第28話 違和感は徐々に。
私は夢を見ていた。
一人の少女が木にぶら下がる。
その表情はどこか恍惚に満ちていて…。
『ねぇ、楽しい?』
質問を投げ掛けても返事はない。
やがて悲鳴を上げる少女がいた。
私は逃げた。
逃げた先には私がいて。
「辛いなら私が代わろうか。」
まっくろの私。
カリスマの私。
むくろ、と名乗るもう一人の私。
彼女ならなんでもできる。
おそらく死ぬことだって容易なはずだ。
でもね。
「大丈夫。できるとこまでやりたいの。
でもダメだったら、その力を貸して。」
「身勝手だな。それも変化か。」
彼女は満足したように消えて行く。
不思議な夢。
ああ、目覚めて行く。
光が…。
希望が…。
***
今日は決起の日。
学生全員を洗脳し、暴動を起こす。
その間にむしろちゃんの戸籍をうやむやにする。
最後に飛び降りて死。
データがないから復元もできない。
その名前すらわからない死体はいつか忘れ去られる。
この死がない世界で唯一死ぬ確実な手段。
完璧な計画じゃないか。
足取りは軽やかである。
ステップにスキップ。
朝が、憂鬱な朝が長く楽しく感じられる。
私は早めに学校に着いた。
すでに配下にした生徒たちが設営を手伝っていた。
「うつろさん!とりあえず窓の封鎖終わりました!」
「これで煙が充満する準備はバッチリですね…!」
「全てが順調です。これで他の生徒にも伝わるでしょう、死の素晴らしさが!!」
「「「全てを生徒会長に捧げよ!!」」」
立場が変われば言葉の頼もしさも変わるものだ。
前生徒会長“
私たちに悪を押し付けて断罪しようとした愚かな男。
しかし今は彼に感謝しようか。
彼の技術で計画を円滑に進めやすくなったのだから。
時間が近づく。
さてどう撮ろうか。
クスリは遅効性。
一気に煙でパニック!!のようにはならない。
しかしこんな大量の人間をエキストラとして出せるなんて私はツイてるんじゃないか?
主演:むしろちゃん♡
監督:中腹 空
エンドクレジットは私たちだけでいい。
死が二人を分つまで一生一緒!!
きゃー///
時間を見るたびに早く時が経って欲しいと願う。
私の実質的な寿命がどんどんと短くなるのにね。
足音が近づく。
上履きの擦れた音。
愚民が、奴隷になりに来るの。
ああ、死の兵隊たち。
普段ならどうでもいいモブだけど。
その面を拝ませて。
「おはよう、ゾンビたち。」
奴がかましたのはいつもの銀の弾丸。
私の真横を通り過ぎる。
マイクを手に取り尋ねる。
「どうしてめいろがここにいるのかな。」
彼女には監視をつけたはずだ。
まさかもう殺されたの!?
彼女は唯一の反乱分子。
生に固執し、私たちの夢を破壊しようとする悪女。
「いつだってあなたは邪魔ばかり。モテないわよ。」
「いいのよ。モテることがやりたいことじゃないから。」
皮肉の通じないやつ。
「これからむしろちゃん主演の映画“エンド・オブ・フォーエバー”を撮るの。部外者は帰ってもらおうか。」
「ダッサ。知ってる?あなたって昔から突飛だと思ってるけど意外と普通。正直言ってナンセンス。恥かく前に降板したら?」
冷え切った体育館。
スタッフはまだ準備している途中だ。
時間は…まだある。
はあ、面倒は嫌いなのに。
仕方ない。
そう仕方ないんだね。
「その脳ドブにつけてやるわ!!!」
「やってみなさいよ凡才!!!」
***
午前9時半。
時計は差別なく正しい時間を伝えてくれる。
完全に寝坊した。
どーしよ!?
え、絶対失敗しちゃダメなのに。
ええっ。
顔面蒼白。
ボタンが閉まらない。
手元が震える。
そうだ。
携帯。
うつろ怒ってるかな…。
着信23件。
(おわった。)
こうなったら私一人でダイナマイト巻きつけて官公庁爆破するしか…。
落ち着け、そうだ。
落ち着けぇー。
いやダメだ。まったく収まる気配がない。
動機が止まらない。
ピコン。
携帯が鳴る。
恐る恐る差出人を見ると。
【うつろ】
『もう終わったから。早く来なさい。( *`ω´)』
お怒りのメールだ。
それにしても…
(顔文字カワイイ〜♡♡)
前のうつろだったらこんなこと絶対しない。
死・殺す・撮る。
行動原理はこの三つ。
まあ怖さもあったけどクールで良かったな。
でも今のうつろちゃんも大好き。
人生を楽しむ余裕があるっていうか感情豊かでカワイイ。
(どっちのうつろも素敵ってこと!!)
身支度を整えて、家を出る。
〜〜〜
学校に着くと一限が終わりかけていた。
遅刻届を書いて、教室へ戻る。
教室は普通だった。
私を崇めたてることなんてない。
これは生徒会改め死徒会で定めたことなのだけれど。
『…その日が来るまでみんなには普通の暮らしを送ってもらいたいの!』
生徒会室は一瞬静まった。
『まあいいけど…。なんの意味があるの?』
『それはあれだようろろん。せめてもの慈悲ってヤツだよ!!』
『そぞろちゃん!?私そんな物騒なこと考えてないよ!!』
『これからテロをする人間には到底思えないね。』
談笑。
名前も覚えていないクラスメイトたちには私というなんでもない凶悪犯のことなんて忘れてほしい。
その願いから来週のある日以外は洗脳を解いて、平素通りに暮らしてもらうことに決めたのだ。
教室のドアを開ける。
遅刻届を提出し、席へつく。
二限目には間に合った。
「木上ぃ〜。寝坊かよ。」
後ろの席のみくろからこづかれる。
「ど寝坊よ、ど寝坊。」
「フフッ。」
てきろが笑った。
「こら。授業中だぞー。」
滅多に生徒を叱らないロマン先生からもコメントが。
そう、普段通りでいいの。
死は突然にやってくるものでしょ?
ピコン。
またも携帯が鳴る。
?
『親愛なる生徒会長へ。昼休み屋上に来てください。』
「レトロ…って誰?」
差出人は知らない人だった。
モヤモヤを抱えて正午まで過ごしたのだった。
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