アマクニの武器

 ルシフェルのメイド姿を堪能した後はアマクニの工房へと足を運んだ。

 工房といっても最低限の必要な設備が整えられているだけの部屋だ。

 工房へ着いて改めて思う。


「すまんな、最低限の設備で」


「いや、そんな事はないですぜ。炉と鍛治台さえあればなんでも作ってみせますよ」


「それは頼もしいな。では早速見せてくれ」


「はい。こちらになります」


 目の前に出された武器は剣が2本、短剣、大盾、棍棒の4種と最後に指揮棒?の様な細長いものが置かれていた。


「まず、剣と短剣、それから大盾と棍棒はそれぞれ、シュラとオボロ、棍棒はミカエルさんですね。残りの剣と大盾はゴーレムに」


「おお!どれもすごい出来だな。俺が作った物なんて比べ物にならないな」


「そんな事はないですぜ。これらの武器は全て旦那から貰った星屑鋼を使ってます。どんな素材かわからない中、旦那の作った剣はとても役に立ってくれました」


 それは良かった。ただ剣の形に削り出しただけの様な武器が役立つとは


「それにしても、よく星屑鋼が間に合ったな。そんなに大量には渡していなかったと思うが」


 アマクニに渡した星屑鋼の量は大体目の前の武器を半分作れるぐらいだったはずだが。


「そこはまぁ、俺のスキルですよ。俺のスキル:鉱石複製で足りない分は補いました」


「そういえば、そんな便利なスキル持ってたな」


 スキル:鉱石複製

 一度見て、特性や成分などを完全に理解した鉱石を複製するスキルだ。

 アマクニを召喚した時、これで鉱石に困らないと思った記憶があるな。割と重要なスキルを忘れていたとは


「スキルを使うにも旦那の剣は役立ってくれましたぜ。なんせ特性、内部構成、魔力伝導率なんかも理解しなきゃ複製できないんで。面倒なスキルですよ。…それと最後の杖なんですがね」


 最後の杖…指揮棒じゃなくて杖か、これ。確かに魔法使いは持ってるイメージかまあるな。


「この杖はルシフェルさん様に作った杖なんですよ。たださっきの話を聞いて即席で作った杖なんで、これはお試し用。要望があれば改良して本格的なものを後でつくりますぜ」


 お試しにしては大分しっかりしてるけど。


「ありがとうございます。アマクニ殿。新参者の私にこの様な素晴らしい杖をいただいて」


「い、いやいや」

 アマクニが照れた様に笑う。まぁルシフェルは美人だからな。仕方がない。


「この武器をアイツらに私に行くか。早く新しい武器に慣れないとだからな」


「そうですね」


「ではこの荷物は私が運びます」

 そんなことをルシフェルが言い出す。


「いやいや流石に一人じゃ無理だろ」


「そうですぜ。俺も運びますよ」


「お心遣い感謝致します。ですがご心配なく、魔法を使いますので。〈暗黒領域・限定展開〉〈影ノ御手〉」


 すると彼女の背後に闇が広がりそこから大量の黒い手が飛び出てきた。


「ぇえ!」

 思わず情けない声が出てしまう程の情景だった。


 黒い手はそれぞれ置かれている武器を手に取るとスルスルと闇に戻っていった。


「この様に私の魔法でしたら荷物の収納、持ち運びが可能なのです。…いかがなさいましたか?」


 俺があまりの衝撃に惚けているとルシフェルが声をかけてきた。


「いや、あまりにSAN値が減りそうな光景に…ちょっとばかし驚いただけだ。うん」


 目玉ミカエルに慣れていたからな。これくらいなら大丈夫だ。


 俺たちは実験場に戻りミカエル達にそれぞれ武器を渡した。


「よし、各々武器の性能を確かめてくれ」


「何か要望があれば対応しますぜ。なんでも言ってくれ」


 シュラとオボロは早速模擬戦を始めていた。…凄いという感想しか出てこないが。俺に戦闘の知識はないからな。


 ルシフェルも何度か小さな魔法を飛ばして杖の性能を確かめていた。


 ミカエルは何度か戦棍の握る位置を確かめると戦棍を上げ振り下ろした瞬間


 ドゴォン!!!!


