第8話 復讐の始まり

「冗談じゃねえ……こんなのなにかの間違いだ! 卑怯な手を使ってやがるに決まってる!」


 現実を受け入れられないガオランはそう決めつける。

 あの見下していたクロウが自分より強くなっているなど、彼のプライドが許せなかった。


「おいてめえらこっちに来い! 侵入者がいるぞ! とっとと来やがれ!」


 ガオランは大きな声で手下を呼びつける。

 ジーナと二人で話すために、彼は手下を下がらせた。部屋はそれほど離れていないので呼んだらすぐに来るはず。


「くく……終わりだクロウ。人数が増えればこっちのもんだ」

 

 笑みを浮かべるガオラン。

 彼の想定通り、すぐに複数の足音が聞こえてくる。そしてガチャと扉が開き、彼の手下が部屋に入ってくる。


「遅えぞお前ら! 武器は持ってきてんだろうな! そこのボケをとっとと殺せ!」


 大声で指示を飛ばすガオラン。

 しかし手下はその命令を聞かず、その場から動かない。それどころか彼らは言葉一つ発さない。


「なに黙ってんだ! とっとやれ!」


 ガオランは手下に近づき怒鳴る。

 しかしそれでも彼らは動かなかった。

 不審に感じたガオランが彼らの顔をよく見る。

 彼らの目は虚ろで、焦点が定まっていない。肌は土色になっており口からはよだれが垂れている。

 彼らの様子を見たガオランは気づいてしまう。彼らは全員、既に死んでいる・・・・・ことを。


「ひいぃ!? し、死んでる!?」


 驚きその場にへたりこむガオラン。

 その目はもう完全に怯え切ってしまっている。


「騒がれたら面倒だからな。ジーナが時間を稼いでくれている間に全員殺しておいた。もうそいつらは俺の言うことを忠実にこなす兵隊だ」


 死者を操るのは死霊術の基本的な技だ。

 彼らを殺し操るなど今のクロウにとって造作もないことであった。


「こ、この外道が……!」

「はっ、お前にだけは言われたくないな」


 クロウはそう言ってガオランに近づくと、彼の腹部に思い切り拳を叩き込む。


「が……っ!?」


 内臓が潰れ、胃酸が逆流し喉を焼く。

 あまりの痛みにガオランはその場に崩れそうになるが、クロウは左手で彼の襟をつかみ倒れるのを許さない。

 そしてクロウはガオランを引き寄せると、彼の体を何度も殴りつける。


「あ、が、やめ……う゛っ、お……っ!」


 顔、胸、肩、腕、腹、足、背中。次々とクロウの拳がガオランの体のあらゆる部位に突き刺さり、その部位を破壊していく。

 ガオランは痛みから逃れるために体を丸めようとするが、クロウはそれを許さない。的確に痛みを強く感じる場所を殴り、効率的に痛みを与える。

 クロウはボロボロになったガオランを地面に放ると、這って逃げようとするガオランの左膝を踏みつけ、彼の膝を完全に破壊してしまう。


「がああああっ!!」


 あまりの痛みに絶叫するガオラン。

 しかしクロウは一切の容赦をせず、逆の膝も同様に砕く。

 再び響く絶叫。まともに歩くこともできなくなってしまったガオランは涙を浮かべながら許しを乞う。


「も、もうやめてぐれ……これ以上は死んじまう……」

「……なにを言ってるんだガオラン。お前は一度でも命乞いをする人を見逃してあげたか?」

「それは……」


 ガオランは負い目があるように目を伏せる。

 彼はクロウがいくら「やめて」と言っても痛めつけるのをやめなかった。むしろ助けを乞う様を見て興奮し、必要以上に痛めつけていた。

 自分より弱い者をいたぶることがなにより好きな卑怯者。それが英雄ガオランの正体だった。


「ほ、本当に反省してるんだ! 今までの俺はどうかしていた! これからは心を入れ替えるから許してくれ!」


 ガオランは必死に土下座をして許しを乞う。

 彼の浅ましい姿を見て、クロウは呆れたような表情をする。


「そんな見え透いた嘘が通じると思っているのか? どうせここをやり過ごしたら、やり返すつもりなんだろ?」

「な、そんなわけ……」

「それにどんな理由があったとしても、俺はお前たちを許さない。お前らと、お前らに力を貸した者を全て殺すまで、俺は止まらない」


 クロウは最初、自分の怒りや憎しみが時と共に薄れるのが怖かった。

 しかしその心配は杞憂であった。深淵穴アビスで二年の時を経ても、彼の復讐心は少しも小さくならなかった。


 クロウは懐から捻じ曲がった刃の短剣を取り出すと、それをガオランの腹部に突き刺す。

 歪に捻じ曲がったその刃はガオランの体に複雑な傷を作り、そこから赤い血を噴出する。


「が、がああああっ!!!!??? い、いでえええっ!!」


 拷問用に作られたその短剣は、相手に痛みを与えることに特化している。

 ガオランは必死にクロウから逃げようとするが、クロウはそれを許さず更に深く刃を突き刺す。


「い、いでえっ! やめてくれ、本当に死んじまう! ごめん! 謝るから、なんでもするから許してくれ!」

「そうだ、苦しめガオラン。お前にはたっぷりと地獄を見せた後、殺してやる」


 そう言って、クロウは短剣を無理やり引き抜くと、今度は太ももに突き刺し、再び激しい痛みを与える。

 なるべく苦痛を与えるように、刀身をぐりぐりとねじ込み、ガオランの体内をぐちゃぐちゃにかき混ぜる。


「ぎゃあああ! 死ぬ! 本当に死んじまう! やめてくれえええっ!!」


 ガオランは涙を流しながら懇願するが、クロウは顔色一つ変えず断罪を続ける。

 その後数十分、ガオランが痛みで動けなくなるまでクロウは彼をいたぶったのだった。

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