転生したらハゲてた

睡眠求

第1話

ブラック企業に務めて十年、俺の名前は中谷誠一。

朝5時出社、終電帰宅、休日出勤ボーナス無し。


「働いたら負け」って言ったヤツ、マジで預言者だと思ってる。


そんな俺が、ある日死んだ。


階段で寝落ちしたら、そのまま首ゴキィしてゲームオーバー。

ダサい。俺の死因。


その後、目を覚ましたら知らない草原だった。

体は軽い。筋肉もバッキバキだし、顔も整ってる。


「おお、これは噂の異世界転生ってやつか!?

社畜卒業!?イケメン人生スタート!?」


テンションブチ上がって、泉に顔を映した。


「っしゃああああああイケメンんんん……あれ?」


風が吹いた。妙に涼しい。


そして、気づいた。

俺の頭のてっぺんが―



つるっつるだった。



泉の中の自分は、イケメンフェイスに堂々たる筋肉、

その中心に、太陽光を全反射するハゲ。


「神様!!!???

どんな悪意!?!?!?」



気を取り直して森に向かって探索開始。


しかし俺のスペック、ステータス?とかまっさら状態。


とりあえず手を振ったら奥さんが倒れたのでビジュアルだけ高いらしい。


すると――


「グオォォオオォオ!!!!」

ド派手なドラゴン登場。体長5m。口から紫の火。


こりゃあかん。

逃げようとした瞬間、条件反射で……


ペコッ(深々お辞儀)

「すみませんすみませんすみません!!!!!!」


その瞬間。


ズギャァァァアアアアン!!!!!!!!



俺のハゲが太陽光を反射し、ドラゴンに直撃。

光の速さで灰となった。


「…俺の武器、ハゲレーザーなんですか……?」


自分の力が怖すぎて村に戻ろうしとした途中、

木陰で倒れていた少女を見つけた。


痩せこけた頬に長い金髪、日光でキラキラ輝く水色の大きな瞳。


「お、おい、大丈夫か……?」


「……誰?」


それがミリアとの出会いだった。


家族を魔物に殺され、村から逃げてきたという。

行くあてもなく、心も閉ざしていた。


「俺は……中谷。えっと、昔は“給料泥棒”って呼ばれてたな」


「…給料泥棒……」


「…ごめん……お兄さんにしよ。」



そんな始まりだったけど、しばらく旅を共にするうちに、少しずつ心を開いてくれた。


ある日、焚き火の前でぽつりと呟くミリア。

「……にいちゃんって、なんでそんなに謝るの?」


「ああ、クセなんだよ。前は、謝らなきゃ生きれなかった。もっと頭を使えとか、別のやつを雇用すれば良かったとか言われたな。」


「…でも今は、頭を下げて誰かを生かせられるんだね。」


「……そうだといいな。」


静かに風が吹き、火がぱちりと音を立てた。



翌日。


「あなたが……光の勇者様!!」


「教会でお待ちしておりました!!」


村の人に流されるままに教会へ行くと、

金ピカ装飾に囲まれた大聖堂にド派手に大歓迎。



「伝説の預言書にはこうあります――

“禿げし者、光を招きて邪を討たん”」



俺じゃん。



教会の人々は、ハゲ部分に礼を尽くして接してきた。

「ああ、ハゲよ……!」


「今こそ御光をッ……!この村にッ……!」



ご利益じゃねぇんだよ俺の頭



さすがにミリアも俺の頭も気まずそうにしていたので足早に帰った。



山を越えて隣町へ向かう道中。

太陽が傾き始め、光が弱まる時間帯。


「ちょっとマズいな……もうビーム出ないかも……」



そんなとき、地中から現れたのは――


バカデカドラゴン(仮名)


一瞬で木が粉砕された。デカい。牙ヤバい。

「こりゃダメだな…ミリア、遠く行ってな。」


「……うん」

パタパタと足音を立てて後ろに駆け出した。



「おっしゃ、やるか…!」

意識を頭に集中させ、日光をためる。


が、日が傾いてハゲに光が足りない。

やっべぇ、いつもの反射ビームが出ねぇ。


だが、ここで逃げたら…俺はなんとかなってもまだ近くに居るであろうミリアが危ない。


とりあえず、前世で叩き込まれた“会議中に上司を怒らせないお辞儀”を繰り出す!!


ペコッッ!!!


「愛してください!!!」

……が、もちろん光なし。


ドラゴンが突進してくる。

ドラゴンなのに突進なんだ、なんて考える暇もなかった。


ダメだ、またミリアがひとりになっちまう。



そのとき――



「にいちゃんっ!!!!」

ミリアが叫びながら飛び出してきた。


「おまっ……いまは危ねえ……!」


「もう二度と、大事な人が目の前でいなくなるのは……


いやだ!!!」


太陽を反射する銀の鍋蓋を両手に持ち、俺の頭頂部に

ピタッと当てた。


「やってやれ!!にいちゃん!!!!」


「お待たせ……しましたーーー!!!!」

ペコ!!!!


鍋の蓋で反射した最後の夕日が、俺の頭に集まり――

超集束ビームとなって魔獣を貫いた。


地面ごとえぐられ、空を裂く光。


「…な、なんだ…今の……」


「合わせ技だよ。私と、にいちゃんの」


「お前ってやつは……!」



その夜。

焚き火のそばで、ミリアが言った。


「私ね……前の村で、家族が死んだのは私の水色の目が魔物を引き寄せたからだって言われた。

優しくしてくれたおばちゃんに、村から追い出された。

もう、誰も信じられないって思った。」


「でも、にいちゃんだけは違った」


「戦うときも、謝るときも、本気だったから

……だから、ついていきたい。私も本気になりたいって思えた」



「ミリア……」


ミリアがここまで自分のことを話すのは初めてだった。


あの頃、社畜として消耗して、何も残らなかった俺。

でも今、俺の頭には、ちゃんと“希望”がある。


俺はようやく、自分の頭を使い、人の役に立てるのかもしれない。



翌朝、空は晴れていた。

「よし、太陽はバッチリ。探検日和だな。」


「うん!にいちゃん、今日も輝いてる!!」


「それ褒めてるよね!?」


この世界に来てやっと、自分を誇れるようになった。


俺の頭には、光がある。

そして――隣には、鍋蓋を抱える相棒がいる。


どこまで行けるか分からない。

でももう、誰かに言われて謝るだけの人生じゃない。


ハゲだから、前を向ける。


――これは、俺とミリアの物語。

光を、信じた者たちの物語だ。

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