19輪.何が悪いの
「ハア、ハア、ハア……!」
イブキは城に向かってひたすら走っていた。
ほんの数百m程度の距離だが、城から出てくる逃げ惑う人々をかき分けて進むため、なかなか前に進めない。
それにすれ違う人々の中にも姫の姿は見当たらない。
「サン……!」
サンの事も心配だが、アムがなぜ花御子の力であるイデアを使えるのかも気がかりだった。
だが、今はイブキにそんなことを考えている余裕はない。
サンの無事を祈るようにただひたすらに走った。
辿り着いた城の玄関は無防備にも開かれたままで、そのまま一気に姫の部屋まで駆け上がり、姫の部屋の重たい扉をほとんど突進するように押し開けた。
「サン!」
そこには割れた窓に向かって座り込む姫の姿があった。傍にはルルもいた。黄色いドレスの裾が床に広がり、まるでそこに一輪の花が咲いているようであった。
「イブキ……」
花芯の少女が強張った顔で開かれた扉の方を向く。
「サン!」
イブキは駆け寄り、姫を抱きしめる。
姫は強くイブキに縋り、呼吸を荒げて震えていた。
イブキは姫の肩を掴んで、俯いたままの顔を覗き込む。
ルルは姫の背中を黙ってさすっている。
「花御子が来たの、早くここから逃げないと」
「どうして……」
「え?」
「どうして、花御子は私の幸せの邪魔をするの?」
「……」
サンの悲痛な面持ちにイブキは何も発言できなかった。それはルルも同じで、下唇を噛み締めて床を見つめていた。
静かな部屋にサンの思いが溢れ出る。
「私が生まれた時、あいつらは父と母を奪った。そして、今日は国民?どうして?私たち、何も悪い事してないのに!」
「姫……」
「ごめん!……ごめん、サン」
イブキは半狂乱になりながら、夢中で姫を抱きしめる。
イブキの胸の中でサンは鼻を啜る。
「どうしてイブキが謝るの?イブキは関係ないじゃない」
「そうね、なぁんにも!悪いことはしてないわ。あなたも、“私たち”も」
鼻にかかったような甘ったるい声。
イブキが顔を上げると、エリカが割れた窓に腰掛けていた。
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