第3話 英雄都市『イーサ・フェルディナ』

「俺に仕えるって……少し大げさじゃないか? 感謝してくれるのは嬉しいけど」

「そのようなことはありません。クロウ様は私を深い絶望から救ってくださった救世主です。このご恩は一生をかけなければお返しできません。なんでも命じてください、さあ」

「わ、分かったから一回離れてくれ!」


 やけに圧の強いアリシアを一旦押し返す。

 見た目はクールだけど、意外と主張は激しいタイプみたいだ。


「それよりここでなにが起きたかを教えてくれないか?」

「……はい、かしこまりました。クロウ様には全てお話しいたします」


 アリシアは少し話しづらそうにしながらも、ここでなにがあったのかを話し始める。


「ここは英雄の住まう都市国家『イーサ・フェルディナ』。各地より集った英雄が興した都市であり、ここでは多くの人が幸せに暮らしていました」


 アリシアは昔を懐かしむように語る。

 彼女が語った都市名は聞いたことがない。これだけ大きな都市の名前が残っていないのは不自然だ。歴史から消されたと考えた方が自然だ。


「英雄を多く抱える我々は他国からの侵略も受けず、平和に暮らしていました。しかし私たちは……力を持ちすぎてしまったのです」

「どういうことだ?」


 そう尋ねるとアリシアは瞳に怒りの色を滲ませる。


「私たちは力を持ちすぎたのです……そのせいで神の不興を買ってしまいました。私たちの力を恐れた神は、突然天から破壊の光を降らし、この都市を一夜にして滅ぼしました」

「な……っ!?」


 アリシアの口から語られた真相を聞いて、俺は驚く。

 神律教会オルデン・セラフィアの経典では神は慈悲深い存在として語られている。俺も子どもの頃からそう聞かされていたのでそう信じてしまっていたが、どうやら神はロクでもない存在のようだ。


「ところでクロウ様。どうして貴方はここにいらっしゃるのですか? クロウ様の過去も教えていただきたいです」

「そうだな、情報はすり合わせておいた方がいいか。あんまり楽しい話じゃないけど話しておこう」


 俺は自分が死霊術師ネクロマンサーであること、勇者と一緒に戦い魔王を倒したこと、しかし裏切られ処刑されたこと、死霊術師ネクロマンサーの力でなんとか蘇ったことを話す。

 話を黙って聞いてくれていたアリシアだが、全てを話し終えると瞳に涙を浮かべる。


「うう……そのような辛いことがあったのですね……っ。そのような辛い境遇にありながら、私に慈悲を下さるとは。さすがクロウ様、私の主人、いと尊きお方……! やはり私の仕えるお方は貴方を置いて他にいません」

「そ、そうか」

「それにしてもその元仲間の者どもは許せませんね。クロウ様を裏切るとは……万死に値します。生まれてきたことを後悔させなければいけません」


 アリシアは瞳に強い怒りを滲ませながら言う。

 それは同感だ。あいつらには復讐しなければいけない。最大限の苦しみを与え、もっとも辛い死を与えるんだ。


「そして……クロウ様を処刑するよう神託を出した神も許せませんね。我々だけでは飽き足らずクロウ様まで毒牙にかけるとは。時が過ぎても奴の悪辣さは変わっていないようですね」


 そうだ。そもそも俺が処刑されることになったのは神のお告げが発端。

 神はこの世界とは別の場所にいる遠い存在だと思っていたけど、この都市を滅ぼしたように直接的な攻撃ができるなら、こちらから神を攻撃できるかもしれない。

 そうなると、


「復讐する相手が一人増えたな。お前も苦しめて苦しめて殺してやる……!」

「神の名を聞いても恐れるどころか復讐の対象にしてしまうとはなんたる豪胆……やはり貴方こそ私たちの新たなる王に相応しいお方です」


 アリシアは羨望の眼差しを向けてくる。

 なんだかやけに評価が高いな。だけど力を貸してくれるならありがたい、見放されないように気をつけないとな。


「アリシア、俺は神と俺を裏切った仲間に復讐する。手伝ってくれるか」

「はい、もちろんでございます。このアリシア、どこまでもお供させていただきます」


 アリシアはそう言って俺の前にひざまずく。

 少し話しただけだけど、アリシアはかなり高い能力を持っているように見える。彼女が手伝ってくれるならかなり心強い。

 そう思っていると周りにいたアンデッドたちが俺の側に近づいて来て……そしてアリシアと同様に俺にひざまずく。


「これは……」

「どうやら他の者も私と同じ気持ちのようですね。貴方を王と認め、力になりたいようです」


 膝をついたアンデッドたちは、決意のこもったような目で俺を見てくる。

 その瞳の奥には強い『怒り』を感じる。

 こんなところに閉じ込められて、瘴気に苦しんだまま死ぬことも許されない時間を過ごして来たんだ。その怒りは計り知れないほど大きいだろう。


「分かった。お前たちの無念は俺が晴らす。だから俺に力を貸してくれ」


 俺の言葉を聞いたアンデッドたちはひざまずいたまま頭を下げる。どうやら俺の頼みに同意してくれたみたいだ。

 ここにいるだけでも二十人近い英雄が俺に力を貸してくれたことになる。もしここにいる英雄全てを仲間にすることができたら? あいつらに復讐するのも不可能ではなくなる。


 希望が見えた俺はアリシアに問いかける。


「アリシア、アンデッドになっている人を全員集められるか?」

「はい。おやすい御用です」

「それと……」

「全員を集められる広さがあり、かつクロウ様のお姿がよく見える場所、ですね。であれば中央にある城が相応しいかと。あそこの大広間なら声もよく響きます」

「そ、そうか。ありがとう。助かった」


 なんで出会って数十分でこんなに思考が読み取れるんだ。正直怖い。

 一流のメイドというのはみんなこうなのか?


「お召し物もご用意いたします。では参りましょうか。みなに早く教えて差し上げましょう、新しい王の凱旋を」

「ああ」


 俺は短く言って歩き出す。

 思わぬことになったが……あいつらに復讐するためだったら、俺はなんでもやる。


 なってやろうじゃないか、この深淵穴アビスの王にな。

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