第8話 宝物庫へ

 翌日、エレナとマーク。そして国の財務を管理している第4師団師団長、ルドミル・ウル・シーアの3人が宝物庫へと赴いた。


「うわー!ここが宝物庫かー!」


 エレナは、無邪気な子供のように宝物庫の扉の前へと走り出す。


「ちょっエレナ様!はしたのうございます!走るのはおやめください!」


「えー、良いじゃん!だって宝物庫だよ?ダイヤの指輪にサファイアのネックレス!全女性の夢だよねー!」


 目を宝石のように輝かせるエレナを見て、困った表情をするマーク。


「そういえば、他の師団長の人達はどうしたの?」


 エレナが不思議そうに聞くと、マークは答えた。


「彼らにも仕事がありますから」


 マークの答えに、ルドミルが付け加える。


「それと、宝物庫の開けかたは私と陛下以外に知ることは許されないので、3人で行くべきだと私が提案しましたマークは陛下の護衛と言うことで特別に立ち会いを許可しています」


「へー、そうなんだ」


 と、なんとなーく答えるエレナだったが、彼女の興味はそんなところにはなく。


「この先に、色んな宝物が……」


 期待を胸に膨らませ、エレナは宝物庫の扉の取っ手に両手をかける。エレナがゆっくりと扉を開こうとしたとき。


「お待ちください陛下。そのまま扉を開けば、陛下の両手は吹っ飛びます」


 ルドミルは眼鏡をくいっと持ち上げて言った。


「り……りょ、両手がふ、吹っ飛ぶ?」


 真っ青な顔で大量の冷や汗を垂らすエレナに、ルドミルは続けて淡々と答える。


「ええ、その扉は囮です。いつ誰が何時、この宝を狙うか分かりませんから」


 ルドミルはそう言うと、手のひらに橙色の魔方陣を浮かび上がらせる。


「マーク、一応宝物庫を開ける方法を知る事は、、国の財産を管理する私と王しか知ることを許されない。すこし目を瞑ってもらおう」


「分かりました」


 マークが目を瞑ると、ルドミルは宝物庫から十歩ほど、距離を測りながら後ろに下がり、足下に魔方陣をかざす。


「……ここか」


 ルドミルは小さく呟くと、足下の地面のタイルをひょいっと一枚持ち上げた。


「え!?どうなってんの!?」


 エレナが驚くと、ルドミルは表情を変えずに答える。


「宝物庫を開けるために必要なので、このタイルだけ剥がせるようになっています」


 そんなこと出来るんだ……と、村ではそんな仕掛け見た事がなかったために感心するエレナ。

 タイルがあった場所を不思議そうにのぞき込むと、そこには、緑の魔方陣が展開されていた。


 ルドミルは、魔方陣の解除をすることが出来る赤紫色の魔方陣を展開し、緑の魔方陣を解除する。


「これで、扉を開けても爆発しなくなりました」


「本当?じゃあ、もう宝物庫開けても良いの?」


 キラキラしためでルドミルを見つめるエレナ。


「ええ、どうぞ……マーク、もう目を開けても良いぞ」


「は……はい」


 ルドミルの指示を受け、マークが目を開けると、そこには宝物庫の取っ手に手をかけるエレナの姿があった。


「じゃあ、開けます!」




 ギギーッという音を立てながら、エレナはゆっくりと扉を開ける。


「わーーーっ!」


 美しい絵画。きらめく宝石の数々。黄金のアクセサリーの山……ではなく、そこにあったのは世界中からかき集められた名だたる武器の数々だった。


「……」


 ユーシア帝国が世界を支配していた頃は、力こそが価値だった。故に、宝石や金銀財宝よりも、強い武器こそをこの国の財産としていたところは、武力で世界を支配しようとしていたこの国らしいと言えるだろう。


「あれ、なんか想像とちが……」


 宝物庫の光景を見て固まるエレナの前に、ルドミルとマークが体をプルプルと震わせながら歩いて行く。


「これは……初めてこの宝物庫の扉を開けたが、素晴らしい、素晴らしいと思わないか、マーク」


 目をキラリと輝かせるルドミル。


「ええ、これぞまさしく宝の山……ルドミル様ほど武器の価値には詳しくありませんが、それでも、ここにある武器の価値がどれほどの物か、あの見事な刃を見るだけでもヒシヒシと伝わってきます」


