第22話 演者と監督。
知らない天井だ。
あたりには豪華な装飾。
アロマは金木犀かな。
ステキな匂い。
シャワーが金色。
ギラギラしすぎじゃない?
ここはどこ?
ずっと付き纏う不安感。
そうだ、昨日はそぞろにいろいろ奢ってもらったんだ!
ここはホテルの一角。
で、疲れて寝ちゃったんだ!
朝のシャワーを終えて、私は服を着替える。
どうやら脱ぎっぱなしにしていたらしい。
散乱した靴下をまた履くのだ。
一応服の臭いを嗅ぐ。
大丈夫な…気がする。
丁度その時だった。
ピンポーン
呼び鈴が鳴る。
「むーちゃん〜。起きた〜?」
そぞろだ。
彼女も起き抜けでまだ眠そうだけれど。
制服に手を通す。
「おはよ、そぞろ。」
「うん!むーちゃんもおは〜!」
朝だというのに元気なヤツだ笑
「…今日もステキだよ。」
私は柄にもなくそぞろにセクハラをしかけた…。
彼女の反応が気になる。
すると彼女は私をベッドに押し倒した。
「むーちゃんが望むなら…いいよ♡」
私の女子がざわめき出した。
おお。返されてしまった。
奥底から湧き出る情動。
まさにリビドー。
「えっち…。」
私は紅潮していたに違いない。
ぽろりと口から漏れた言葉、それはブーメランのように私にも刺さったのだ。
図らずとも誘い受けのようになってしまった。
『撃っていいのは撃たれる覚悟がある奴だけだ。』
かつての偉人がそうこだまする。
まあ勇気のないむしろは学園祭を言い訳にお誘いを断るのだけれど…。
「続きはまた今度ね〜。」
取り交わした約束。
望むことならなんでも…ってちょっと危険すぎじゃない!?
私たちはなんてことのない顔をしながら通学路を歩む。
先ほどの淫らな夢を忘れ。
互いの胸のうちは知らずに…。
(昨日連絡してなかったけど、こゝろちゃん大丈夫かな…。)
災禍の前触れのような静けさ。
一抹の不安を感じながら学校へ行くのだった。
***
遠路はるばる街を帰ってきたうつろ。
もちろん、真っ先に向かったのは、長い孤独の中偲んでいた夢を叶える原石である…
むしろの家。
暗証番号は1111。
変わらない日常。
彼女はなんて言ってくれるだろうか。
おかえり、と喜んでくれるだろうか、それとも帰って!!と抵抗するだろうか。
どちらにせよ私の感情を昂らせる。
ねえ、その顔を見せて──
「何これ。」
予想だにしえない第三の選択肢。
うつろが目にしたのは英雄の住む家に住みつく一匹のネズミ。
「おかえ…」
パンをかじっていたその子は私という不審者に怯え始めた。
そして、過呼吸になりながら、咄嗟に包丁を構えた。
「だ、誰?!?!ご、強盗でしょ?!」
彼女はおぼつかない足腰で凶器を突き出している。
私にとってはおままごとに過ぎなかった。
何十人と殺してきた私にとっては。
「私はむしろちゃんの学友。今日は…確か学園祭だったから迎えに来たダケ。」
「お姉ちゃんはタブンもう学校に行った。だから出てって。」
困った。
まだ朝も早いのに出発しているとは。
しかし、むしろちゃんに会う前にこちらを詰めておかないと。
「そっか…。ところでさ。あなたのお名前教えてくれない?」
「イヤ。」
生まれたての子鹿のようにガクつく膝下。
恐怖が彼女を支配する。
「まあ、口で教えてくれないのなら…」
「
〜〜〜
なるほど。
むしろの妹という記憶を植え付けられためいろの妹か。
家での様子を逐一メッセで報告させている。
なかなか鬼畜なことをするなぁめいろは。
こゝろの携帯をそっと机に置いた。
彼女から得られるものは多かった。
それに私がいない一ヶ月ほどの間に“生活部”という組織ができたらしい。
実にくだらない。
生徒会の下請け?
あーあ見たくない見たくない。
むしろちゃんがあくせく働く姿なんて…。
ため息をつきながら私は冷蔵庫の中からオレンジジュースを手に取った。
やはり100%の果汁が一番美味しい。
それは混ざり物がないから。
自然と実った橙色に輝く宝石。
愛媛から来たのか、それとも和歌山から?
どこからでもいいけれど、遠路はるばる私のもとにやってきたというのが実に良い。
私と重なる、じゃないか。
ふと自分の境遇を思い返した。
恐らく私は国に
理由は私が何人も殺したシリアルキラーであることがバレたから。
さらに言えば反省の色なく、矯正センターから逃げ出した極悪人だから。
言い換えれば私の寿命はごくわずかだということだ。
皮肉なものだ。
死がない世界での実質的な死は記憶の上書きであり、人格の消去である。
(…そんなの味気ないじゃないか。)
そんなニセモノの死は私による監督作にふさわしくない。
最高の主演を輝かせるために私は、さまざまな手を尽くしてきた。
心までは奪えない。
もしかしたらむしろちゃんは演技をずっとしているだけなのかも。
他人の注目を集めるために気を衒う行動をして、その飛び降りに誘われた私はムシに過ぎないのかもしれない。
とすると死活部を作ったことも失敗だったのだろうか。
結果的にむしろちゃんに普通の学生である幸せを押し付けてしまったのかも。
死を遠ざけていたのは私?
てきろ、みくろというミスキャスティング。
私をみてもらおうと自我を出し過ぎて彼女の行動の幅を狭めていたんじゃ…。
(やめよう。これは私の悪いクセだ。思い通りにことが進まないと猛省で時間をムダにする。)
過去から学べることは多いけど役立つ情報を精査するのはセンスだ。
私は凡人だ。
「いってきます。」
むしろちゃんの夏服だからやや丈が足りない。
それでも囚人服よりずっと良い。
時間にして午前8時手前。
学園祭が始まろうとしていた。
「今度こそ完璧に…。」
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