クレイジーワルツ

柊 来飛

プロローグ

 ええと、僕とお兄さんの出逢いですか?

 あっ、この「僕」は気にしないでください、小さい頃からこうなんです。女の子だからもっと「私」とか、「わたくし」とか、そんな可愛い一人称にした方がいいですかね?うーん、でも僕は僕だし、この方がしっくり来るっていうか…ああ、話が逸れましたね。あはは、そんな目しないで下さいよ。そもそも13歳に完璧な話のまとめを求めないでください。

 えー、結構遡りますね。とは言っても数ヶ月前ですけど。僕、家出した日があったんですよ。別に、電車に乗ってとか、自転車で遠くに行くとか、そんな大きなものじゃないです。ただ、家の近くの裏山に行ってそこで一晩過ごしてから帰るつもりだった、小さな家出です。理由?それはただの小さな反抗ですよ。僕も思春期で反抗期だし、13歳にもなって少し行動力もつきましたしね。

 まぁ、そこで僕は登ったんです。懐中電灯なんて持ってきてないから暗闇の中一生懸命に。そしたら、なんかザクザク音が聞こえるんですよ。土を掘って、掘って、頑張って掘ってる音が。ハァハァゼィゼィ息を切らして掘ってる人がいて、僕、その人が何してるか分かっちゃって。そう、人を埋めてたんです。死体ですよ、死体。その人は僕に気づいて、僕思ったんです。ああ、これ僕も死んだなーって。だって、すっごい大きなスコップ持ってたんですよ?こんくらいの。それで殴られて死ぬんだーって思ってたら、その人急にその場に倒れて。僕ビックリしちゃって、急いで駆け寄ったら、その人はもう全部諦めた顔して僕の方チラリと見た後ズルズル体引き摺って山を降りようとするんです。だから、僕は言ったんです。




   「僕も一緒に連れてって」って




 それが、お兄さんと僕の出逢いです。

 え?何でそこで警察に通報しなかったのかって?だって、そこで通報したら本当に殺させるかもしれなかったし、何故かその時は通報なんて行為は頭の片隅にもなかったんです。多分、お兄さんがあまりに美しすぎて。あはは、何言ってんだって顔ですけど、本当ですよ。だって、ニュースでお兄さんの顔が出た時もネットで顔がすごい整ってるって注目浴びたじゃないですか。僕もそれに当てられた一人なんです。あはは、人が死んでるのに笑い事じゃないって?そうですね、あはは、ごめんなさい。でも、お兄さんの話も聞きました?それ聞いたらそんなこと思えなくなりますよ、きっと。

 お兄さんとの関係?んー、何て言うんだろうなぁ。兄妹?では無いかなぁ。だって、兄妹は一緒にお風呂は入ってもキスとか、エッチはしないでしょう?え?そんな事をしたのかって?あはは、さて、どうでしょう。真面目に答えろ?だって、僕のそんな話聞きたいですか?聞きたく無いでしょう?ほらね、嫌な顔してる。僕とお兄さんの関係は誰にも説明出来ない、僕とお兄さんだけが理解できる関係、とでも言っておきましょう。

 ええ、知ってますよ。僕が直接手を掛けていなくても、それを手伝った僕も共犯で、犯罪者だってことはもう十分理解してます。反省の色が見えないとか言われても僕は分かりません。そもそも、あなた達がお兄さんを責める理由が分からない。誰だって、生きるためには犠牲が必要だと知っているでしょう?お兄さんはそのために殺したのに。僕たちだって家畜を殺して食べて、時には血を吸う蚊を叩き潰して、もっと言えば無害な蟻を踏み潰して殺してる。命は平等なんて言うのなら、人の命と蟻の命も同じでしょう?蟻一匹が人一人になっただけなのに。え?僕とお兄さんはおかしいから精神病院に行った方がいい?あはは、よく言われます、お父さんとお母さんから、クラスメイトと先生からも。えへへ、お兄さんと一緒、嬉しいなぁ。ああ、そんな顔しないで、頭を抱えないで、ほら、前を向いてください。え?僕のせいだって?それはすみません。