 という大きな音と共にダンジョンの壁が一部砕けていた。


 …ただの素振りであんな事になるのか。


「ふむ。重く硬い、要望通りだな」


 納得がいったのかミカエルは満足そうな顔をしていた。


「ミカエルさんの武器は一番時間がかかりましたぜ。でもその分納得が得られたようでよかったぜ」


「何が要望通りですか。主様のダンジョンを破壊しているではありませんか」


 ルシフェルがミカエルに突っかかっていた。

 …別に少し壊れたくらい、たいした事ないんだけど


「何を言っている。ここは実験場、そして訓練場も兼ねている。元々、アヴィリル様より多少の破壊の許可は得ているのだ。貴様は召喚されたばかりで知らないのだろうがな」


 確かに許可は出してるけど言い方ってもんがあるでしょ。ミカエルも言った通り召喚されたばかりだし。


「…はぁ。仕方ない。お前たち今は武器の性能確認の時間だ。だからお前たちには喧嘩じゃなくて、性能実験を兼ねた模擬戦をしてもらう。これなら性能も見れてお互いの鬱憤も晴らせる。まさに一石二鳥」


「我々の不始末を許していただいたばかりか、そのような提案を。そのお心遣い感謝いたします」


「よし。そうと決めれば位置に…いやここじゃ狭いか。この際だ、ちゃんとした訓練場でも作るか。〈大広間作製〉〈外壁強化〉」


 実験場の隣に新しく広間を作った。外壁も土魔法で強化したからそう簡単には壊れないはずだ。魔力を結構こめたからな。


「よし、お前ら位置についてくれ」


 ミカエルとルシフェルは広間の中央あたりに移動した。


「お前ら準備はいいか?」


「「はい」」


「よろしい。では…始め!」


「〈火球〉」

 俺が合図を出した瞬間、ルシフェルから魔法が飛ぶ。


「ふん!」

 放たれた魔法をミカエルは戦棍を振り軽々弾き返す。


「舐められたものだな。この程度でやられるとでも?」


「いえいえ、そんなまさか。仮にも我々は種族は違えど同じ最高位種族。ただの挨拶ですよ。では…〈闇夜のヴェール〉〈岩槍〉」


 ミカエルの足元からいくつも岩の槍が創造され行動が阻害される。さらにミカエルの周辺に闇が広がり視界も奪われる。


「この程度の拘束!」


 ミカエルが力任せに槍を破壊しようとした瞬間、ルシフェルが畳み掛ける。


「〈焔閃〉」

 ルシフェルが軽く杖を振るといくつもの火球が現れその場で待機する


「連弾」


 待機状態だった火球から炎のレーザーが連続していくつも放たれ、ミカエルの目の前に迫る。


「くっ」

 迫るレーザーをミカエルは紙一重で躱わす。

 …だが次の一発は避けきれない


「〈剛力〉〈破壊効率〉!」

 一瞬のうちに判断したミカエルはスキルを発動する。


〈剛力〉〈破壊効率〉により強化された戦棍が本来砕けるはずのないレーザーを砕き、破壊する。


「流石ですね。では、これならどうですか?〈蒼淵〉」

 ルシフェルが声を掛けると同時に視界を覆っていた闇が晴れ、目の前に深海を思わせる大量の水が浮いていた。


「ハッ!」

 ルシフェルが杖を振ると大量の水をミカエルの頭上へ叩き落とした。


「〈聖域作製〉」

 ミカエルの足元に白い魔法陣が展開されていき光のドームを形成し〈蒼淵〉を弾いていく。


「やはり、いつまでも受け手に回っていては貴様には勝てないな。次は私も本気で行く」


「ぜひそうしてください。私も本気で参りますので」


 両者から今まで以上に魔力が放たれる。


「聖域纏装!」


 展開されていた聖域がミカエルの元へ集まり、眩い光と共に体を覆っていく。

 光が収まるとそこには、真白な祭服に身を包み、光の翼を生やし、頭上には王冠を思わせる光輪を携えたミカエルの姿があった。手には相変わらず物騒な戦棍が握られている。


 換装を終えたミカエルは一瞬にしてルシフェルの眼前にまで移動し戦棍による一撃を喰らわせる。


「〈滅葬〉」


「っ!〈岩壁〉!!」

 一瞬の出来事に反応が遅れたルシフェルはなんとか防壁を出したが、防壁ごと一撃をくらい外壁まで吹き飛ばされる。


「カハッ!」


「防壁で威力を殺したか。あの一瞬で魔法を間に合わせるとはな」


「…いえいえ、ギリギリでしたよ。…ですので〈暗黒領域・完全展開〉」


 ルシフェルの周囲から闇が広がり、数秒で闇は訓練場を覆い尽くす。


