How does the garden grow? ー黒桜郷殺人事件ー

@Talkstand_bungeibu

第1話 桜

メリーったら 本当にへそ曲がり

あなたのお庭の様子はどう?

銀の鈴や 貝殻や

メイドたちが並んでいる


「…お客さん、本当に運がいいですよ」

車の外には噂に聞いていた桜の花びらが四月の風に乗って舞っていた。

ただ一点違った点はその花びらはインクが落ちたように薄めの花に黒い真鱈模様が浮かんでいるということのみだ。

「…はい?」

ぼーっと窓の外を落ちる花びらを見ていたせいで、聞きそびれてしまった。

「ちょうど、3日前までは咲いてなかったんだけどね、今年も無事桜が咲きましてな」

タクシーの運転手は流暢に喋ってくれていた。

「はぁ」

「お花見ですか?見たところ遠くから来られたんでしょ?」

「いや、アルバイトでして」

「あぁ、そうですか。じゃあお屋敷のお客さんですな」

「なぜお分かりに?」

「いやなに、黒桜郷はあのお屋敷の他には家もないもんで」

「…黒桜郷というのもやはりこの桜からついたんでしょうか?」

「その通り、この風土でしか咲かないものだそうですよ」

「ほぅ」

「綺麗なもんでしょう。なんて名前かご存じですか?」

「いえ。なんで名前なんです?」

「チゾメザクラ、ってんです」



初めて乗った車特有の嫌な匂いが車の中を満たしている。

「遠くから見たら黒く見えるんだが、よくやくみたら深い紅の色をしているんだそうで、それが乾いた血の色に似てるんだそうですわ。いや、名前をつけた人は趣味が悪い」

「確かに…」

「花言葉も教えてあげましょうか」

「花言葉?」

「桜にも花言葉があるんですよ。チゾメザクラの花言葉はね、『惨禍』というんです。どうです、これも不気味でしょう?」

「はは…。なかなか聞きなれない言葉ですね」

「ところがね、案外そうでもないんですな」


「先月ですか、今から行くお屋敷のご婦人が亡くなりまして」

「結構お年を召されてたんですか?」

「とんでもない、まだお若いです。殺されたんですよ。何者かの手によって」

「何者か…」

「それから数日後、妙な手紙が届いたんです。こんな内容だったそうです。」


拝啓


春の訪れを感じる頃いかがお過ごしだろうか

四年前の冬に大変世話になった者である

早速本題に入らせていただく

この地、黒桜郷には不釣り合いな花が目立ち

剪定が必要かと申し上げる

根腐れの起きる前に近日中にお目にかかる

くれぐれもお身体にお気をつけて


敬具


追伸 あなたの お庭の 様子は どう?


庭師 



「・・・」

「金釘流のキンキンした書き方でそう書かれていたそうですよ、お、そろそろ着きましたな」

車が止まる。


「ま、アルバイトもいいですが一番大切なのはご自身の身体ですからな。お気をつけて」

タクシーは黒い花びらと共に去っていった。


そうして僕は黒桜郷へと、足を踏み入れたのだった。

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