 嗚呼そうだ、これから僕はどうなるんですか?僕は13歳だから逮捕は出来ない?じゃあお兄さんと一緒に居られない?え?もう会うことは無い?そんなことないです、そんな事。本当だ?あはは、何言ってるんですか、僕とお兄さんが離れるわけ、離れられるわけないでしょう。お兄さんが刑務所から出ても僕とは絶対に会わせない?何でですか?それが警察のすることなんですか?ああ、そうなんですね、僕は貴方達の手間を増やしているらしい。何でしたっけ、こういうの。業務妨害って言うんでしたっけ、すみません。でもお兄さんとの面会は…ええ、それも禁止?そんなぁ、酷いですよ。はぁ、お兄さん…。何でそんなにお兄さんが好きなのか?決まってます、お兄さんは僕の全てですから。逆に、お兄さんの全ては僕です。僕たちは、相思相愛なんですよ。そう、純愛純愛。これから一生添い遂げるんですから、邪魔しないでくださいな。君と話していると頭が痛くなってくる、それもよく言われます。頭のネジが抜けてるとか、常識が無いとか、色々。でも、それもお兄さんとお揃いなんですよ、えへへ、嬉しいことです。

 これで話は終わり?ああ、もっとお兄さんのことを話したかったなぁ。特に有益な情報は得られてない?ならもっと話しましょうよ。え?これ以上話しても無駄だ?はぁ、分かりました、すみません、話しますよ。嘘じゃ無いです、本当に。すみません、ふざけ過ぎました。ええ、こればかりは本当に反省していますよ。お兄さんとの面会を許可してくれれば全て話します、お兄さんと一緒に。え?裏切るかもしれない?まさか、僕がお兄さんを餌にしてそんな事するとでも?ふふっ、信じてくれました?じゃあ面会はいつですか?明日?ええ、構いませんよ、ふふっ。お兄さんと会えるんだ、嬉しいなぁ。ええ、ちゃんと話しますよ。





   僕とお兄さんの逃走劇の全てを。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「お兄さん!」


「やぁ、元気かい?」


「はい!お兄さん、お兄さん!」


「ハハッ、ごめんね、今は撫でられないんだ」


 彼らはそんな会話を交わす。ここが刑務所じゃ無ければ普通の会話だったのだろうに、場所が違うだけでこんなにも意味が変わってしまうなんて。彼女は彼との面会を希望し、そこで彼と一緒に全てを話すと言った。彼もそれに了承し、今は特例の特別面会を開いている。普通、面会には制限時間が設けられるが、ここでしか情報が引き出せないと踏んだ警察は刑務所と手を結びこの場をほぼ貸切状態にし、なるべく多くの情報を引き出す作戦である。


「早く話してもらおうか」


「やだなぁ、せっかくの再会に水を差さないでおくれよ」


「情報を話すと言う前提で面会を許可している。話さないなら即刻中止するだけだ」


「嗚呼そんな。話すさ、話す」


 彼は長めの髪をサラリと靡かせる。その仕草だけでも浮世離れしていて本当に人間なのかを疑う美しさだ。しかし、それに負けていないのが彼女である。彼女は不揃いな髪型で服もお世辞にも綺麗とは言えない。それなのに彼と同等の何かを持っている。彼のような美しさや儚さでは無いが、純粋無垢すぎる、それに同等する何かを。


「さて、どこから話そうか」


「お前が殺した被害者との関わりからだ」


「ああ、そこから。でもそこからだと話しづらい。せっかく彼女もいるんだ、彼女の話を聞きながら俺も一緒に話すさ」


「じゃあまずお兄さんとの出逢いですね!」


「………はぁ、俺たちの精神が持てばいいが」


 先輩は難しい顔をして眉間に酔った皺を解す。皆は諦めたような顔をしながらメモを取る用意をすると、彼女は話し始める。






 「さて、では僕とお兄さんの逃走劇の開幕です」




 



     この狂気の物語クレイジーワルツの全てを。

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