中学校は?」
「趣味は?」
彼女は矢継ぎ早に回答を急く。
(それを知ってなんになると言うの?)
答えられない私をアポロはじっと見つめる。
奥底から湧き出る感情は怒り。
ただ他の言葉も浮き上がってくる気がする。
「…じゃあむしろが死にたい理由は?」
「…わからないわ。」
その結論を出すことを避けようとしていた。
お互いを思い合っていたというのに、何にも知らないのだ。
その事実がひたすら恐ろしくて。
「ボクは今まで人との関わりを恐れてきた。いろいろな生徒間のゴシップは知っていても、それを話すことはしなかった。」
「怖いから。」
アポロは目を閉じずずっと、ずうっとこちらを見る。
その心情は私には理解できないものだったけれど。
「…君は名監督になるんだろ?」
「そうだ。」
私の芯。
「むしろちゃんの死を、その最期をカメラに収める。それが私の生きる意味だから。」
その言葉は私の世界を明るくした。
虹色のキラキラが、極彩色の波線が、生命を感じる波動が。
私の心に広がっていく。
私がしたいことが明確になっていく。
「ボクには知識がある!!さあ話そう!!今まで秘めていた思いを、記憶を!!ついてくるのだうつろよ!!」
アポロは私の記憶を元に戻した技術者らしい。
当然、むしろの記憶も持っている。
彼女に黙ってその歴史を覗くのはダメだろうか?
「いいよ。」
不意に彼女の声が聞こえた気がした。
私は嬉々として一線を越えていく。
それはむしろちゃんの死を撮るためだ。
それが"やりたい"ことなんだ。
***
「へぇー、むしろちゃんって辛党なんだぁ!!」
「ふふ。わざわざ四川から取り寄せるなんて彼女の舌を満足させるのは厳しそうだ!」
ほんの数ヶ月。
手放していた権利が、私の元に舞い戻る。
友情とは斯くあるべき、か。
アポロは歯を見せる。
私も大笑いする。
その談笑は、そこから得られた温情はむしろちゃんに向ける感情とは全く別で。
「ねぇアポロ。」
「なんだい、うつろ。」
「ありがとう。」
それは数ヶ月の間で変わった心境。
昔の私が見たら絶句するだろうか。
「…ねぇうつろ。」
「なぁに、アポロ。」
彼女は少し暗い顔をした。
「めいろと仲直りしてくれないか?」
嫌だ。
だってあいつは、私たちの邪魔をする。
いつだって敵、生きるという当たり前を押し付ける真面目ちゃん。
「考えていることだってお見通しだ。うつろ、君は──」
「タチでありたいんだろう?」
「は?」
彼女は薄ら笑いを浮かべたと思ったら、高笑いを始めた。
私は彼女がわからない。
「…いつだってそうだ。自分が先導したい、でも反対意見が嫌いだ、イエスマンだけを集めていたい。洗脳技術は君のその意識の行き着く先だったのさ。」
「…それが何よ。それで私に勝ったつもり?」
「なぜ君がめいろに負けたのか、レトロに負けたのか。私は答えを知っている。」
「ワンマンでは限界があるからさ。」
それはコロンブスの卵だ。
「自分でできることに限界を感じためいろはレトロを頼った。仮初の死徒会を作った君では勝てなかった。」
苦渋を舐めさせられる。
「もっともむしろちゃんが君を頼ったのもそう言う理由なんだぜ。」
「え?」
「むしろは一人での死に限界を感じた。失敗が続いた、そこに君が現れた。」
「きっと運命的なものだったんだろうね。そこからはゾッコンだ。」
言葉が出なかった。
私の視点から見えない真実に。
その感情に。
「強くなるには一人じゃ無理だ。」
「認めたくないものは多いわ。」
「でも、私はむしろちゃんの死を撮る、そのためだったらなんでもするわ。」
これほどまでに胸が熱くなったのはいつぶりだろう。
私は仇敵の元へ謝りにいく。
だけどその足取りは軽やかで。
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