第3話  恵子の場合③


山小屋は、「モンテ・ローザ」という名前で、多用途の休憩所の体裁。


内装は小綺麗。 シャワー室、図書スペースもあった。

大きな、ラブホ風のベッドがふたつあって、名前が「薔薇モンテ・ローザ」だから、実際にラブホにこんなのがあっても不思議でないかも…そう考えて恵子はちょっと笑った。


「この山小屋、ラブホ風だよな笑」

「思った思った。実際、このダブルベッド、何のためなん?」

「豪華すぎだよなぁ」

「ベッドだけ帝国ホテルなみやな」


茶髪マスターが、「雇われやからオレはよく知らんけど、宿泊設備が無いから、もし誰かがベッドが必要な場合に、大きめの保険で、大小兼ねてるんかな」

「よく知らん?」

三人はなぜかゲラゲラ笑った。


ウイスキーの小壜を回飲みしていて、見た目より発揚状態なのかもしれない。


 「お嬢さん、おひとりで登山? 心細くない? 」

 眉の濃い、精悍な男が話しかけた。

 恵子は、フルーツジュースをストローで啜っていた。

 三人はソファに座っていて、少し離れたテーブルに恵子が座り、直角に相対していた。 

 「ええ…だいたい単独行です。 ここもキャンピングカーで…住んでるのは東京の山の手です。 こう見えてお嬢様よ」 ちょっとふざけて微笑んだ。

 アルコールのせいで解放的なムードが伝染してたかも? 本来、わりと恵子は人見知りで寡黙だった。

 「ほお。 ホンマ綺麗で上品で都会的やわなあ。 ここで会ったが百年目…じゃなくて、千載一遇、奇遇、一期一会やね」

 「こいつ、酔っとるんやで。 気にしいなや」

 また、山男らしく豪快な哄笑が響いた。 恵子はすこし怯えた。 そのくらい大きな、野獣めいた声に聴こえた。


<続く>


 






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