第4話 リト村のサーシャ
「あ、あの! 本当にありがとうございました! あなたがいなかったら私、どうなっていたか……!」
サーシャと名乗った少女はそう言うと、俺に勢いよく頭を下げる。
到着がもう少し遅れていたら、オークの毒牙にかかっていただろう。オークのあれのサイズはとてつもないという、人の身にあれを入れたら無事では済まないだろう。
間に合って良かった。
「このご恩は忘れません。恩を返すためでしたらでなんでもしますので遠慮なく言ってください! あ、私貧乏なのであまりたいしたことはできないかもしれませんが……でも、気持ちだけは本気です!」
「き、気にしなくていい。困っている人を助けるのは当然のことだからな」
「ええ!? 助けて下さった上に見返りを求めないなんて、クロウさんはなんて優しい方なんでしょう……うう……」
サーシャさんはポロポロと泣き出してしまう。
喜怒哀楽が激しい人だな。
と、そんなことを考えていると今まで黙っていたアリシアがサーシャさんの横にスッと移動する。
「クロウ様のためになんでもするというのは、良い心がけです。しかし『さん』付けは不敬ですね。お呼びするのであれば『クロウ様』でしょう。なぜならこのお方は至高にして崇高にして最上の王であ……」
「やめろ」
暴走しているアリシアの頭頂部に軽くチョップを入れて黙らせる。
するとアリシアは「あうっ」と可愛らしい声を出した後、少しだけ頬を赤らめて後ろに下がる。どうやら思いがけずあんな声を出してしまったみたいだ。
「えっと……クロウ様と呼んだ方がいいんですか?」
「気にしないでいい。今までの呼び方で大丈夫だ」
「分かりました! あ、私のことは呼び捨て構いません。助けていただきましたし、クロウさんは高貴な方なんですよね?」
「……分かった。それではサーシャと呼ぼう」
「はい!」
サーシャ嬉しそうに笑う。
既に彼女には俺たちのことを説明済みだ。
俺たちは故郷が住めない状況になり、新天地を求めここにやって来たとある王国の者なのだ……と説明した。
そして俺はその国の王であり、アリシアはそのメイドと伝えた。フェイクも入っているが、まあ全部嘘というわけでもない。
本当のことを言っても信じられないだろうし、そもそも理解するのも難しいだろう。全てを知ったら彼女も神に狙われてしまうかもしれないからな。
「ところでサーシャはなんで一人でこんな森の中にいたんだ? それにオークに追われていた理由も差し支えなければ教えてくれ」
「はい。私はこの近くのリト村というところに住んでいるのですが、そこに突然複数のオークたちがやって来て……私はその内の一体に追われて、ここまで逃げたんです」
「なんだって? ということはまだその村にはオークがいるということか?」
「はい、たぶん……」
サーシャは表情を暗くする。
故郷がモンスターに襲われているんだ、気が気じゃないだろう。
俺としてもその村が滅んでしまうのは困る。急ぐ必要があるな。
「サーシャ、その村まで案内してくれ」
「え、助けてくださるんですか……?」
「当然だ。困っている人を見過ごすことはできないからな」
「……っ!! 私だけじゃなくて村まで救っていただけるなんて……ありがとうございます……っ」
サーシャは感動したように涙を流しながら頭を下げる。
その村を救うのは情報が欲しいからという目的もあるので少し罪悪感がある。まあ困っている人を助けたい気持ちは本物なので嘘は言ってないが。
「アリシア、その村を助けに行くぞ」
「仰せのままに」
アリシアの同意が取れた俺は、サーシャをお姫様だっこする。
サーシャは完全に普通の少女、高速での移動について来させるにはこの方法しかない。
「ひゃああああ!!!??? い、いったいどうしたんですか!?」
「悪いな。ただ今は時間がない。嫌だろうが我慢してくれると助かる」
「い、いいい嫌ってわけじゃないですけど、こ、心の準備が……」
サーシャは顔を赤らめ、もじもじしている。
いったいどうしたんだろうか? 気になるが、今は村を助けに行く方が先だ。
「サーシャ、村まで案内を頼む。おおよその方角でいい」
「は、はい。えっと、あっちの方です」
「分かった。
少しだけ宙に浮いた俺は、急加速してそちらの方に進む。
大量の木が進行方向を塞いでいるが、俺は周囲に魔力のバリアを張っているのでそれらの木は障害にはならない。全てなぎ倒して強引に進む。
「すごい! はやい!」
「ぐ、ぐぎぎぎ……クロウ様のお姫様だっこ、羨まし過ぎる……脳が壊れる……っ」
腕の中ではしゃぐサーシャと対照的に、後ろから付いてくるアリシアは憎しみの怨嗟をこちらに向けてくる。今更こんなことくらいで嫉妬しなくてもいいと思うんだが……。
「……人の気配がしてきたな。どうやら方向は合っていたみたいだ」
少し進むと、森が開けて村のようなものが目に入る。
その村からは数ヶ所煙が上がっている。どうやら状況はあまり良くないみたいだ。
「サーシャはここで待っていろ。すぐに終わらせる」
「は、はい」
俺は村の手前でサーシャを下ろすと、村の中に進入する。
村の中では棍棒や剣を装備したオークが暴れている。村人たちは建物の中に引き篭もりなんとかこらえているが、長くは持たなそうだ。怪我をして倒れている村人も何人かいる。早く助けないとな。
「
そう呟くとオークの一体が地面から突き出た骨の槍に体を貫かれ、絶命する。
突然の仲間の死に、周囲のオークは動揺する。
『ブオ!?』
『ブモ、ブモモ!』
ほとんどは豚に似た声を出しているが、その中の一体、体が大きく兜を被った個体だけは『なんだ!?」と人間と同じ言葉で驚いている。
あれは……オークの上位種『ハイオーク』か。
ハイオークは戦闘能力はもちろん、頭も普通の個体より優れている。人語も理解できるというわけだ。
俺が更に村の中に進入すると、ハイオークは俺の存在に気がつく。
「キサマが仲間を殺したのか! オレたちの邪魔をするとはナニモノだ!」
「俺か? 俺はお前たちの『死』だ。悪いがお前たちは全員ここで死んでもらう」
俺は自分の胸に手を当て、そう言い放つのだった。
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