消しゴム占い

シィータソルト

ジンクスは叶う……?

「好きな人の名前を消しゴムの一番後ろに小さく書いて、誰にも触れられず使いきれたら恋愛成就するんだって!!」

 こんな噂が、教室で流行っていた。私にも好きな人がいる。私は、春日井かすがい蒲公英たんぽぽ。小学生みたいなジンクスが、中学1年生になっても流行っていた。私も信じている節がある。現に、家で誰にも触れられないように、勉強を必死に頑張って削って消費している消しゴムがある。その消しゴムに刻まれている名前は、真夏まなつ向日葵ひまわりちゃん。小学生の頃、私の小学校の地区に引っ越してきて、今も同じ中学校に通っていて同じクラスでもある。私は、ひまちゃんと呼び、ひまちゃんは私をぽぽちゃんと呼ぶ。

小学生の頃はよく遊んでいたが、中学生になってから、部活が始まり、勉強も難しくなった。何より、ひまちゃんは名前の通り、明朗快活であり周囲には必ず誰かがいるほどの人気者であり、大人しめの私とは正反対である。よく、こんな私と仲良くしてくれたものである。



クラス同じだけど、全然喋らなくなったな……。それは、私がクラスに馴染めていないからである。ひまちゃんは小学生の頃から引っ越してきてもすぐ周囲の人と打ち解けられて友達作りが上手だったように、中学生になっても変わらずだった。

何か喋るきっかけがあればな……。



「来週、中間テストがある。初めてのテストで緊張するだろうが、テスト範囲は授業でやったところだから、普段から予習復習していれば問題ない。そして、今日からテスト期間となり部活が休止となる。各自、テスト勉強に励むように」



 担任の先生が、帰りのHRでそう伝えた。今日からテストかぁ。あ、でも消しゴムを消費するチャンス!! 良い点数も取って、恋も実れば一石二鳥だ!!

「ぽぽちゃん、一緒にテスト勉強しよっ!!」

「えっ!? ひまちゃん!?」

「え、何で驚いてるの??」

「だって……最近、喋ってなかったから……」

「そうだね、それはごめん。でも、ぽぽちゃんのこと除け者にしてたわけじゃないよ!! あたし、ぽぽちゃんとも喋りたかったけど、周囲に他の友達が集まってくるから、なかなか話せなくて……」

「ううん。ひまちゃんが悪いんじゃないよ。私がひまちゃんに近づけば良かったんだよ……」

 そう、こんな消しゴム占いにすがる程の意気地なしの私が近づくなんて……到底できないと思ってた。小学生の頃は、ひまちゃんから、私のところに来てくれてたから。そうしたら、また、ひまちゃんから私のところに来てくれた。消しゴムの効果……少しはあるのかな?

「それで、一緒に勉強してくれる……ぽぽちゃん?」

「え、私は全然構わないよ!! 私の部屋でしよう!!」

「う、うん。久しぶりだなぁ~ぽぽちゃんのお家」

 何故か、互いに少しギクシャクしながら、私の家への帰路に着く。

私が緊張するのはわかるけど、何故、ひまちゃんが緊張しているんだろう?

「わぁ~、ぽぽちゃんのお部屋変わってないね。整理整頓されていて、可愛い物で溢れていて……」

「うん……中学生にもなって幼いかなと思うんだけど、可愛い物が大好きだから」

「変わらなくていいと思うよ。それがぽぽちゃんの個性なんだから」

「お菓子と飲み物取ってくるね。待ってて」

「わぁ、ご馳走になります」

 私は家にあった、チョコレートのスナック菓子と、ミルクティーをトレーに載せて、部屋まで運ぶ。大丈夫、消しゴムは引き出しの中に隠してあるから、ひまちゃんが触ることはないだろう。あ、でも、テスト勉強中に使おうか? 隠しておこうか?……触ることないよね。ひまちゃんだって、自分の消しゴム持っているだろうし。

「お待たせ~」

「ありがとう。じゃあ、始めようか!!」

 ひまちゃんもやる気満々みたいだ。勉強に遊びに何でも全力全開だったもんなぁ。

 私も、引き出しから、ひまちゃんの名前が書いてある消しゴムを取り出し、ひまちゃんの隣に座る。そうすると、ひまちゃんが目をキラキラさせて、私の消しゴムに釘付けになる。

「わぁ、可愛い消しゴムだね、よく見せて」

「あ、ダメ!! 触らないで!!」

「え?」

 ひまちゃんは、私の消しゴムに触れてしまった。

あぁ……これで私の恋愛成就は叶わなくなった……

「もしかして……この消しゴムに好きな人……書いているの?」

「……う、うん」

「ねぇ、良かったら、あたしに教えてよ」

「えぇ!? そ、その……あの……」

 私は顔を熱くして、俯いてしまった。今、ひまちゃんと顔を合わせられないよ。見られてしまったら、どう思われる!? 気持ち悪がられる? 軽蔑される? 嫌われる? 悪い思考がぐるぐると堂々巡りする。

「もしかしてだけど……あたし?」

「!?」

 顔を思わず上げると、まだ消しゴムのケースに手をかけたままのひまちゃんがそこに座っている。

「ど、どうして見てない……のに……わかったの……?」

「あはは、なんとなくだけど、顔を赤くして照れてくれたから、あたしかなって自惚れちゃった。そうしたら、当たっちゃっただけだよ。でも、何であたし?」

「それは……小学生の頃から、ひまちゃんのことが好きで、友達としての好きが恋愛感情としての好きに変わっていったの……でも、気持ち悪いよね。私なんかが、ひまちゃんのこと好きになるなんて……私なんて、ひまちゃんにとっては、同級生の1人に過ぎないよね……」

 向日葵ちゃんはおもむろに、机の上の消しゴムを手に取る。

「ねぇ、ぽぽちゃん。あたし達、ニックネームで呼び合って、小学生の頃よく遊んだ程の仲だよ。今は、お互い違う部活だし、勉強も難しくなったけど、こうして、ぽぽちゃんのお家で勉強会するほどの仲なんだよ?」

「う、うん」

「私達の仲は引き裂かれてなんかいないよ。むしろ、互いに想い合っていたんだ」

 そして、ひまちゃんは、自分の消しゴムのケースを外して私に見せる。そこには、私の……春日井蒲公英の名前が書いてあった。

「私達、両想いだったんだね……。嬉しい」

「あのさ、ぽぽちゃん。2人共消しゴム使い切ったらさ、あたし達……付き合わない? このジンクス通りさ」

「うん。それまで、勉強頑張ろう。そうしたら……ひまちゃんとイチャイチャしたい」

「今は、これで……我慢する……」

 ひまちゃんは、私の手を握ってきた。小学生の頃は手を握って一緒に帰っていたというのに、あの頃とは意味合いが変わっている。

 小学生の頃の私に教えてあげたい。私の大好きな人は、友達よりさらに大切な人になったよって。

 あと、実は消しゴム占いにはもう1つジンクスがあるそうです。名前を書いた本人に消しゴムを触れてもらうことができれば、必ず恋愛成就するそうです……!!

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消しゴム占い シィータソルト @Shixi_taSolt

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