 ルドミルは顔を真っ赤に染め、こぼれ出る笑みを必死に押さえながら言った。


「ゴホン、それでは、貴族達に売る武器の選定を開始する」


 いつもより少し高いトーンで宣言するルドミルに、エレナは言った。


「ごめん……私には分からないかも」



「宝物庫の武器の内、遺すべき二割を私が選定しました」


 王宮会議にて、ルドミルは、師団長達の前に宝物庫にあった武器の数々を並べた。


「おおー、」


 その場にいた全ての師団長達が、目をきらめかせた。


 エレナは女性である第2師団長のミルヴァと、第7師団長のリカ・マーフィーの表情をしれっとのぞき込む。


 他の師団長同様目を輝かせるミルヴァに、少しがっかりするエレナ。しかし、困惑した表情で武器を見つめるリカをみて、エレナは武器に興味ないのは自分だけじゃないことに安堵する。


「現在薬を大量に買い占めている貴族達の数は、およそ10。彼らの好みに併せて、売る武器を仕分けました。これを持って我々師団長が自ら赴き、貴族達と交渉を行います」


「私は、行かなくて大丈夫?」


 エレナが訪ねると、ルドミルは答えた。


「ええ、我々だけで十分です。そもそも、貴族の家は近所にあるわけではありません。全ての貴族の家を回っていたら、一体何ヶ月かかるか」


 今も尚、国民は病に苦しんでいる。そんなに時間をかける余裕はない。


「分かった……じゃあ、皆お願いします!」


 エレナは、師団長達に頭を深々と下げた。


 国王が部下に頭を下げる。それは、国王の権力を示す上であってはならないことだ。


 師団長達は、頭を下げたエレナの姿を見て、大きくたじろいた。


「エレナ様!軽々しく頭を下げるのはおやめください!」


 焦ってマークがエレナをたしなめると、エレナは、純粋な瞳でマークを見つめて言った。


「分かってる、マークの言いたいことは。何となく。私もしばらく女王をやって、ちょっと分かってきたから……でも私は、皆に何かをお願いするときは、身分に関係なく頭を下げたいの」


 エレナは申し訳なさそうに、皆にニコッと笑いかけて言った。


「私には、それしか出来ないから」


「そんな!……」


 そんなことはない。と、言いかけた言葉をマークは飲み込んだ。実際、エレナの言うとおりだ。エレナに出来る事は数少ない。


 だが、そんな何も出来ない女王が偉そうに権力を振りかざしていて、皆はそんな王に着いてくるのだろうか。


 もしかしたら、エレナの王としての魅力は、そんな飾らない所にあるのかもしれない。


「(だがしかし、飾らぬ王など、そんなことがあって良いのだろうか)」


 頭を悩ませるマーク。そんなとき、ドレッドはマークに声をかけた。


「マーク、このお方はきっと……新たな時代の王なのだ」


「新たな時代の……王」



 マークは、そんな飾らない王が納める世界を想像した。

 どんな身分の物とも分け隔て無く接し、国民と共に笑い合い、国民と共に悲しむ。決して、国を大きく引っ張っていく姿ではない……が、悪くないのかもしれない。

 国民のために力を尽くそうとしている。何よりも大切な思いは、持ち合わせている。


 今一度、マークは考える。新たな時代の王とは……何か。

 王の護衛たる自分のすべきこととは何か。


「陛下、度重なるご無礼、失礼いたしました」

 マークはエレナの前に出て跪く。

 そう、新たな時代。人々の価値観や考えがめまぐるしく変わっていくこの世界で、彼女を、受け入れること。

 決して変わらない、国民を守ろうとする彼女の心を、しっかりと見ること。

「え、そんな謝らないで!女王らしくない私が悪いんだし……」

 この無知な女王を守るのは、簡単なことではない。

 これまでマークは、既存の国民の頂点に立つ力のある王というイメージの枠にエレナを押し込むことで、ただの村娘という、力の無いエレナを、国民から守ろうとしていた。

 これからマークが守るのは、力のある王というイメージから外れた、彼女らしい等身大の新たな女王だ。

「女王らしく、私は貴方にそう言い続けました……たった今それを、全て撤回します」

 突然そう言い出したマークに、エレナは困惑しながら言う。

「ごめんね……マーク。ありがとう」

 マークの言葉を聞いたエレナは、師団長達に向かって再び頭を下げて言った。

「師団長の皆さん!……魔擦病に苦しむ国民のために、どうかお願いします」

 師団長達は、一斉にエレナに跪く。

「はっ!」

 ほんの少しだけ、エレナの表情はいつもより明るかった。

 王宮に来て初めて、マークが女王ではなく、エレナの護衛となった、安心感からなのかどうかは、彼女にも分からない。

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