渋谷の片隅で世界をみつめる

辻堂天音

第1話


 私は、今日も渋谷駅構内で何をするでもなく、行き交う人を眺めていた。

 

 私の汗とすえた匂いが原因なのか、ホームレスという私の存在自体がそうさせるのか、みな私を遠巻きに過ぎ去る。


 電車が到着し、扉が開くとみな我先にと降りる。


 電車はたくさんの人を乗せては去っていくを繰り返す。


 彼らは自分の意思とは関係ないかのように電車の中へ吸い込まれていく。

 

 自分の意思とは関係なく"ここに"流れ着いてしまった彼らと私、一体何が違うと言うのだろうか……。

 

 朝7時、背中を丸めた人々が、改札を抜けてオフィス街へ消えていく。


 かつては私もあの群衆の一人だった。

大きな歯車から外れて、もう何年経つだろう。


 ときに駅構内で、ときに公園で、ときに路地裏で一日を過ごす。

私はここ渋谷一帯を根城にしている。


 ふと、一人の男性に目が留まる。

彼は、電車を降りても駅のホームから一向に離れようとしない。

ーーなにやら不穏な空気が色濃くなっていく。


 たくさんの行き交う人々を見続けてきた私には、彼が次何をするのかがなんとなく分かる……。


 そこへ1台の電車がホーム内に入って来た。

男性が意を決して一歩前へ……。


電車の警笛がホームに響き渡る。


 私は彼の腕を掴みホームへ引き戻した。


 男性が私を振り返る。


「なんだ、きみは!」

「触るんじゃない」

汚い物でも見るように私を一瞥すると、彼は私を押し退け人混みの中へ消えていった。


 周囲の人々は一瞬こちらに視線を向けたが、すぐに何事も無かったかのように動きだした。


 私は泥で汚れたぼろぼろの手を見つめる。

 服はヨレヨレで、靴の先端は穴が空いている。


 みな私を遠巻きに通り過ぎる。


 人で溢れている駅のホームに私の周りだけぽっかりと穴が開いている。


 彼は大きな歯車から外れるため自らの命を断とうとした。

私は、大きな歯車であり続けることも、自らの命を断つことも出来ずここに、あり続けている。


 ふとたまに思う。

私はこのままで良いのだろうか。


私は今日も渋谷の片隅で答えの見えない答えを探し求める。

今はただひっそりと世界と言う名の人生をみつめている。

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渋谷の片隅で世界をみつめる 辻堂天音 @Chiyomame

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