1-3

《え?》

 私は絶句した。その言葉のいったいどこが誘拐と結びつくのだ?

《それだけ?》


《ああ、それだけだ。もう少し聞いていれば、潜伏先とか共犯者のこととかわかったかもしれないのに、残念だ。僕もその時は誘拐に関わる話だとは気づかなかったので、彼らの後を追うこともしなかった。まったく迂闊うかつだった》


《ちょ、ちょっと待ってくれ》

 私は話についていけなくなり、愛染を止めた。

《どうして君は、「8キロは重すぎる」だっけ、そんな言葉で誘拐事件が起きているなんて思ったんだ? ちょっと飛躍のしすぎじゃないか? 私には理解できない――》


 愛染が口を閉じたのを感じて、私は残りの言葉を飲み込んだ。

 その沈黙があまりに重いので、とりあえず謝った方がいいかもと思ったところで、愛染が低い声でぼそりと言った。

《やはり、そこから説明しないとダメか。君ならそこまで言わなくてもわかってくれるかと思ったが……》


《いや、私はともかく、そんな説明では警察は動かないよ》

 私はあたふたとして言った。

《その言葉が誘拐事件が起こっていることを示すものだと、はっきり説明しないと》


《仕方ない》

 愛染は低い声で言った。

《事は緊急を要するんだ。時間が経てば経つほど掠(さら)われた子どもの命が危うくなる。だから、一度しか話さないよ。途中で余計な口をはさまないで、よく聞いてくれ》


《わかった》

 私は彼女の真剣さに驚きながらそう返事をした。

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