第5話 雨の中の相合傘

放課後。

部活も文化祭準備も終わって、校門を出た瞬間――空が急に暗くなり、ポツポツと雨粒が落ちてきた。


「やば……傘持ってねぇ」

俺が頭を抱えていると、隣からひょいと差し出されたのは、さくらの傘だった。


「一緒に入ろ? 神谷くん」

「……いや、俺が濡れて帰るから」

「ダメ。風邪引いたら困るし」

「でも、椎名が濡れるだろ」

「じゃあ、くっつけばいいんだよ」


そう言って自然に俺の腕を取る。

一瞬、鼓動が跳ね上がった。


道幅が狭い住宅街。

傘の下で肩が触れ合い、シャンプーの匂いがふわりと漂ってくる。

近い。近すぎる。


「ねぇ、神谷くん」

「……なに」

「文化祭、楽しみだね」

「……まぁな」

「完成したら、ご褒美あげるって言ったの、覚えてる?」

「……お、おう」

「それ、今でも有効だから」


そう言って笑う彼女の横顔が、雨音に負けないくらい心臓に響いた。

――傘の下の世界が、こんなに狭くて、甘いなんて知らなかった。


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