第一話
秘密結社、始動す……前編
ここは闇の潜伏地。
彼等が
この部には、撮影班、編集班、放送班など各班に別れており、部室は部員の出入りも激しいため、彼等『異能観測同好会』にとっては格好の隠れ場所となっていた。
『
この疑似なる『約束の地』で、闇の眼差しを研ぎ澄まし、光の舞姫の儀式を記録するための万全の態勢を築いている。
今日の
大会に向けた予行練習と聞きつけ、彼等はその華やかな『巫女装束』を纏った姿を観測すべく、念入りな準備をしていた。
「大佐殿よ……奴らの身に纏うこの『巫女装束』の裾から、ひらりと覗く『秘されし闇のヴェール』こそ、真の至高よの」
真人はファインダー越しに、さながら禁断の秘儀を見守る司祭のように呟いた。
理人も薄く笑みを浮かべて応じる。筋金入りの不審者がここに爆誕しようとしている。
「うむ、まさにそれだ。『秘されし闇のヴェール』が風に揺れる様は、我等『闇の
二人はまるで伝説の秘宝の秘密を語り合うかのように、チアリーディング部の衣装を『巫女装束』と呼称し、その神秘性を讃え合っているが、極めて妖しい雰囲気を漂わせている。ここに第三者がいたら、即刻通報していただろう。
「して大佐殿……かの『
「藤原氏か……だが、あの者はまごうことなき光属性の塊。接触などしたら我々は即焼かれてしまうだろう」
理人は重々しく言い放った。
「だが、あの『舞姫』は光属性の塊。直視すれば我等は灰燼に帰す。故に我等は、この闇の力を以てしても遮光の護符と聖水を携行し、塩の結界で己を守らねばならぬのだ」
「盛りに盛りて護符の力を
理人は淡々と返す。
『舞姫』とは、センターラインを務めるチアリーディング・チームのエースで、彼等の同級生である女子生徒の『
光属性の申し子のようなコミュニケーションモンスターであり、彼等にも明るい笑顔で声を掛けてくる。それは闇に生きる彼等にとっては脅威でしかない。深海魚は明るく水圧の低い海面付近では生きてはいけないのだ。
「あの『舞姫』には車間距離を保ってもらわねばならぬ」
「うむ、これでは煽り運転と同じであるな」
「そのための作戦よ。寄らば斬る……その一歩と心得よ」
「応っ!」
真人は頷き、冷静に答える。
「されど、魔女の使徒の可能性を排除してはならぬ。観測は必須だ」
理人は眼鏡の奥で薄く笑いながら付け加えた。
「ならば遮光ゴーグル、聖水、塩も携行せねばならぬ。盛りに盛って我等の身体を守らねば」
しかし、真人が望遠レンズのピントを調整していたその時、窓の向こうに別の影がちらりと見えた。
「大佐殿よ……あれを見よ」
真人が指差す先には、二人の女子生徒が歩いている姿があった。
風紀委員の腕章を付けた『
二人とも女子硬式テニス部に所属し、普段は生徒の風紀を厳しく取り締まる『粛清の天使』として恐れられている。
「ほう……『粛清の天使』らが現れたか」
理人は眼鏡を押し上げながら呟いた。その視線はひかるより玲子に向けられている。決して相容れる事のない存在であり、闇に生きる彼等にとっては対極に立つ存在だ。
「見よ、大佐殿。あの不埒な天使どものスカート丈を……」
確かに、二人の制服のスカートは学校の規定よりもかなり短い。膝上十センチは軽く超えている長さだ。まるでこれから狙いに行く『舞姫』の衣装のような長さだ。
「風紀委員でありながら、なんたる破廉恥、なんたる不届き! 己らの身なりを正すことすらできぬとは、けしからん!」
真人は義憤に駆られたような声を上げたが、その目は得物を狙う獣のようにしっかりと追っている。
「然り……あの短きスカートの奥に秘められし『秘されし光のヴェール』……純白なる神聖なるそれを垣間見るのは、まさに禁断の果実よ」
理人もまた、望遠レンズを調整しながら熱っぽく語る。
「だが気をつけろ、理人よ。奴らに見つかれば待っているのは『粛清』……すなわち反省文地獄だ」
「うむ……『粛清の天使』らの制裁は苛烈極まりない。だがそれゆえに……」
「ハイリスク・ハイリターンということか……」
真人の声に興奮が混じる。危険であればあるほど、燃え上がる何かがあった。
「うむ……奴等の『秘されし光のヴェール』を目にするということは、その後に待ち受ける『粛清の儀式』をも覚悟せねばならぬ。反省文という名の血の誓約書を……」
「だが、それでも……我等は真実を見届けねばならぬ」
「ならば……」
「うむ! まずは『粛清の天使』どもを血祭りに上げて、決戦に赴くとしようではないか!」
「賛成だ!」
二人は本来の目的を忘れ、目の前の風紀委員の二人を追い続けた。なんとも言行不一致、臨機応変の男達だ。
「記録したか?」
「まだだ、これでは狙えぬ。引き付けてから一撃必撮……これぞ究極の技だ、大佐殿」
彼女達に風が吹く瞬間、玲子がしゃがんで落とした物を拾う瞬間……全てが『聖なる禁忌の観測』の対象だった。
「ああ……見える、見えるぞ!……白き『光のヴェール』が……」
「これぞまさに神々しき光景……だが同時に我等の終焉をも意味する」
真人は恍惚とした表情でカメラを三脚から外して構えた。
しかし、興奮のあまり三脚のバランスを崩してしまう。
直後……ガタンッ!と音が鳴り、三脚は床に倒れ、無惨にも真人の足を直撃する。
「グハッ!」
「真人氏っ!?」
「落ちた! 我の左足に! おのれ三脚!
真人は顔を歪めながらも、怒りを込めて声を上げた。
「くたばれ、重力!!」
「ん? そこで何してんの……?」
その怒声に、部屋の入口の影が揺らぎ、一人の男子生徒が顔を覗かせた。
声の主は、彼等が『
『
友瑠は物音に気が付いて、彼等のアジトに入ってきた。
しかし、部員を全員把握している訳ではない友瑠は、本当は部外者である彼等が部室にいる事に違和感を覚えていないようだ。同時に、友瑠は真人と理人が何をしているのかも興味はなさそうだった。
「大きな音がしたけど……大丈夫?」
深追いするでもなく、ただ軽く首を傾げる。
「な……久遠氏……だと……?」
「……見つかったか!?」
「やむを得ない……遺憾ながら、この地は放棄する……」
真人と理人は咄嗟に動揺し、すぐさま
「えっ……? なんか驚かせた感じだった? ごめん」
バツが悪そうに頭を掻く友瑠に、荷物を纏めた真人は静かに見据えた。
「今回は我等が退こう。だが、いずれ深淵なる闇の力が、
「はい?」
キョトンとする友瑠の前で、二人は慌ただしく荷物を手に持った。
「ゆめゆめ忘れるな……我等、闇に住まう者……このようなことでは屈しはせぬ」
真人は退路を確保しながら呟く。
「我等の『約束の地』はまだ遠い。いずれ必ず奪い返すのだ」
その言葉を背に、二人は素早く部屋を後にした。
友瑠はその様子を呆気にとられながら見送る。
「えっと……今のは何だろう?」
首を傾げながら「まっ、いっか」と呟いた彼は自席に戻り、先程一眼レフカメラから撮影した画像データをメディア部のフォルダーに転送し始めた。
<To be continued>
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます