死して忘れゆく者たち

目白一重

第1話 座敷童子になれたなら

 目が覚めたとき、俺は家にいた。

 リビングの片隅に佇んでいる。

 自覚としては、意識が戻った、という感覚に近い。

 けれども、体は動かず、声も出なかった。

 自分が死んだことを認識するのに、それほど時間はかからなかった。

 なぜ死んだのかも、覚えていないが。

 リビングには見慣れた家具。

 俺が死んで、どれくらい経ったのだろうか。

 娘の表情は暗く、妻の笑顔がぎこちない。

 二人を励ましたくても、俺は触れられないし、声も届かない。

 俺は、家に縛られている。

 多分、地縛霊というやつだ。

 悔いはあった。

 残してしまった二人への未練と、後悔が、胸の内で渦巻いていた。

 だから、せめて、せめて、役に立ちたいと思った。

 ……座敷童ってのがいるだろう。

 家に幸運を運ぶ存在。

 どうせこの家から離れられないのなら、そういう存在になりたかった。

 どんな小さなことでもいい。

 俺にできることがなにかあって、それが二人のためになるのなら。

 見てもらえないことは悲しい。

 触れられないことは苦しい。

 だけど、二人の笑顔が見られるのなら、それで良かった。

 この家が幸せな場所であれば、それで。

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