「〈闇喰〉」


 ミカエルの体から徐々に光が剥がれていく。


「この空間は私の領域。害あるものは全て溶けて消えてしまいます。それとこういう事も出来るのです。〈影従サーバント〉」


 領域から次々と黒い兵士達が出現しミカエルの元へと突撃していく


「この様な雑兵で私を止められるとでも!」


 ミカエルが戦棍を放り抜くだけで突撃した兵士達は簡単に消えてしまう。


「そんな事はないですよ」

 ルシフェルの言葉が静かに響く。


「〈冥閃〉」


 ルシフェルは隙をつきミカエルへ魔法を放つ。兵士の間をすり抜けていき、闇の刃がミカエルが反応するよりも早く頬を微かに傷つける。


 模擬戦はより激しさを増していく。



「えぇ…」

 まさかただの模擬戦でここまでなるとは。

 俺達は今訓練場の横に掘られた塹壕の様な場所にいる。


 ルシフェルの魔法をミカエルが破壊し、ミカエルの攻撃をルシフェルの兵士で抑えて隙を狙う。

 そんな一進一退の攻防が俺の前で繰り広げられていた。


 正直、性能テストとしては充分じゃないかと思うが。


「というか早すぎて見えないし。演算機さんが居なかったら何が起こっているか分からなかったな」


 演算機が俺の能力をフル活用して目の前で行われている激戦を解説してくれていた。感知の応用らしい。

 たまに飛んでくる瓦礫などはシュラやオボロ、ゴーレムが対処してくれている。

 俺とアマクニは完全にお荷物だ。


 だが

「流石にこのままだとまずいな」


 対処の追いつかない物も出てきたし。何よりダンジョン、訓練場が持たない。


 結構な魔力を込めて強化したはずの壁が徐々に崩れてきている。


『このまま模擬戦が続けば遠からず二人の魔力により崩落します』


「だよなぁ…どうにかして止めるしかないが」


 …どうしよう。



「〈聖滅ノ福音ゴスペル〉」

 その言葉を放つと同時にミカエルの背後に巨大な鐘が現れる。

 —ゴォーン—ゴォーン

 巨大な鐘が鳴り出すと目の前に集っていた兵士と共に、闇の空間が半分ほど消滅した。


 どうやら俺が悩んでいるうちに状況が進んだらしい。


 数秒、動きが止まったのち、二人が何事もない様に会話を交わす。


「良い加減、決着をつけねばなるまい。これ以上アヴィリル様をお待たせするわけにはいかん」


「そうですね。決着と行きましょうか」


 両者が見合う。


 一瞬にも数分にも思える静寂ののち——


 ——動く。




「〈聖壊ノ一撃ジャッジメント・ブレイク〉!」

 戦棍が光に包まれる。

 その瞬間、大気が軋み魔力が一点に収束する。


「〈虚界侵食イーター・オブ・ヴォイド〉!」

 消された闇が再び侵食を始めミカエルを呑み込もうと無数の手腕が絡みつく様に伸びる。


 ミカエルが飛び出し、ルシフェルの無数の黒い手がミカエルへと向かう。


 両者がぶつかり合う寸前。

 目の前に土の壁が競り上がる様に生成される。


「なに?」「これは」

 一瞬ミカエルとルシフェルが停止する。


「お前ら試合終了だ。結果は引き分け」

 俺が間に入ると不服なのか二人が意見してくる。


「アヴィリル様、私はまだやれます!」


「私もでございます。主様」


「お前らじゃなくてこのダンジョンが耐えられないんだよ」


 訓練場は壁や天井、床などあらゆる箇所が破壊されていた。


「それにこれはアマクニが作った武器の性能テストだ。二人ともよくやったよ」


「ありがとうございます。そのお心遣い感謝いたします」


「以後、やりすぎることがない様に致します」


 ふぅ。これで終わりだな。

「お前らも全力かは分からないが戦えてよかっただろ?お互いの強さも分かったしな。これからは出来れば仲良くこのダンジョンを、この俺を守ってくれ」


「「ハッ」」


「今後より一層の忠誠を貴方様に誓います」


「我らの命が消えようと、魂尽きるまでお仕えいたします」


 …思ったより重っかった。

 まぁ良いか。俺も二人の強さを知れたしな。やはり最高位種族は伊達じゃないな。

 アマクニが作ってくれた武器もこれだけの激しい戦闘に耐えられるとは予想外だ。



 …訓練場…直すか

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