全員転生者な件について
@Kikui-Nono
第1話 転生者、アンナ・フォン・レイシャーレ
私は転生者だ。
頭は正常である。
気が狂っているわけでも、そういう話に夢を見過ぎで妄想と現実の区別がつかなくなっているわけでもない。
とりあえず、自己紹介と行こう。
私の名前はアンナ・フォン・レイシャーレ。
異世界系学園ゲーム、ファンタジアストーリーに出てくる悪役令嬢である。
この事に気づいたのは4.5歳の頃だった。
いや、確信した、と言った方が正しい。
生まれた時からずっと違和感があったのだ。なぜ身の回りのトイレや風呂が「古い」と感じるのか、なぜ母親や父親が乳母を雇い私の世話を放棄しているのか、なぜパンばかり食べていると米などという一度も口にした事がない食べ物が頭をよぎるのか、なぜ、なぜ、なぜ……。
挙げればキリがない。
とにかく、普段の生活の全て、至る所に。
ほんの少しだけ違和感があり、初めはその理由がわからなかった。
そして、それはなんとなく居心地の悪さを感じさせるものだった。別に何もおかしくない。
おかしくないはずなのに、なぜか気持ちが悪い。幼い子供には不釣り合いな大きい部屋も、天蓋付きのベッドも。なにもかもが。
唯一心が落ち着くのは、家の書斎だった。書斎というよりは、図書館と言った方が正確かもしれない。
本の紙とインクの匂いのするこの部屋は、私の一番のお気に入りだった。
しかし、私が書斎に入り浸ろうとするのを阻止する人がいた。
乳母である。
お父様とお母様から外で十分遊ばせるように、と仰せつかっております、などと言うのである。
しかし、外に出しても木陰で涼むだけ、他の子供がいてもほとんど興味を示さない私に、乳母は1年ほどで諦めた。
両親も娘はこういう子なのだ、と理解するようになり、私はもっぱら書斎で一日を過ごしていた。
何をするのか、といえば…
読書である。
というか本があるのに他にする事もないだろう。
書き文字を覚える必要があったが、それは読んでいれば自然と身についた。
4.5歳になる頃には書斎にある本をほとんど読破し、そして知った。
この世界にどんな国があるのか、どんな魔法があり、どんなモンスターがいるのか。
そうして理解していくにつれ、ようやく。
ずっと抱いていた違和感の正体に気づいた。
ああ、私はこの世界を知っている。
ここはファンタジアストーリーというゲームの世界で、私は転生してしまったのだ。
"私"が大好きだったゲーム。一つ一つのイベントに一喜一憂して、登場人物のセリフを覚え込むぐらい何度も周回したゲーム。
その世界に、今、"私"はいる。
転生した事に気づいた私は、それから色々と準備を始めた。
ゲームの舞台、王立魔法学園アルベニアに入学するまでに、資金を貯め、人脈を作り、婚約者の好感度管理…はできているか分からないが、とにかく思いつくことは出来るだけやってきた。
すべては、最悪のパターン《処刑エンド》を回避するために。
そして、ついに今日がその入学日である。
「行きましょう、ユイ」
「はい!お嬢様〜!」
隣には、私の侍女である"ユイ"という名前の少女がいる。頭に被った帽子の端から、揺れる2つのネコ耳が見えていた。
「耳が出ているわ。直してあげましょう」
「えっ、あっ!そ、そんな、お嬢様の手をお借りするわけには」
「ほら、少し屈んで」
「うぅ〜っ。申し訳ありません…」
「気にしないことよ。私の従者だもの、私があなたを完璧の状態にするのは当然なのだから」
「へへ…」
ユイは恐縮しながら、恥ずかしそうに笑った。照れている時の癖だ。
私は耳が隠れたことをしっかり確認して、帽子から手を離した。
ユイは見ての通りネコの獣人で、学園にはこれらの種族を毛嫌いする生徒もいる。
気休め程度だが、帽子はその目隠しだ。
「さて、行きましょう」
一歩、気を引き締めるように足を踏み出す。
ここから、始まるのだ。
私の——いや、アンナ・フォン・レイシャーレの学園生活が。
全員転生者な件について @Kikui-Nono
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