第三章 地上進出

第1話 決意の日

《過去編・地上進出前日》


「はああああ!」


 俺が手にした剣を振るうと、目の前の巨岩が真っ二つに両断される。

 その断面は磨いたかのように滑らかだ。剣で斬ったようには見えない。


「お見事でございますクロウ様。これで剣術も習得マスターされましたね」


 そう言って近づいてきたのはアリシアだった。

 その手にはタオルが握られており、俺の側まで来ると俺の汗を献身的に拭ってくれる。


「こんなにも早く剣術を極めるとはさすが我らの王でございます」

「お前たちのおかげだ。まさか二年でここまで仕上げられるとは思ってなかった」


 深淵穴アビスに落とされてからの二年間。俺は自分の身体を鍛え抜いた。

 幸いここには優秀な師がたくさんいる。

 英雄にしごかれたおかげで魔法や体術、薬草学に集団戦術、剣術など強くなれるものは全て学び、吸収した。


 前の貧弱だった俺の体では、一つも習得マスターすることはできなかっただろう。

 しかし一度生まれ変わった俺の体は頑丈で強靭なものに変貌していて、どんなに動いても疲れず、教わったことは一瞬で習得マスターできるようになっていた。


 アリシアの予想では「瘴気を吸収して蘇生したことで、肉体が高次元のものに進化したのではないでしょうか」らしい。

 理由がなんであれ、強くなったのはいいことだ。


 弱ければ、全てを奪われる。

 弱ければ、復讐することもできない。


 完全な復讐を果たすため、俺は二年間牙を研ぎ続けたのだ。


「アリシア、明日地上に出る。まずは周辺の調査を行い、その後再び作戦を立てる」

「……! かしこまりました。とうとう開始するのですね」


 普段は表情を変えないアリシアだが、俺の言葉を受けて興奮したように言う。

 地上に出るということは、復讐を開始するということ。


 英雄たちはその時をずっと待っていた。アリシアも例外ではない。


「まずは俺とアリシアの二人で周囲の安全を確認する。あと簡易的な拠点も作っておきたいな。その後地上への安定的な移動方法を確保。ここまでできれば一回目の地上調査は成功と言っていいだろう」

「一歩一歩確実に……ですね。かしこまりました。地の果てまでもお供いたします」


 アリシアは恭しく俺に一礼する。


 ――――機は熟した。

 深淵穴アビスを抜け、遂に復讐を開始する時が来たんだ。


「では今日の夜のとぎは私がさせていただきます。明日存分に動けますよう、全力で役目を遂行させていただきます」


 アリシアはずい、と俺によってくるとその体を押し付けてくる。

 やわらかい胸が押し当てられ、むにゅりと形を変える。


「い、いや。ゆっくり寝るから大丈夫だぞ」

「いえ、クロウ様の強大過ぎるお力はまだ暴走する危険がございます。地上に行くのであれば、いつもり一層、しっかりといたすべきです」


 アリシアは理詰めで夜伽よとぎを迫ってくる。

 瘴気を吸って急激に成長した俺は、体内に膨大なエネルギーを宿している。今はだいぶ安定したが、蘇生した直後は力が暴走することがあった。


 それを防止するためにアリシアが提案したのが、性行為だった。

 なにを言っているんだと俺は最初戸惑ったが、これは古来からある力の安定方法らしい。肌を重ね合いお互いの力を循環させることで、力が安定するらしい。

 それに愛し合うという行為は心を安定させる。事実アリシアや他の英雄たちと体を重ねたことで俺は暴走することはなくなった。


 ……まあ安定した後も頻繁に求められて大変なんだけど。


「言いたいことは分かるが、今は力も安定しているし大丈夫じゃないか?」

「いいえ、油断は命取りです。安定しているときこそ入念にいたしませんと」

「分かった、分かったから落ち着け!」

「ご理解いただけてなによりです。ふふ、今日はどのようなプレイをいたしましょうか……?


 やっぱり自分が楽しむために誘ってないか? という言葉を俺は飲み込む。

 配下の望みを叶えるのも王の務め。


 それに俺だって男だ。アリシアのような絶世の美女に迫られて嬉しくないわけがない。


「それじゃあ、戻るとするか」

「はい。していただきたいことがありましたら、遠慮なく申して下さいね」


 こうして地上へ行くことを決めた俺たちは、一度城へと戻るのだった。

 ……その日の夜は、いつもより凄かった。

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