帰り道
北出たき
第1話
明かりの消えた図書館には一面陰が落ちているが、窓からは切れ切れの雲と清々しい青空が見えた。
赤ちゃんを抱いたり、机に座らせて足をいじったりしているとドアが開いた。振り向くとそこに佇むAさんと目が合った。Aさんが他の同級生にするのと同じように軽く笑顔で挨拶してくれて、私はそれに「お久しぶりです」と挨拶を返した。
ほとんど話したことはないが2年半好きだった人。一目見れた日は、その日一日ずっと幸せだった。廊下の奥から友達と歩いてくるのを見かけたときは、わざとその前を歩いた。視界に入りたくて、私の姿を認めてほしかった。
卒業式が終わって、今日が中学生活最後の日だった。意図せず言葉まで交わせて嬉しさで胸が温かくなった。
赤ちゃんを抱いて、石ころの敷いてある空き地に据えられた木製の椅子に座っていると、隣のテーブルにいたAさんが「〇〇さんも一緒に卒業旅行行こうよ」と話しかけてきた。彼の向かいに座る美月ちゃんに「いいよね?」と確認して「〇〇さん白いから体動かした方がいいよ」と言ってきた。
私の後ろにはバス停があって長い列が二列もできていたが、バスが来た時、二人ともそれに乗って行こうとした。
振り返ってこっちを見る二人を眺めながら、そんなこと言ってくれても連絡先も知らないからと思った。頭の中にLINEを交換する二人の手元が浮かんだ。本当は連絡先を知りたくて仕方がないのに、無言で二人の後を見送った。ネットストーキングして見つけたインスタのアカウントしか知らなかった。
帰ろうと思って、校庭の周りを高く囲む緑色のネットに沿って狭い道を歩いた。田んぼ一枚ほどの広さに草がぼうぼう生えたところに出た。そこを囲んだ低い土塀の上を歩いていると、反対側に佇んでこっちを見ている女の子が二人いた。二人はぴっちりと寄り添っていた。
帰り道 北出たき @kitadetaki
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