1/96〜男女比1:96の貞操観念逆転世界で生きる男刑事〜
Pyayume
序章「異分子」
第1話「面接室の異分子」
「君は、自分がどんな存在か分かっているか?」
硬質な声が、静まり返った面接室に響いた。
——男である。
——この国で、男であることがどんな意味を持つか。
わかっている。
だが、黙っていた。
対面に座る女性幹部は、その静寂を脅すように指先で机を叩いた。
その女性は警視庁の幹部面接官。
制服の胸には、金色の警視正の階級章に加え、『国家生殖資源庁』の徽章が輝いている。
「国家資源。それが、今の君の社会的価値だ。護られ、管理され、国家のために活用される義務がある。それが与えられた役割だ。」
この世界では、男女比が1:96。
男は国家に管理される生殖資源だ。
恋愛も職業選択も、自由ではない。
彼女の視線は冷たいが、どこか哀れみの色も滲んでいた。
「なのに君は…『刑事課を希望します。』と言ったな…。それは反逆にも等しい自覚はあるか?」
俺はゆっくりと口を開いた。
「わかっています。でも私は、事件を追いたい。現場に立ち、犯人を捕まえたいんです。」
俺の若干の猛りを孕んだ声で、面接室の空気がピリリと張り詰めた。
背後に立つ2名の護衛官が反射的に腰に手を伸ばす。
銃ではない。
非常時避難用の保護シールドだ。
この世界では、男が興奮するというのは資源の損傷リスクだ。
「貴重な『国家資源』が、危険な現場で怪我でもしたら、国の損失は計り知れない。君の意思だけでは済まない話だ。」
幹部は凄みを利かせつつも冷静に告げるが、俺は視線を逸らさない。
「国家資源だからこそ、私にしか追えない犯罪があります。 私は繁殖プランに埋もれて終わるために生まれてきたわけではありません。」
面接室に、5秒程の沈黙が続いた後、幹部がゆっくりと椅子に背を預け、冷えた笑みを浮かべた。
「…面白い。まるで新米巡査の空想に出てきそうな『刑事』そのものだな。…いいだろう。だが一つ条件がある」
「条件ですか?」
「君は交番勤務をせず、捜査第一課に特例配属する。だが護衛は絶対に付ける。現場に出ればSPが張り付くし、捜査権限も制限付きになる。それでもやるというなら、やってみろ」
俺は拳を握りしめた。
「はい。どんな形でも、俺は刑事になります。」
幹部の眼光が鋭く光った。
「その覚悟、見せてもらおう。ようこそ、『警視庁捜査第一課』男刑事第一号くん。」
その瞬間、護衛官達の驚きの声ともならない声が聞こえた。
彼女たちにとってはあり得ないことだったのだろう。
「面倒な毎日が始まるぞ。覚悟しておけ、『異分子』くん」
こうして俺は、 『男という資源』でありながら『刑事』であるという 世界に一人しかいない立場を手に入れた。
俺は、ここから刑事として生きていけることに胸が熱くなりつつも、これまでの事を思い出した。
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