第12話 三人目の部員

月曜日、てきろは部活に来なかった。

姉御曰く学校にも来てないとのこと。


何かがおかしい。

てきろが私たちに何も言わず部活をサボるだろうか。


「ねえ、今からでもてきろちゃんを探しにいこうよ。」

姉御の心配が募っている。

…こんな不安な顔は見たくない。


「お疲れ、みんな。」

一番最後に部室に来たのはうつろだった。


「う、うつろちゃん。今からてきろちゃんを探しに行こうと思うんだけど…。」


「…てきろがどうかしたのかい?」

「…ッ。今日クラスにいなかったじゃん。気づかなかったの?」

「…確かに。まあ家にいそうな気もするけどね。」


明らかに様子がおかしい。

もちろん両者ともに。

姉御は、てきろに対してやけにお熱だ。やっぱりあの後何かあったのだろうか。

うつろは、少しテンションが高い…?それに言動が少し挑発的な気もする。


「なあ姉御、アタシたちが帰った後何を話したんだ?」


むしろの姉御は少しドギマギしながらゆっくり話し始める。


「告白されたの。てきろちゃんに。」

ああ、そうだったのか。てきろは勇気を出したのか。アタシは呆気に取られる。


「…でも、返事は出せてなくて。昨日、もう一回遊んで自分の気持ちに気づこうとしたの。でもてきろは来なかった。」


うつろに目を配る。どこか冷めていて一途な姉御をあざわらうかのよう。


「…来たとしても断ったでしょう、むしろちゃん。そういう情事に興味なさそうだし。」

うつろは冷徹に言い放った。


「…。」

姉御は黙りこくったまま、うつろを睨みつけている。今の彼女が怒ったのは初めてかもしれない。


「ま、とにかくさ。探しに行こうぜ、てきろをよぉ。」

「そうだね。それがいい。」

「…。」


そうして、てきろの捜索が始まった。

集合場所にしてたコンビニ、いつも立ち止まる劇場、好物のクレープ屋。どこを探しても彼女は見つからない。


次第に日が暮れていく。諦めろと諭すように。

「帰ろう、姉御。警察に任せようぜ。」

「家出しているだけかもしれないしね。」

「イヤだ、絶対見つけるんだ。」

彼女の決意は固かった。


妹たちが家で待っている。

アタシは心苦しくもその場を後にした。


うつろも連れて。


「なあ、てきろは家にいるのか?」

「…最初からそう言っていたと思うんだけどね。」


「言っておくけど私は殺していないからね。」

うつろは満面の笑みでそう言った。

ああ、そうか。

このクレイジーサイコメガネ野郎…。


歩みは止めず、ただ進む。


「なんでだ。アイツは良いやつだったじゃねぇか。たまにウゼェ時もあったけどさ。仲良くやってきただろ!!」

激情が溢れ出る。

いや、むしろ涙だった。


「邪魔になったから。」

淡々と告げた。


「むしろちゃんに生の喜びを教えたから。」

うつろは、綽々と説明した。


やっぱりコイツは邪悪だ。

むしろの姉御の記憶をいじくって、不要だと思えば消して。

他人ってモンを舐めてやがる。


「ねえ、みくろ。この先は君の家じゃないよね。一体どこにいくのかな。」

「…良いとこだよ。」


開けた、空き地。


バッグを投げ捨てる。


「人の尊厳を踏みにじるテメェは、ここでアタシに殺されてアタシもポリ公に自供する。」

姉御のために、てきろの無念のためにここで終わらせる!!


うつろはただ可笑しくて可笑しくて。

「…私に勝つつもり?むしろちゃんを死に導くために何十回って人を殺してきた私に。」

ファイティングポーズが様になっている。


「っせぇよ。アタシはぁ惚れたオンナのためならなんだってすんだよ!!」


殴りかかる、アタシは見た目が怖いと言われ、大して友人もできなかった。


姉御はアタシを迎え入れてくれた。

記憶がなくなって、純粋になっちまったけど。狭義と漢気は忘れていなかった。


「クソっ…。」

ステゴロでもうつろに勝てなかった。

知恵でも力でもコイツに勝てなかった。


うつろはポケットからスマホを取り出す。

「最後の言葉くらい、残してあげるよ。二ヶ月むしろちゃんを殺そうと頑張った仲間だからさ。」

録画し始めたのだ。


アタシは…

「テメェじゃ姉御の一番にはなれねぇよ。」

効きそうな言葉を捻り出した。


「姉御は普通のJKだぁ。普通に大人になって、男作って。永く生きてるうちにテメェのことなんか忘れ──」


ズガッ

鈍い激突、口を動かすことがままならない。


すまねぇな、まくろ、ほくろ。

不甲斐ない姉貴で。

今日の晩御飯、作れそうにねぇわ。


そして姉御、迎えには行けねぇな。

アタシはどうやら運命の王子様じゃないらしい。


(死にたくねぇな…。)


うつろは誰かを呼び、死体を片付けさせた。

程なくして立ち去った。


***


めいろが学校に来たらしい。

うつろからのメッセで学校が始まる時間まで探していたことにようやく気づいた。


『今日行かない。』

無気力に文字を打ち込んでいた。

うつろはOKのスタンプを送信。


警察にも行方不明の手配を出した。


思い出したくない月曜日の出来事。


「…おはよう。」

教室に入ってもてきろの姿は見えない。

クラスメイトからは大変心配された。やれ元気がないだの、顔真っ青だの、あーだのこーだの。

(なんでいないのさ。)

そのとき、私の心は待ち合わせを無視した義憤と、姿を現さない不自然さから来る心配でいっぱいだった。


やがて心配は確信へと変わる。


誰もいない部室。

踊る彼女は見られない。


その寂しさを何に例えよう。

なくしてしまったペンダント?

打ち切られたテレビ番組?


ちゃちい表現しか使えない、そんな私が大嫌い。


自己嫌悪の果てに、あの優しくも耽美で優雅な彼女を死ぬほど探す、探さなきゃ。


正直意味がないかもしれない。

それでも探さなきゃ、私が探さなきゃと駆り立てられた。


きっと私はてきろの告白を…。


泥水掻き分け、何度も何度も川に飛び込む。


見つかるはずもない。


一人の少女が立ち止まる。

同じ制服。誰なんだろう。

早くどこかへ行ってほしい。


「泥だらけで、服も顔もまっくろ。おまけに臭いも最悪だし、はぁ本当にあなたが部長だなんて、モチベが下がるわ。」


まっすぐ艶のある姫カット。

可愛らしい涙袋。

見た目に反してキツい物言い。

彼女はめいろ。

死活部の三人目の部員であった。

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