第7話 お偉いさんとお友達になるぞ大作戦

 本日のもう一つ目的を今から遂行する。

 他国のお偉いさんと仲良くなる、という目的だ。

 目星は大体つけている。

 レヴァイン王国に隣接している国はメビウス王国だけではない。他に四カ国ある。そのうちの『ヴェルルーシ共和国』と『イラビアン帝国』の二カ国である。選定理由はなんとなくではない。この二国はレヴァインだけでなく、メビウスにも面している。なので、この場に間違いなくいるからだ。


 また、ヴェルルーシは農業資源をかなり保有している国であり、他国にもたくさん輸出している。もちろん他にも産業はあるが、メインの産業はなんだと言われれば農業となる。レヴァインがもしもの時のことを危惧するのならば、食糧の確保は真っ先に行うべきだろう。ヴェルルーシとは是が非でも仲良くしておきたいところだ。


 イラビアン帝国はエネルギー資源の産出国であり、機械を動かすのに必要な魔導石の産出が世界を見てもトップクラスとなっている。また鉱山なんかもたくさん採取でき、化石燃料なんかま期待できる。まあ現状、石炭や石油などの化石燃料を確保したところで、それを有効活用する機械が存在しないのだが。まあいずれ、私の現代知識パワーでどうにかすることを考えると仲良くしておいて損はない。取らぬ狸の皮算用にならなければいいが。


 ただどちらも社会主義国家。独裁国家だ。真っ赤な国である。

 仲良くなるのはそう簡単なことじゃないよなあ……と思う。


 「お嬢さま。余計なことはなさらないでくださいね? 今回はメビウス王国以外の方もおおくいらっかゃいます」

 「わかってるよ、ホーリィ」

 「それよりもあまり体調が優れないそうに見えましたが、大丈夫ですか? もし少しでも悪いようでしたら、もう下がってお休みになられても」

 「元気だよ。ほら、元気元気〜」


 筋肉隆々のポーズで元気をアピールする。


 「……そうですか〜」


 ホーリィはつまらなさそうにそっぽを向いた。

 心配してくれてたんだと思ったが違うな。これ、体調不良を理由にさっさと不安材料である私を後ろに下げて安心したかっただけだ。ホーリィめ、やるな!

 いい作戦だったが、甘いなホーリィ。私も頭はきれる方なのだよ。


 「それじゃ、あっちのご飯を取ってくる」

 「あ、私がやります」

 「いいのいいよ、大丈夫」


 ホーリィが動いたら私が動けなくなっちゃうし。

 ホーリィから逃げるように私は人混みの中へと消えていった。

 ふふふ、私の勝利だな。





 人混みに紛れ、適当に歩く。それから一応ホーリィや両親に見つかった時のために料理は適当に盛り付けておこう。

 もしも見つかったら「美味しそうなのがいっぱいあって迷ってた〜。てへぺろ」みたいに子供っぽさを演じれば乗り切れる気がする。

 というわけで、さーてどれにしようかな……と、バイキング形式に並んでいる料理を時折ぴょんぴょん跳ねながら確認する。

 しまった。奥の料理届かないぞ。

 山のようにあったはずの選択肢はぐーっと狭まった。


 うむ。しょうがない。

 手前の肉系の料理を適当に盛りつけよう。


 お皿に料理を並べていく。


 「わっ、ちゃ、茶色……」


 野菜を取らずに、肉系の料理ばかりを選んだ結果がこれである。真っ白なプレートは茶色になっていた。肉料理に使われていたタレが全体に行き渡って、本当に茶色くなる。

 こぼしたら、ホーリィに選んでもらった可愛いドレスが台無しになるなあ、と思いながら歩き始めたその瞬間であった。

 強い衝撃が全身を駆け巡る。バランスを崩し、気付いた時には視界全体に天井が広がっていた。

 誰かとぶつかった。そして今私は盛大に転んでいる。

 言われなくとも、状況で悟ることができた。


 「ああ」


 と、声を漏らす。

 さらに視界に入ってくるのはさっきまで持っていたはずのプレートだった。

 料理とプレートはバラバラになって飛び散り。すべてが私の方へと向かって落ちてくる。


 ああ、じゃないが。


 なんて冷静な思考が脳裏を過ぎる。その次には「あっちぃっ!?」と口から漏れ出ていた。

 もうほぼ叫んだと言って差し支えない。

 料理を、タレを、そしてプレートを頭から被っていた。

 まるでギャグ漫画みたいに。


 「はあ、もう最悪……怒られるじゃんこれ」


 ホーリィが静かな鬼になっている姿が容易に想像できる。どうせ「これだからお嬢さまは……」とため息混じりに言われるのだ。

 じゃなくて。私とぶつかった相手がいるはずだった。

 ここにいるのは大抵お偉いさん。もしくはメビウス家で働く使用人。

 後者であれば即座に謝罪の言葉が飛んでくるはず。なので私がぶつかったのは前者。もしくは後者がぶつかった衝撃で意識を失ってしまったか。

 どちらにせよはっきり言えるのは、ここでなよなよしている場合ではないということだ。


 「えっと、その」


 謝罪をするべきか、でもぶつけられたのはこちらなので謝罪ではなく心配をするべきか、私の小さな脳みそを懸命に回転させる。

 そうして視線を前へと向ける。


 そこに居たのは私と同い歳くらいの女の子だった。

 赤色のサイドテールに、白い肌、碧の瞳が特徴的。概ね5歳児。なのにも関わらず溢れ出る清楚なオーラは彼女の絢爛さをより一層際立たせていた。この鬱屈としたむさ苦しい草が生い茂る中、可憐に、そして華麗に咲く一輪の花のようだった。


 「大丈夫……ですか?」


 べったべたになりながら、尻餅をついている彼女に声をかける。

 どこのお偉いさんの娘さんだろうか。知らんけど、ここにいる子供っていうのは大体超地位の高い人の子供である可能性が高い。男の子であれば、あわよくばフィーと縁談を……という計算で連れてこられている可能性もあふが、女の子に限ってはない。挨拶せざるを得ない関係だから来ていると考えるのが自然だ。


 「ええ、大丈夫です。ありがと――って、それはこっちのセリフです。申し訳ありません。こちらの前方不注意でぶつかったってしまって……」

 「丁寧ー!?」

 「なにがですか?」

 「ああ、いや。こっちの話です……」


 彼女は不思議そうに首を傾げる。


 「そうですか。それよりも大丈夫ですか? 今、お着替え用意しますね」

 「あ、いや、そこまでやってもらう必要は……」

 「今のは間違いなく私が悪かったのでさせてください」

 「え、いや、だから……」


 私の言葉など聞く耳を持たない。

 彼女は私の手首を掴んで、そのままぐいぐい引っ張る。

 されるがままな私はそのままこの大広間から外へと連れ出された。


 もしかして:誘拐

 誘拐 ではありませんか?


 と、この世界に転生してからずっと心の中に飼い続けていたG〇ogle先生とYah〇o先生が、〇ixivの曖昧さ回避みたいに誘導し続けてきた。

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