友達と恋人の違い(末っ子7)
夏目碧央
第1話 出所前夜
「そろそろ絞るよ~」
演劇訓練所を出所する日が1ヶ月後に迫った5月、“俺の”テツヤがファンに向けてこんな宣言をした。テツヤは兵士を演じる為にムキムキに鍛えたのだが、その後もなんだかんだムキムキのままだった。しかし、そろそろ仕事に戻る、つまりアイドルに戻るべく、体重を落とすというのだ。
俺らは7人グループのアイドルだ。そろそろメンバーは30代にさしかかってきたが、それでもアイドルだと言い張るつもりだ。6月にはデビュー12周年を迎える俺たち。アメリカに行っていたシン兄さん、マサト兄さんは帰国して仕事を再開している。ユウキ兄さんもリハビリを頑張っていて、6月には仕事を再開できる見通しとなった。宝塚の演劇訓練所にいるタケル兄さんとテツヤ、そして網走訓練所にいるカズキ兄さんと俺も6月には出所して、晴れて全員揃うのだ。
あと1カ月!あと1カ月でメンバーが揃う。そう、テツヤともずっと一緒に居られるようになる。この2年、遠距離恋愛をしていた俺たちも、いよいよ……。
そして1ヶ月後。俺とカズキ兄さんの出所より1日早く、タケル兄さんとテツヤの出所の日がやってきた。
朝から報道陣やファンが宝塚訓練所の前に群がり、生配信までされていた。未だかつて「アイドルの墓場」と言われる演劇訓練所を出る人が、こんなに注目された事があっただろうか。
俺も気になって、ついついその生配信を覗いていた。兄さんたちがいつ出てくるのか分からないのに、報道陣も、詰めかけたファンも、そして俺も、よくもまあ、熱心に。
「お、テツヤたち出てきたか?」
レッスンの休憩中、壁に背を付けて座ってスマホを覗いていたら、それをカズキ兄さんが上から覗いて声を掛けてきた。
「まだ。」
俺がそう答えるや否や、画面に動きがあった。タケル兄さんとテツヤが門から出てきたのだ。2人とも花束を抱えている。
「出てきた!」
思わず叫ぶ。中継カメラが兄さんたちをアップにした。お、おぉ、おおお!
「なになに、テツヤめっちゃ痩せたじゃん!」
カズキ兄さんが言った。ああ、笑っている。可愛い。でもシュッとしていてまた、増々イケメンに。
タケル兄さんがマイクの束を受け取り、挨拶をした。その横でテツヤはニコニコ笑っている。ファンとの約束を果たしたんだな。ちゃんと体重を絞って、いや、体重だけではない気がする。メイクはしていないのに、顔の状態がもう、すっかりアイドルだ。それに比べて俺は……。いや、タケル兄さんだって、カズキ兄さんだって同じだ。みんな普通になってしまって、まん丸な顔して。それなのにテツヤは。俺の……違う、俺のテツヤなんて言えない。こんな今の俺では、釣り合わない。横に並んだらあまりにも……恥ずかしい。
「俺たちも痩せなきゃな。」
カズキ兄さんが言った。まさにそれ。
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